第42話 闇の声

 左後方の軍団長は元亜人族の自警団のリーダー、ホーク・ビリアーデと副軍団長に大鬼族オークの長アスモ・ダイアスがついていた。


 グレンとの地獄の様な特訓で使いこなせるようになった神をもゴッドオブ屠る豪斧ウォーアックスを振るうホークは、聖王国軍の脅威となっていた。


「こんな強いやつ、共和国戦でいたか?」

「俺は見ていないし、聞いた事もないな」

「あの亜人が振り回しているのは、元勇者様パーティのアルト様の武器だ。魔法が効かないのが厄介だな」


 前回の戦闘で活躍できなかったホークを、聖王国軍の兵士は誰も知らなかった。


「おらおらぁ! グレンさんのしごきはこんなもんじゃないぞ!」


 ホークは次々と聖王国軍の兵士を薙ぎ払ってゆく。


「俺は魔界の暗黒期を生き残った戦士。レベルと経験はホークさんにも勝る!」


 巨大な鎚をまるで釣竿を振り回す様に扱うアスモの前に、聖王国軍は次々と屠られていく。


 二人の破竹の勢いを聖王国軍は止める事ができず、二人の後ろにいる兵士たちの士気も異常に高いため、時間がたてばたつほどに聖王国軍の兵士の数は少なくなってゆく。


「それぐらいにして頂きましょうか。他の聖帝七騎士はライト以外やられてしまったようですが、私たちはまだ負けたわけではないのですよ」


 突如、アスモの巨大な影の中から闇を纏った騎士が出現した。


「他の聖帝七騎士がやられたって事は、お前で最後か。というか俺たちがやっぱり最後なんだな。勇者はジン様の獲物だから、お前を倒して聖帝七騎士は終わりだ」

「残念ですが聖帝七騎士の一人である、この闇帝とライトさえいれば聖帝七騎士は終わらないのですよ」


 闇帝は不敵に笑っている。


「ホークさん、こいつかなりやばい匂いがする。他の聖帝七騎士を倒した人たちに応援を頼んだほうがいい」

「分かってる! でも、俺は必ずジン様のお役にたつと約束したんだ! ここで引いたら死ぬのと同じだ! 他の兵士は撤退して他の軍団と合流しろ!」


 兵士を全員撤退させて、鼻息荒く神をもゴッドオブ屠る豪斧ウォーアックスを構えるホークを見て、闇帝は静かに笑う。


「ただの雑魚キャラが私に勝てるとでも? それは無理な話というものだよ」


 闇帝の言葉に巨大な鎚を振り上げるアスモ。


「なら! 雑魚の攻撃、受けてみろ!」


 アスモが闇帝に巨大な鎚を振り下ろすと、闇帝が纏っている闇が手の形となって、アスモの巨大な鎚を受け止めた。


「無理だと言っているでしょう?」

特異能力スキル! 猛斧旋風!」


 ホークが神をもゴッドオブ屠る豪斧ウォーアックスを横なぎに払うと、旋風が巻き起こり闇帝に向かうが、闇帝が纏っている闇が複数の手の形になって、闇帝を包みこみ旋風をいとも簡単に防ぐ。


「分からない人たちですね。あなたたちは私のパッシブスキル、派遣のブラック仲介者カンパニーだけで十分です」


 闇の手は闇帝の体へ戻り、アスモの巨大な鎚も離す。


「私は手をだしません。どうぞ、お好きに攻撃なさって下さい。そして絶望してください、絶望したあなたたちに芽生えた闇を美味しくいただきます」


 闇帝の言葉に怒った二人は怒涛の勢いで闇帝を攻撃するが、全て闇の手により防がれてしまう。

 闇の手は防御だけでなく、攻撃もするようになりホークたちを追い詰める。


「くっそ……一撃も当たらない……」

「あの闇の手のパンチも一発一発が重いうえに……的確に急所を狙ってくる……」


 攻撃をしているホークたちの方が激しく疲弊し、傷ついている。


「いいですよ。もっと、もっと絶望してください。ほら、少しずつ闇が漏れてますよ?」


 ホークとアスモの体から黒い瘴気が少しだけ流れだし、闇帝に吸い込まれるとホークとアスモはガクッと膝をついた。


「体が……重い……」

「鎚を持ち上げられない……」


 二人の体は自分の体とは思えないくらいに重くなっており、それだけではなく全身から力が抜かれた様な感覚におちいる。


「私は思うのだよ。闇こそが、生命力の源ではないのかと。怒り、憎しみ、恨み、妬み、悲しみ、苦しみ、恐怖、そして絶望。負の感情から生まれる闇こそが、生を全うしようとする力になる。私は闇を愛しているのだよ」


 負の感情から生まれた闇を吸われた事により、二人の生命力も闇帝に吸われていた。


「さぁ、もっとですよ。もっと絶望を! 闇を見せてくれたまえ!」


 闇の手によるラッシュがホークとアスモを襲う。

 一撃一撃急所に繰り出されるパンチは、完全に体を壊しにかかっているパンチだ。

 まず闇の手は執拗に二人の水月に連打を見まい、内臓を破壊するダメージを与えると、正中線を滅多打ちにした。


 もう二人は血を吐きだすサンドバッグと化していた。


「まだですよ、まだ足りません。まだ助かるかもといった希望が残っていますね? 全部です、全部を闇に染めて私に捧げるのですよ!」


 闇の手はホークとアスモの指を一本ずつ折っていく。

 打撃による攻撃から、痛みを与える攻撃に変化したのだ。


 二人の感情が全て闇に染まるまで、そう時間はかからなかった。


「ああ、私が愛して止まない純粋な闇です。真っ黒に塗りつぶされた感情、弄ばれた生命の闇が凝縮されている」


 二人の体から流れ出る黒い瘴気は、球状となりそれを闇帝が手に取る。


「あなたたちの闇は私の闇と融合して、永遠となるのです」


 闇帝は二つの闇が凝縮された球を口に入れて飲み込むと、


 腹部から剣が飛び出し鮮血が舞う。


「な……ぜ……?」


 腹部に突き刺さった剣をぐりぐりと動かされ、闇帝の腹部の穴が大きくなり、血も大量に噴き出す。


「なぜ? 言ってなかったかなぁ? 化け物の次に俺はお前が嫌いだってさぁ。アヒャヒャヒャヒャヒャアヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 ホークとアスモが横たわる静かな戦場で、狂気に歪んだ笑い声だけが大きく響いていた。

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