第34話 右前方の戦い
♢
連邦軍右前方の先陣を率いるのは、エポナとミーシャの軍団。
後方からはラミアが指示を出している。
エポナとミーシャは付き合いが長い事もあり、二人の巧みな連携の前に聖王国軍は押されていた。
「あのレイピア使いの青髪、共和国戦で暴れていた『青い稲妻』じゃないのか?」
「間違いない、もう一人の緑髪は王国中央軍を一撃で半分も壊滅させた『暴風の魔女』だ」
共和国戦で撤退した元王国軍の兵士と聖王国軍の兵士は、エポナとミーシャの事を知っていた。
先の戦いで活躍した者は、元王国軍、聖王国軍から恐れが込められた異名がつけられている。
「ダメだ! 俺達では止められない!」
「一般の兵士も強すぎる! なんなんだこいつらは!」
エポナ達の怒涛の攻めに引くしかなくなった聖王国軍に怪しい動きが見られた。
「ミーシャ! 女って書いた旗を持った軍団が動いたわ」
「ええ、見えています。恐らく敵の主力でしょうね」
聖王国軍の兵士達が道を空けると、女と書かれた旗を掲げる軍団が歩いてくる。
軍団の先頭を歩く女性の手には、金色に輝くガントレットが装備されており、各指には一つ一つ違う色の宝石が埋め込まれている。
「あんたたちが大将ね?」
ガントレットを装備した女性が声をだすと、その覇気にエポナとミーシャは一瞬だけ委縮してしまう。
「この気配……」
「どうやら元勇者パーティ以上の存在の様ですね……」
ミーシャの言葉にガントレットを装備した女性が手を横に振る。
「あんなのと比較するとかやめてくれない? あたしは女帝、聖帝七騎士の一人。素手での戦いなら聖帝七騎士で最強なのよ。最強のあたしが出てきた以上、あんたたちはここでおしまい」
女帝は両手のガントレットをぶつけ合うと、ガキンと金属音が響く。
「ここはあたしがやるわ。他の兵士は後方を潰してきなさい」
女帝の合図で聖王国軍はエポナ達を無視して、一斉に後方へと向かい出す。
「そんな簡単に行かせる訳ないでしょ、って言いたいところだけど」
「他に構っている余裕はありませんね」
エポナは通信魔法、内線でラミアに連絡を取る。
「ラミア姫! ごめんなさい、預けられている軍団をそっちに回せそうにないわ!」
「よい、後方は妾が引き受けよう。だが、死ぬなよ?」
ラミアの口からでるとは思えない言葉を聞いた二人は、女帝の前だというのにクスッと笑ってしまう。
「死ぬ気なんて全然ないわ!」
「誰がジン様と夜を供にするかも決まっていないのに、死ぬわけにはいきません!」
「ふふふ、こんな時にまでバカなことを。健闘を祈っている」
内線が終わると同時に女帝はまたガントレットをぶつけ合う。
「あんたたちでは物足りないけど、せいぜいあたしを楽しませてね。でも、このままじゃ全然面白くないからハンデをあげるわ」
女帝は右手を後ろに回した。
「右手が利き腕だけど、使わないであげる。どこからでもかかってきなさい!」
女帝の左手に、一般の兵士でも目に見えるオーラがまとわりつく。
「ミーシャの部隊は援護をお願い! 私達が前に出るわ!」
「みんな、エポナさん達に補助魔法を! 補助魔法をかけたらすぐに攻撃魔法、回復魔法の準備を!」
エポナたちに能力強化系統の補助魔法がかけられる。
「行くわよ! 突撃!」
エポナの部隊は声を出しながら女帝へと向かっていく。
「その士気がどこまで持つか、楽しみね」
エポナの部隊の一人が女帝へと接近する。
「オリャアアアア!」
連邦軍の兵士は手に持つ剣を大きく振りかぶり、全力で剣を女帝へと振り下ろす。
「バカな!」
女帝へと振り下ろされた兵士の全力の剣は、女帝の左手の人差し指と親指に挟まれて止められていた。
「どうしたの? ちゃんと振り下ろさないと、あたしは切れないわよ?」
女帝が少し剣へ力を込めると、兵士の剣は小枝の様に軽く折れてしまう。
信じられない光景に兵士は腰を抜かしてしまった。
「囲んで一斉に攻撃しないとダメだわ! ミーシャ!」
「分かっています! 弓隊、一斉掃射!」
ミーシャが矢を放つと、一斉に他の弓隊も矢を放つ。
「そんな玩具、あたしには通用しないわよ!」
放たれた矢の方向へ女帝が拳で突きを繰りだすと、拳の風圧で全ての矢が勢いを失い地面へ落ちる。
「弓がダメなら魔法でいきます! 攻撃魔法、一斉掃射!」
ミーシャの号令で魔法が一斉に女帝に向けて放たれる。
「魔法も、同じ!」
女帝が先ほどより強い突きを繰り出すと、拳の風圧がさっきのものより数段強力になり、強力な風圧が魔法までかき消してしまう。
「あたしを直接攻撃以外で倒せるのは御方しかいないわ。次はあたしから行くわよ!」
女帝がその場で突きを繰り出すと兵士の頭が吹き飛び、蹴りを繰り出すと兵士の体がひしゃげる。
連邦軍の兵士は懸命に女帝に近寄ろうとするが、女帝はその場から動くことなく連邦軍の兵士を屠っていく。
女帝の突きと蹴りによる舞は、一度舞うたび確実に連邦軍の兵士の命を奪っていった。
「このままじゃ……」
「
ミーシャは
「だから直接攻撃以外は無駄だってば。仕方ないわね、面白くないからもう死んでいいわよ」
女帝は手を手刀の形にして、真っ直ぐミーシャに向けて突きを繰り出す。
「ぐ……」
鋭い突きの風圧はミーシャの体を突き破り、ミーシャの胸から血が噴き出す。
「ミーシャ!」
そのまま地面へと倒れこもうとする、ミーシャの体を支えるエポナ。
「敵前でなにをやっているんだか」
女帝が蹴りを繰り出すと、ミーシャの体を抱えたままエポナは吹っ飛ぶ。
「全然ダメ、あんたたちじゃ満足できないわ。他のはどうしたの? 大将が瀕死だけど助けなくていいの?」
吹っ飛んだエポナの方へ歩いていく女帝を、連邦軍の兵士は見ている事しかできない。
しかし、見ているだけの連邦軍の兵士たちの後ろから、一人女帝へと向かう姿があった。
「なにをグズグズしておる、たわけどもが! 今すぐあの者達を回収せよ!」
怒声で我に返った連邦軍の兵士が、エポナとミーシャの元へ向かい、回復魔法をかける。
「妾の家臣に無礼を働いてくれたようだな。その報い、万死に値する」
怒りを隠そうともしていないラミアが女帝の前へと立ちはだかった。
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