第32話 邪帝

 聖帝七騎士の一人、邪帝と対峙する。


「いまいち言葉が良く分からんが、大した自信だな」

「そりゃそうや。ワイは他の聖帝七騎士とは一味違うでぇ」

「武器も鎧もない、そんなちんけな服装で騎士だなんて良く名乗れたもんだ。神経がどうかしているんじゃないのか?」


 俺の辛辣な言葉をハハハハハと笑い飛ばす邪帝。


「ワイには武器も鎧も必要ないんや。それと神経がどうかしとる言うのは当たっとるで」


 邪帝から凄まじいオーラがあふれ出す。


「まともに生きとったらおもんないやろ? 世の中、おもろいか、おもろないかの二択や。ワイの奴隷爆弾はどうやった? あれは傑作やったやろ! なぁんもできへんカスどもがプチプチ死んでいくんやで? もう笑いが止まらんかったわ」


 俺は邪帝の言葉に舌打ちをして、


「ライトに匹敵するクズを初めて見たぞ。もう喋るな、特異能力! 万物を砕くクリア王者の矛ランス!」


 無数の透明な槍が空中に出現し、出現した槍が邪帝へと飛翔して、その音速の槍は邪帝の体を貫いた。


「笑いが分からんやつやなー。怪我したらどないすんねん」


 自分の体を貫通している透明な槍を、何事もなかったかのように一つ一つ抜いていく邪帝。

 平然としている邪帝の体からは一切血がでておらず、血の代わりに虫がボロボロとこぼれ落ちる。


「まぁ話しにきたわけちゃうからええか。笑いが分からん奴は……死んどけや!」


 邪帝が指さすと、邪帝のオーラが黒い霧状になり襲い掛かってくる。


「2S! 安全Safeエリアarea


 絶対防御シールドを張って、迫りくる霧を防ぐ。


「虫? オーラを一つ一つ虫に変化させたのか?」


 迫りくる霧の正体は、数えきれない程の虫の大群だった。


「ちょっとちゃうなー。ワイはよこしまなる虫どもを使役できるんや。ワイのオーラを餌に神界から呼び出したんやで。どや? すごいやろ?」


 ドヤ顔で自分の能力を喋る邪帝。


「虫使い、か。お前の様なゴミクズにはもってこいだな」

「ちんけな下界の民のカスが、ワイをゴミクズ呼ばわりするとかビックリするわ。『超越者』やからって調子に乗んなよ!」


 邪帝が右手で中指を立てると、黒い霧が邪帝を覆っていき邪帝は姿を消した。


「転移? 瞬間移動? めんどうだな、特異能力! 安全Enemy確認check!」


 特異能力の安全Enemy確認checkと、ユニークスキルの工場作業員の矜持により獲得したパッシブスキル熱源サーモ探知グラフィーと、KYT危険予知を合わせた完全守護領域を展開する。

 完全守護領域を展開した俺には、もはや赤チン災害すらありえない。


「ここにはいない、か。一度どこかを経由する系統の特異能力とみた。なら、あのゴミクズがしてくる事は決まっている」


 なにかを察した俺は横へ大きくステップする。

 ステップした直後、さっきまでいた位置の真上から邪帝が姿を現した。


「うそやん! 魔異動虫マドギワムシとのコンボでもあかんのか?」


 攻撃を察知されて、奇襲をかわされた邪帝が驚きの声を上げる。


「初見でこれ避けたんはあんさんが初めてやで。あかん、おもろなってきてもうた。もうアレ使うわ、ワイも使うん初めてやから、どないなるかわからんけどな」


 邪帝はポケットからなにかを取り出し、一口で飲み干す。


「お、お、おお! これはすごいで! こっちでもこの力が使えるようになるんやな」


 なにかを飲んだ邪帝のオーラが異常なほどに膨れ上がる。


「こっからや、こっからおもろなるで! 特級特異能力エキスパートスキル! 獄潰Darkしのinsect頂きmaster!」


 邪帝の膨れ上がったオーラが真っ黒な霧となり、邪帝の体をまるまる包み込む。


「これや、これやで! あんさんには悪いけど、五体満足で死ねると思わんといてや」


 黒い霧の中から出てきたのは、異形な姿をした人型の昆虫を思わせる邪帝の姿だった。


「人間界でワイのお気に入りの、魔虫を使えるんはテンション上がるわ。人間界で使える力はだいたい六十パーセント、魔剤のおかげで今のワイは、百二十パーセントの力が出せるんや」

「ゴミカスがゴミムシに変わっただけにしか見えないが?」


 話し終わると同時に、フッと邪帝が姿を消す。


「今のが見えたか? ワイと魔異動虫マドギワムシとのスーパーコンボや」


 瞬きする間より早く俺の後ろに回り込んでいた邪帝。


「見える、見えないは俺には関係ない。ゴミムシがいくら素早くても、俺を倒す事は不可能だ」

「ゴミカスが言うてくれるやん。ほな、いくで! ハイパーコンボや!」


 邪帝はそのままゆっくりとその場で軽く飛び上がる。


 邪帝が飛び上がった事を確認した直後、邪帝の姿はまたしても一瞬で消えた。


 今度は消えたと同時にの足元に現れ、アゴに邪帝の鋭いアッパーが繰り出され、そのまま上へ吹き飛ぶ。


 吹き飛んだ俺を追いかける様に飛び上がった邪帝は、一撃一撃が必殺となる様な重く激しい連打を見舞ってきた。


 連打の最後、邪帝はその場で一回転して、遠心力のかかった踵を俺の腹部にぶちこみ、空中で強烈な踵落としを食らった俺は、ものすごい勢いで地面へと叩きつけられ、地面と衝突した爆音が発生して、地面が衝撃を受けた事によりクレーターができる、はずだった。


「今のが見えたか? ただ早く動いてみただけだがな」


 俺は無傷で邪帝の後ろに立ってクククと笑った。

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