第31話 残酷


 聖王国はそれぞれ旗印が違う五個の大きな軍団を、聖王国前面に配置しており共和国でラミアが采配した、鶴翼の陣に似た配置である。

 対する連邦軍も同じく五個の大きな軍団を、魚鱗の陣に似た配置で聖王国の鶴翼の陣に向けて、突撃を開始した。


 連邦軍の魚鱗の陣の最前線の軍団長は前魔王が転生した亜人である、グレン・マーク・サーベイン。


 左前方の軍団長は人間界最強の魔法使いの一族である、スカーレット一族当主のナタリー・スカーレット。


 左後方の軍団長に元亜人族のリーダー、ホーク・ビリアーデと副軍団長に大鬼族オークの長アスモ・ダイアス。


 右前方の軍団長を務めるのは前魔王の娘、ラミア・デ・ルシル。

 副軍団長を二名置き、猫耳の亜人の長、エポナ・ルールーと森妖精族エルフの長、ミーシャ・シャーレット。


 右後方の軍団長に立候補したのが、連邦帝国三帝騎士団最強の騎士、帝国近衛騎士団長。

 右後方には帝国、元王族の人間が多い為、副軍団長は三名を置いている。


 一人目に連邦帝国騎士団最硬の男、帝国重装騎士団長。

 二人目は人間界で魔具の開発に初めて成功した、帝国魔装騎士団長。

 三人目には連邦王国第一王女、アーシェラ・パステルティファ。


 連邦軍が突撃していく中、ジンは内線を聞きながら徒歩で聖王国内の城を目指す。


 まず中央前線グレン軍と、聖王国の剣の旗を掲げた軍団がぶつかったが、聖王国の最前線の兵士たちは鎧も何も装備せず、足枷だけをはめていた。


「俺達は無理やりここへ連れてこられたんだ!」

「私たちは奴隷組織にさらわれた奴隷なんです!」


 聖王国に奴隷とされた人々が口々に殺さないでくれと叫ぶ、中には五歳ぐらいの子供の姿も見える。

 奴隷にされた人々の姿と叫びを聞いた連邦軍の兵士の勢いが止まる。

 聖王国の人間といえども、無抵抗な人間を殺す悪魔は連邦軍にはいない。


「我々の目的は悪魔の殲滅、敵意のない人間は放っておけ」


 グレンの言葉で連邦軍の兵士たちは進撃を再開するが、その足取りは非常に重たい。

 連邦軍の兵士が奴隷たちの横を通って進んでいくと、奴隷の一人が騒ぎ始めるのを連邦軍の兵士たちは目にした。


「な、なんだ、体が、からっ――」


 騒ぎ始めた奴隷の一人が急に爆発して、周りの連邦軍の兵士たちを巻き込んだ。


「え? え?」


 戸惑う奴隷たちと兵士たちを嘲笑うかの様に、奴隷たちは次々と爆発して連邦軍の兵士たちを巻き込んでゆく。


「こいつらは本当に悪魔なのか……。グレン軍、奴隷たちから距離を取れ」


 グレンが距離を取る命令を出したところで、奴隷爆弾隊が他の連邦軍とも衝突して混乱が広がっていく。

 地獄の様な光景の中、グレン達でさえどうしたらいいのか分からない状況に、ジンが冷静に指示を出す。


「全軍の範囲攻撃、範囲魔法を持つ者に告げる。敵最前線の敵部隊に向けて一斉攻撃、痛みも無く一撃で葬れる自信がある者だけでいい。早くし――」

「っっ! ジン様! それはあんまりだわ!」

「猫嬢、ジン様の命に背こうというのか?」


 ジンの命令を遮るエポナにラミアが怒りをあらわにする。


「ジン様の原点復帰なら……奴隷たちを助けられるでしょ!」

「間に合わん、今すぐに攻撃を開始。これは命令だ、二度は言わんぞ」


 ジンの命令で連邦軍は奴隷たちに範囲攻撃を開始した。


「どうして……どうしてよ……ジン様!」


 エポナの叫びがこだまする戦場から、奴隷たち人間の姿は一瞬で戦場から姿を消した。


「先の攻撃で疲弊した者は一度下がって回復、それ以外はそのまま戦線を前に上げろ」

「ジン様!」

「なんだ? 今は中々に忙しいんだがな」

「人間だから? 人間だからあんなに簡単に命令したの?」

「そうだ、人間だからこそ命令した」


 さすがのラミアもジンの真意が読めず、エポナの言う事を止めようとはしなかった。


「もう一度言うぞ、人間だから、だ。そこにあるのは人間の奴隷たちの死体か?」

「え?」


 エポナが煙が晴れて見えるようになった、奴隷たち人間の死体を確認すると、そこには人間の死体はなく黒い虫の様なものがうごめいていた。


「作業基準書が言うには、それは魔蝕虫シャナイニート。神界の闇の穴にある煙の洞窟キツエンジョに生息している虫だ。そいつに憑かれると、人間は少しの衝撃、少しの心の動揺で爆発する闇の魔物へと変貌する」


「――なんてひどい事を」


 ジンから真相を聞いたエポナの目から涙がこぼれる。


「ジン様……その……ごめんなさい」


「いつも通りせっかちなやつだな。作業基準書に確認していたから、お前達に説明をしている時間がなかったんだ」

「こんな事をするやつは絶対に許さないわ! 私が絶対にあの奴隷たちの仇を取る!」

「仇、か」


 エポナの仇討ち宣言を聞いてジンは小さくつぶやく。


「どうやら、敵討ちは無理みたいだぞ」

「え? それはどうして……?」

「多分だが、その魔蝕虫シャナイニートを仕込んだ奴が目の前にいるからな。悪いがこいつは俺が貰うぞ」


 ジンの前に立っている、鎧を装備していない男が口を開く。


「さっきからえらい余裕やん。だれと話してんのか知らんけど、ワイがなんであんさんの前にきたと思うてるん?」

「さぁな、死ににきたんじゃないのか?」


 関西弁の男は怪しく笑う。


「ええやん、気に入ったわ。聖帝七騎士の一人、この邪帝様があんさんをぶち殺したるわ」

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