第25話 戦いの後

 業者ゴッド対応メンテナンスを受けたライトの、能力値ステータスは全て1となっているのに、ライトはひたすら笑っている。


「これで勝てると思った? 勇者である、この俺にさぁ!」


 ライトの企みを見抜いていた俺は、静かに声を発した。


「やはり分身体、本体はどこか遠くで優雅に見物、か。相変わらず卑怯な奴だな」


 その通りだと笑うライト。


「その超級特異能力エキスパートスキルにもなにか対応をしないといけないね。となると他の聖帝七騎士にも、本物の魔剤を使う必要がありそうだなぁ。やる事いっぱいだし、この辺で撤退するよ。じゃ次は殺すから、化け物」


 そう言い残してライトは姿を消し、地面に落ちている魔剣は粉々に砕け散った。


「聖帝七騎士、まとめて俺がぶっ潰してやるよ」


 ――――――――――

 ♢


 こうして共和国防衛戦は共和国と帝国の連合が勝利を収める。

 帝国騎士団、共和国軍には大きな被害がでるも、ジンの4S現金soul払いのis給料日moneyで全員復活を遂げた。

 死亡当日なら完全復活できるジンの4Sを、帝国騎士団にも使用したのはエポナ達の強い願いに応じたからだった。


「騎士様! 槍の騎士様!」


 ミーシャをかばって死亡した、帝国近衛騎士団長がミーシャの膝の上で目を覚ました。


「あれ? おかしいな、天国にもこんな綺麗な森妖精族エルフのお姉さんがいるなんて……それに膝枕? ここが天国なのは間違いないから、このまま寝ていても別にいいよね」

「槍の騎士様ったら……」


 頬を伝って流れ落ちる涙を、綺麗だなと見ている帝国近衛騎士団長。


「あ、あのお願い考え直してくれた? 結構いいところ見せれたと思うんだけどな!」


 ミーシャがスクっと立ち上がると、帝国近衛騎士団長はそのまま地面に頭をぶつけた。


「私には既に心を捧げたお方がいますので。それでは、失礼します。ジン様に報告しないといけませんので」

「えええ! 文字通り命までかけたのに、そりゃないよー」


 せっかく怪我も全部治った帝国近衛騎士団長は、頭に出来たコブをさすりながらミーシャを追いかけた。


 ――――――――――


 同刻、帝国重装騎士団長が目を覚ます。


「吾輩は……」


 死んだはずの自分が生きている事に驚く帝国重装騎士団長。


「ジン様が助けてくれたのよ。感謝しなさいよね!」

「重装騎士団長、あなた達は偉大なるお方、ジン・シュタイン・ベルフ様によって命を救われたのです。後で近衛騎士団長も連れてお礼に伺いましょう」

「猫耳の嬢ちゃん、それに魔装の……」


 命を救われたと言っても、生き返った実感が湧かない帝国重装騎士団長だったが、自分の体を見渡しても全く傷が無い。

 辺りを見渡すと戦士、アルト・ウォルターによって殺された騎士団の面々が見える事により、ようやく生き返った事を実感する。


「死んだ魂どころか、損傷した肉体まで元通りとは……。陛下が絶対に敵対してはならぬとおっしゃるわけだ」

「ジン様のご慈悲に感謝するのね。あと、一応だけど助けようとしてくれてありがと」


「いや、吾輩は結局なにも守れておらん。礼など不要だ」

「重装騎士団長、そんな言い方は命の恩人に対して失礼では? 彼女たちが泣きながらジン様に懇願してくれたお陰で、今あなたは生きているのですよ? 騎士団の長ともあろうお人が礼儀を欠くのはいかがなものかと」


 魔装騎士団長の言葉に帝国重装騎士団長は目を丸くする。


「そうか、そうでしたか。先ほどの無礼をお詫びします」


 帝国重装騎士団長は深々と頭を下げる。


「べ、別にいいわよ! 感謝してもらおうと思ってやった訳じゃないし! ただの人間にしては強かったし、少しだけしか一緒に戦ってないけど戦友みたいなものじゃない。それなのにあんな死に方されたら夢見が悪いからよ!」


 少しだけ頬を紅潮させながら、エポナはそっぽを向いた。


「これまたご無礼を承知で聞かせて頂きたいのですが、あなたのお名前は?」

「私はエポナ・ルールー、魔界ではジン様の右腕だったんだからね! 馴れ馴れしくしないでよね」

「エポナ・ルールー様、騎士団を代表してお礼申し上げます」


 帝国重装騎士団長がお辞儀をすると、帝国魔装騎士団長もエポナへお辞儀をする。


「べ、べ、別にいいって言ってるでしょ! あーもう! ジン様の所へ行くんでしょ? 失礼があったらいけないし、仕方がないから私も一緒に行ってあげるわ。ついてきなさい」


 なぜかプンプンと怒っているエポナの後ろを帝国騎士団長の二人は歩き、よみがえった騎士団員も連れてジンの所へと向かった。


 ――――――――――


 同刻、俺はグレンとホークと話をしていた、


「さすがにグレンは強いな。戦士長に選んだのは間違いない様だな」

「ハハッ! お褒めに預かり恐悦至極に存じます」

「ジン様! 俺も頑張ったんですよ!」


 ホークの発言に少し眉をひそめる。


「元自警団のリーダーとしては、な。その薙刀を見せてみろ」


 ホークは自分が持つ薙刀を俺へと手渡した。


「この薙刀、俺がやったやつだが、手入れした事ないだろう?」


 ギクッと音が聞こえそうなぐらい戸惑うホーク。


「その……戦があるなんて思ってもみなかったものですから……」

「あのなぁ、元自警団なら平時でも武器の手入れを怠るな。いつ何時なにがあるかなんて誰にも分からないんだ。こんな熱も魂も無い武器などすぐに壊れるぞ? ほら」


 ほらと言って薙刀に力を込めると、薙刀は豆腐の様に崩れ去った。


「ああー! 俺の、ジン様から貰った大切な武器が!」


 豆腐の様に崩れ去った薙刀を、ホークは泣きながら必死でかき集める。


「ほら、これをやろう。今度は大切にするんだな」


 泣いているホークに斧をそっと手渡した。


「こ、これは神をもゴッドオブ屠る豪斧ウォーアックス! いいんですか? こんな俺なんかがこの様な武器を……」


 俺は小さくため息をついて、


「武器は使ってこそ、だ。その武器を持てば少しは役に立ってくれるよな?」

「はい! 命に代えましても! 必ずやジン様のお役に立ちます! ですが……」


 武器をもらってはしゃいでいたホークが少し口を閉ざす。


「もうこの様なおおきな戦はないでしょうから、いつお役にてるのか……」

「ん? やるぞ、戦。あの下衆勇者は退治しないとな」

「ジン様、次の獲物は聖王国で御座いますね?」

「ああ、その前に王国へ赴くが少しだけ帝国の皇帝にも話がある。その間だけホークを鍛えてやってくれるか?」

「御意」


 二人の会話に素っ頓狂な声を上げるホーク。


「ええー! グレンさんにしごかれるんですか!」

「口を慎め、ジン様の指示だ。さぁ来い」


 首根っこを掴まれ連れていかれるホークを、俺は酒を呷りながら楽しく見ていた。

 その後、帝国騎士団長たちから大げさなぐらいに賛辞を送られた俺は、元勇者パーティの壊れた戦士、アルト・ウォルターと魔族達を連れて王国へ向かった。

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