第33話 Gの恐怖
「ありえへん! あの連打からどない脱出したんや!」
驚く邪帝の言葉に不思議そうな顔で答える。
「脱出? そもそも一撃も俺に当たってなどいないが?」
俺の当たっていない発言に動揺する邪帝。
「いや、当たってたやん! 思いっきりアゴにヒットした感触があるし、それに連打もフィニッシュも絶対に当たっとったわ! 嘘つくのもたいがいにせぇよ!」
「ただ早く動いてみただけって言っただろ? まぁ、初めてこんなスピードをだしてみたがな。ああ、そうか、昆虫だから耳が無くて聞こえないんだな?」
邪帝はありえるはずがない想像に行き着く。
「残像が質量を持っていたとでも言うんか? ええやん、ええやんか! あんさんはほんまにおもろいわ!」
邪帝はパチパチパチと拍手する。
「おもろいの見せてくれたお礼に、ワイのとっておき見せたるわ! 御方以外には止められへん力をな! せいぜい楽しんでや!
邪帝の体から無数の魔虫が剥がれ落ち、魔虫たちが共食いを始める。
共食いに生き残ったムカデの様な魔虫が、邪帝の体を貪ると今まで見た事の無い巨大な昆虫の兵士の様な姿へと変化した。
昆虫の兵士の右腕にはムカデの様な魔虫がうごめき、左手はクワガタのハサミの様になっている。
頭部はクモを思わせる形をしており、全身が昆虫の様に固い殻で覆われている。
「昆虫博物館みたいな奴だな。虫は嫌いなんだがな、まぁクモならGよりましか」
前の世界の工場のクリーンルーム内で働いていた時、防塵服に着替えてエアシャワーを浴びている時に、頭からGが落ちてきてパニックになった事を俺は思い出した。
エアシャワー内は密室であり、一定量のエアーが噴出されるまで扉は自動でロックされる。
扉が閉まった密室でGと遭遇する恐怖は、もう想像すらしたくない。
「オオオオオ!」
Gの恐怖を思いだしている俺に向かって、昆虫の兵士は右腕のムカデを伸ばす。
「虫、か。火なら効くか?
前魔王の四天王の一人、炎の魔神スルトから1S
火炎操作を発動した俺の両手に炎が灯る。
「やっぱり便利だな。強弱、形も思いのままに変化できる。ヨシ! とりあえず最大火力でぶっぱなすか!」
両手から巨大な火柱が放たれ、昆虫の兵士の右腕から伸びてきたムカデと衝突する。
「オオオオオ!」
しかし、ムカデは火柱に怯むことなく、俺の方へ向かってくる。
ムカデの牙が俺の体に触れようとした刹那、軽く横にかわしてムカデの首を掴んだ。
「その殻は属性に耐性を持っているのか」
少し力を入れるとボキリと音を鳴らしてムカデの首が取れて、ムカデの頭は地面へと転がり落ちる。
「オオオオオッ!」
「再生能力か。なんだったかな? ああ、一寸の虫にも五分の魂みたいなやつか?」
頭が無くなった首から、すぐに新しい頭が生えてきて襲いかかってくる。
「邪魔だ」
手刀であっさりムカデの頭が切り取れるが、またしてもすぐに首から頭が生えてくる。
「オオオオオ!」
次に昆虫の兵士は、左手のクワガタのハサミな様な左手を振り下ろして、真空波を発生させる。
真空波は地面と大気を鋭利に切り裂きながら高速で接近してくる。
「それも邪魔」
手刀を振り下ろし、昆虫の兵士が放った真空波の十倍もある、巨大な真空波を発生させて相殺させる。
「虫ごときに
昆虫の兵士から繰り出される攻撃を軽く避けながら、俺は
「ヨシ! 逆さだるま落とし作戦でいくか」
超高速で動いてGの頭部へと一瞬で移動する。
「まずは、頭!」
山をも砕きそうな蹴りを放つと、昆虫の兵士の顔が吹き飛ぶ。
「次、両腕!」
落下しながら一回転して踵落としを昆虫の兵士の両腕に決めると、次は昆虫の兵士の両腕が吹き飛ぶ。
「そして、両足!」
地面に着地した手を地面につけて、水面蹴りを放つと昆虫の兵士の両足が吹き飛び、体制を崩した昆虫の兵士は地面へ倒れこむ。
「最後、本体!」
一度飛び上がって手刀を振り下ろし、発生した真空波が昆虫の兵士の体を真っ二つになると、体の中から蛹の様なものが出てくる。
「でてこい、ゴミムシ」
そう言うと蛹の中から、邪帝が殻を破って這いずりでてきた。
蛹の中からでてきた邪帝は立ち上がることなく、そのまま両手を地面につけて額を地面へとこすりつける。
「あかんわ、あんさん強すぎやで……一生のお願いや! もう悪い事せぇへんから、命だけは勘弁してや!」
「ゴミムシを助けて、俺になんのメリットがある?」
邪帝の命乞いしている姿を、害虫を見る様な冷たい目で見下ろす。
「ワイはあんさんに言われたらなんでもするで! そうやな、他の聖帝七騎士の情報とかどうや? 全然ワイらの事知らんやろ? なんでも全部言うから、命だけはほんまに勘弁してや!」
情報を出すと言われても俺の冷たい目は変わらない。
「そうだな、お前の言葉を借りようか。お前、全然おもんないわ」
右手を邪帝に向けた。
「え……? そんなん全然笑えへんで。嘘やろ? 冗談やんな?」
「虫が好きなんだろ? なら、虫にでも転生しとけ。
「こんなん、こんなん全然おもんないわ!」
最後の言葉を言い残して邪帝は消滅した。
「さて害虫駆除もすんだし、進むとするか」
邪帝を倒した俺は聖王国の王城を目指す。
だが俺が邪帝を倒したころ、ラミア率いる連邦軍右前方にも聖帝七騎士の一人が現れていた。
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