第35話 女帝vsラミア
♢
女帝の前に立ちはだかるラミアの魔眼には、ぎらぎらとした怒りの炎が灯っている。
「あんたがここの司令官? さっきのよりは楽しめそうね」
「楽しめそう? 妾を愚弄しておるのか!」
怒りの炎がオーラとなり、ラミアが放つ灼熱のオーラは大地をも焦がす。
「下界にもましなのがいるじゃない。あんたにもハンデをあげるわ! あたしは右手を使わない」
「ガントレット、貴様は肉弾戦が好きなのか? ふんっ! 貴様の格闘術などままごと遊びと変わらんわ!」
「ままごと遊びかどうか、自分の目で確かめるいいわ!」
ラミアの方向へ女帝が拳で突きを繰りだすと、連邦軍の兵士たちを軽く屠った拳の風圧がラミアにも襲いかかる。
「これはなんだ?」
ラミアが軽く手を払うと、風圧が地面へと向きを変える。
向きを変えた風圧は地面に衝突して、地面には大きな穴ができあがる。
「へぇー。これならどう?」
女帝は突きと蹴りの舞をラミアに繰り出すが、ラミアは軽く手を払うだけで風圧の向きを変える。
「くだらぬ、いつまでこんな幼稚な事を続けるつもりだ?」
「じゃあ次は直接いくわよ!」
女帝はラミアとの距離を一気に詰める。
「左ストレート!」
風圧だけで兵士を屠る女帝の左ストレートも、ラミアは軽く手を払うだけで避ける。
「からの右上段――」
女帝の右上段蹴りよりも早く、ラミアのハイキックが女帝の顔に炸裂する寸前、女帝は右腕で顔をガードした。
ラミアのハイキックを右腕に受けた女帝だが、少し吹っ飛んだだけで傷一つついてはいない。
「その蹴り、あんたも格闘術使いね?」
「はんっ! 貴様のままごと遊びと一緒にするでないわ」
ラミアの言い草に苛立ちを覚えた女帝は、鎧の隙間からなにかを取り出した。
「右腕使えば勝てるけど、あんたには心底腹が立つわ。これを使ってあたしの最高の力であんたを潰すわ!」
なにかを飲み干した女帝から、さっきまでとはまるで違うオーラが放たれる。
「はああああああ!」
女帝が気合を込めると、装備していたガントレットが宝石と一緒に砕け散る。
「このガントレットと宝石は、強すぎるあたしの力を抑え込む為のもの」
女帝が拳を突き上げると、空に浮かぶ雲が切り裂かれる。
「あたしの
右ストレートの構えをとる女帝。
「確かに今の妾では防ぎようがない。今の妾ではな」
胸元から小さいクリスタルを取り出したラミア。
「魔王城にやっと入れるようになったのでな。戦いの前に取り戻す事ができたのだ」
「クリスタル? 魔法系統? そんなのではあたしに勝てないわ」
「お父様から封印されていた、妾の力がクリスタルに封じ込められておる。お父様は妾が怖かったのだ」
ラミアはクリスタルを砕いた。
「お父様には歴代魔王に伝わる、暗黒武闘術の使い手になる素質がなかった。だから魔槍などに頼って落ちぶれてしまったのだ」
砕かれたクリスタルから光が発し、ラミアの体の中へ光が入っていく。
「妾は歴代一の暗黒武闘術の使い手となる才能を持っておった。ゆえにお父様に力を封印されてしまったのだ」
ラミアの魔眼が今まで以上に光り輝く。
「さぁ、くるがよい。武とはなにか、妾が直々に教えてやろう」
暗黒の闘気を発するラミア。
「下界の民があたしに武を語る? 近接戦闘最強のこのあたしに? ――殺す!」
女帝の
「
手と足で綺麗に円の軌跡を描いたラミアは、女帝から放たれた右ストレートの風圧を右手で受け、そのまま円を描くように風圧を地面に叩きつけた。
風圧を叩きつけてからも、ラミアは手と足で円の軌を描き続けている。
「風圧でダメなら直接攻撃するだけよ!」
女帝はラミアにラッシュをかけるが、全て円の軌道にいなされ一撃もラミアに当てる事ができない。
「凄まじい力も当たらなければどうという事はない。暗黒武闘を使う妾に、もはや貴様の攻撃は効かぬ」
「防戦一方の癖に、調子に乗らないで!」
怒りも加わり女帝の攻撃が激化するが、やはりラミアに全ての攻撃がいなされてしまう。
「ミーシャ嬢の胸をえぐったのだったな?」
攻撃をいなしているラミアの目つきが変わる。
兵士たちが次々と屠られた悲しみではない、仲間が傷つけられた怒りでもない、純粋な殺意がラミアの魔眼に宿っている。
「
ラミアの純粋な殺意が込められた一撃必殺の拳が女帝に炸裂して、女帝の体に向こう側が見えるほどの大きな風穴が開く。
「あたしが……このあたしが下界の民なんかに……」
体に風穴が開いているのに女帝はまだ倒れない。
「貴様の罪は三つ、妾を愚弄した事、妾の家臣に無礼を働いた事、この二つは許してやらん事もない」
ラミアが両手を女帝に向けると、ラミアが放つ暗黒の闘気が両手に向かって収束していく。
「最強の名は妾の夫となられる、ジン・シュタイン・ベルフ様にこそふさわしい。貴様の様な凡愚が最強を名乗るなどおこがましいと知れ」
風穴が開いても倒れなかった女帝は、ラミアが放つ想定外の闘気に膝を地面につける。
「これほど……こんなのがいるなら……」
「死してあの世でジン様のお名前を広めるがよいぞ。
ラミアの両手から放たれた暗黒の闘気に飲み込まれた女帝は、一瞬にして暗黒の闘気の闇の中へと沈んでいき、闇の中からけたたましい爆発音が響き渡る。
暗黒の闘気はそのまま止まらず進んでいき、巻き込まれた聖王国軍も闇の中へ次々と沈んでは爆発音が連鎖していく。
ラミアから放たれた暗黒の闘気はとどまる事を知らず、聖王国の壁すらも飲み込んでいき、その闇は聖王国内にまで達する。
聖王国内に入り込んだ闇は瞬く間に聖王国を侵食していき、暗黒の闘気に触れた部分が根こそぎ削り取られていく。
「ああ、妾の功績はジン様にどれほど喜ばれるのでしょうか」
ジンに褒められている想像をしているラミアは、他の戦場ではまだ戦いが続いている事を少しだけ忘れていた。
「しかしこれほどの敵なら……他の軍団も確認せねばな」
ラミアがエポナたちを助けにきた同刻、他の連邦軍にも聖帝七騎士が襲い掛かっていた。
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