第36話 右後方の戦い
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右後方の三帝騎士団が率いる軍団は苦戦を強いられていた。
ある者は焼け死に、ある者は逃げ出し、ある者は戦意を喪失して茫然としているがそれは仕方の無い事だった。
聖帝七騎士の一人、竜帝と名乗る男が巨大なドラゴンに乗って現れ、ドラゴンの吐くブレスと竜帝の攻撃によって、三帝騎士団が率いる軍団が壊滅しかかっていたのだ。
「近衛の! あれはどうにかならんのか?」
帝国重装騎士団長は巨大な盾でドラゴンのブレスから、他の連邦軍の兵士を守っている。
「さすがの僕でも攻撃ができないよ!」
高速で空を飛ぶドラゴンに対する攻撃手段がなくて焦っている帝国近衛騎士団長。
「私たちの魔法もドラゴンの鱗を突破できません……」
魔法が全く通じない事に戦慄している帝国魔装騎士団長。
「ふむ、騎士団がいると聞いてここを預かったのだが、私の見当違いだったようだ。もうお前達に興味はない、ここで死にゆくがいい」
竜帝が連邦軍に興味をなくして指笛を吹くと、連邦軍の上空に竜帝が乗っているドラゴンよりもかなり小さいドラゴンが五体出現する。
「遊んでやれ」
「ギャーーーース」
竜帝の言葉に咆哮を上げるドラゴンたちはすぐには襲ってこない。
咆哮で震えあがる人間を見て楽しんでいるのだ。
「ドラゴンが五体? さすがにこれ以上はやらせないよ。魔装の兄ちゃん!」
「アレを使うんですね。もう一度言いますが、命の保証はできませんよ?」
「魔装の! 吾輩のもあるのであろう? さっさと渡せ」
二人の顔を見た帝国魔装騎士団長はクスリと笑い、
「全くあなた達と言う人は。ぶっつけ本番でこれを使うなんて、どうかしていますよ?」
帝国魔装騎士団長は帝国近衛騎士団長に首飾りの魔具と靴型の魔具、そして前魔王の武器の魔槍を改良した槍を手渡す。
帝国重装騎士団長にも同じく、首飾りの魔具と靴型の魔具を手渡し、魔王城の地下深くに眠っていた小さい盾を改良したものも手渡した。
「その首飾りは一時的に生命力と魔力を、自分の潜在能力の限界まで高めてくれますので、その呪われた武具と空を飛ぶ魔法を込めた靴型の魔具も使いこなせるでしょう。ただし、一時的に生命力と魔力は高まりますがそれはただの前借り、首飾りに返せない程の生命力や魔力を使ってしまうとその場で死にます」
帝国魔装騎士団長の言葉を聞いて、ニヤリと笑う帝国近衛騎士団長。
「命を懸ける、格好いいじゃん! それに僕はまだ死なないさ。戦の前にデートの約束いっぱいしちゃったからね」
帝国近衛騎士団長の軽いノリに、眉を顰める帝国重装騎士団長。
「まぁだ女のケツを追い回しとるのか? ちゃんと修練を積んでおれば、貴公はもっと強くなっておったのに」
「えー、でも僕の方が強いじゃん、イケメンだし」
「そ、それは若いからであってだな! 吾輩ももう少し若ければ……」
「重装騎士団長、それは言い訳になっていないのでは?」
首飾りの魔具をつけながら二人の話に入る魔装騎士団長。
「命を懸ける。近衛騎士団長が言うように格好いいですね」
「え? あ、やっぱりそう思うよね。魔装の兄ちゃんはもっと固いイメージだったけど、そっちの方が僕は良いと思うよ」
「魔装のまで毒されてしもうたか。常識人は吾輩だけになってしもうたな」
「ふふ、こんなピンチの中で能天気にお話しなんてしている、重装騎士団長も同じですよ」
三人は他愛のない話をしながら装備を整えた。
「じゃあいこうか。二人とも死なないでね」
「なぁに、若いもんにはまだまだ遅れは取らんわ」
「この戦いが終わったら、三人で一緒に食事なんてどうですか?」
帝国魔装騎士団長の言葉に二人の顔に笑みが見える。
「そうだね、じゃあドラゴンを一番多く倒した人に他が奢るって事で」
そう言うと帝国近衛騎士団長は、我先にとドラゴンの元へと飛んでいった。
「近衛のは相変わらずだのう。吾輩たちも行くぞ!」
「そろそろ名前で呼んであげてはどうです? お孫さんなのでしょう?」
帝国魔装騎士団長は、フルプレートで覆われている帝国重装騎士団長の鎧の隙間から少しだけ見える顔が赤くなっているのを確認した。
「なんだか気恥ずかしくてな、この戦いが終わったら考えるとするか」
「三人で食事と言いましたが、私は席を外しましょうか?」
「なにをばかな事を! ほら、早くしないと近衛のに先を越されるぞ!」
照れ隠しに大きな声を出した帝国重装騎士団長は靴型の魔具を使って空を飛び、ドラゴンたちの元へと向かった。
「あの二人には生きていて欲しいですね。いざとなればアレを使う事も検討しないと……。しかしその前にあの術式が早く完成してくれない事には、あの竜帝と戦う事もできませんね」
帝国魔装騎士団長も靴型の魔具を使って宙に浮く。
「なにはともあれ、あの五体のドラゴンをなんとかしないと全滅ですね。全滅してしまってはこの作戦になんの意味も無くなってしまう。それだけは避けなくては……」
少し出遅れた帝国魔装騎士団長だったが、魔具を使用するのは他の二人よりも圧倒的にうまいため、高速飛行でドラゴン達の元へと飛び立った。
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