第43話 狂気

 闇帝は狂気に満ちた剣により、腹部を突き刺されて血が噴き出している。


「なにを……考えているのです……ライト」


 元光の勇者であり現在は聖帝七騎士の一人、光帝ライトが闇帝の後ろで囁く。


「狩りをするなら獲物の隙を突くって基本だけど?」

「そういう事を……言っているのでは――」


 ライトは闇帝に突き刺した剣を乱暴に引き抜き、闇帝の背中に蹴りをいれると、地面に倒れた闇帝の顔を踏みつけた。


「お前のそのパッシブスキル、派遣のブラック仲介者カンパニーがうざいからだよ! 闇を食べる時はパッシブスキルが発動しないのは確認済みさ。俺はずっとこの時を待っていたんだ」


 ライトは闇帝を踏みつけていた足を、闇帝の腹部の傷口にねじこむ。


「痛い? 痛いでしょ?  痛いって言えよ!」


 何度も何度も闇帝の傷口に蹴りを入れるライトだが、闇帝は激痛に耐えて声をだそうとはしない。

 叫び声も鳴き声もあげない闇帝に舌打ちをするライト。


「やっぱり俺はお前が嫌いだ」

「こんな暴挙……御方に知れたら……ライトといえど……」


 闇帝の御方という言葉にライトの顔が醜く歪む。


「ざぁぁんねんでしたぁ! これは御方の許しをもらってやっているのさ。アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

「御方……」


 御方の許しをもらっていると豪語するライトを、闇帝は地面に這いつくばりながら激しい憎悪を込めて睨む。


「その目はなんなのかな? もうなんのスキルも使えない闇帝が、睨んだところでなぁんにも怖くないけど、ね!」


 ライトは闇帝の顔をまるでサッカーボールの様に蹴り上げる。


「ぐはぁっ……」


 吹っ飛んだ闇帝の元へ真顔になったライトがゆっくりと近づいていく。


「なぁんにも知らない役立たずのお前に教えてあげるよ。初めからこの戦いの目的は俺以外の聖帝七騎士を殺すことだったのさ」

「……」


 地面に伏しながら闇帝は黙ってライトの話を聞く。


「ただ殺すだけじゃない、敵と戦って死んだ魂が必要だったんだ。まぁ闇帝は俺が殺すんだけどね」

「魂レベルの……上昇……」


 ライトはパチパチパチと拍手をして、持っている剣で闇帝の頬を串刺しにした。


「俺が喋っているんだ。黙ってろよ」

「……」


 ライトはそのまま話を続ける。


「魂ってすごいよねぇ。魂が体のどこにあるのかは誰にも分からないのに、他者の魂を吸収すると力と記憶が手に入る。こんなに効率よくレベリングが出来る方法は他にはないよね」

「……」


 闇帝の意識が少しずつ遠ざかっていく。


「城にある魂吸引機、あれは死んだ聖帝七騎士を生き返すために御方がくれた訳じゃなく、俺のレベリングのためだったのさ。この戦場で死んだ全ての魂を俺が取り込む事で、あの化け物を倒す力を手に入れる。俺にとってお前たちはただの餌だったんだよ」

「……」


 体温も下がり始めて音も聞こえにくい闇帝はピクリとも動かない。


「あの化け物を倒したら俺は本物の『超越者』にしてもらえるのさ。人間界、魔界、神界を超えた世界で俺は勇者として魔王を倒す。永遠の存在となり矮小な人間たち、力を持ったつもりの傲慢な神さえも俺に平伏するんだ。っておい! 聞いてんのかむっつり野郎が!」


 ライトが闇帝の頬に刺した剣を乱暴に引き抜くが、すでに闇帝は静かに息を引き取っていた。


「なんだ、もう壊れちゃったのか。お前は嫌いだったけど、その闇の力を使えるのは楽しみだ。聖帝七騎士の魂はそろったし、城へ戻って魂を吸収して、俺はこの世界で最強の人間となる」


 ライトは特異能力スキルを使用して聖王国にある城へと戻った。



 ――――――――――



「すごい……。これだけの数の魂を吸収したら、御方ですら凌駕……は無理かな」


 城に戻ったライトは御方に託されている、魂吸引機の前に立って呟いている。

 吸引機の中には様々な色をした、人魂の様なものが大量に保管されており、大きさも色も輝きも一つ一つ違っている。


「これが具現化された魂、すごく綺麗だなぁ」


 具現化された魂はライトの腐った心にさえ、感動をもたらすほどに美しかった。


「あとはこの融合ボタンを押して、と」


 ライトはポケットからリモコンを取り出し、リモコンに配置されている融合と書かれたボタンを押す。


「あんなにあった魂が一つに!」


 融合ボタンを押すと魂吸引機の中に入っていた大量の魂が一つとなり、金色に輝く小さな魂へと変化した。


「最後に取り出し、と」


 リモコンの取り出しボタンを押すと、魂を保管しているガラスの様なものが開き、ライトは金色の小さな魂を手に取った。


「やっとだ、これであの化け物を倒せる。綺麗だからもったいないけど、早く力を手に入れたいという衝動が抑えられない」


 ライトは衝動に駆られるまま、金色の魂を一飲みする。


「あれ? なんの変化も――」


 突如ライトの体が金色に輝きだし、まばゆい光が室内を照らすと、ライトの頭に激痛がはしる。


「うわああああああ!」


 ライトが頭を抱えてのたうち回ると、金色の光は邪悪な漆黒の光へと変化して、痛みが消えたライトは不思議な感覚に見舞われる。


「この力……。アヒャヒャヒャヒャヒャヒャアヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! 勝てる! あの化け物に勝てる! でももっと欲しい、もっと魂が欲しい! そうだ、聖王国内の人間を皆殺しにすればいいだけじゃん。アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 誰もいない薄暗い室内に、狂気の声がこだました。

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