第15話 外法『極』
激しい魔力の風が吹き荒れる中、マリナは俺に疑問をぶつけてくる。
「ナタリーちゃんと遊んだ後に私を殺すつもりなの? 魔王……一体何を考えているの? 私と戦えばその子は間違いなく死ぬわよ」
「勘違いするな、一対一なら俺は一切手は出さない。もしちび娘が負けたら撤退して、お前には二度と関わらないと約束してやろう」
魔力の嵐を生み出すナタリーをチラッと見たマリナは、
「いいわ。ただしあの子がどんな壊され方をしたとしても、私は見逃してもらうからね」
「ああ、いいだろう」
ナタリーが自分に勝てるはずが無いと確信しているマリナは、俺が自分の言葉に迷う事なく返事をした事が不思議な顔をしている。
「魔王であるあなたに、なにがそこまでさせるの?」
「――覚悟だ。覚悟がお前達とは異なる。魔力だけだと思っていると瞬殺されて楽しめないから、侮らずに戦った方が良いぞ」
俺の言葉にマリナは舌打ちをしながら、椅子の下から取り出した飲み物を飲み干す。
「んんんっ! これぇ、やっぱりこれよねー。あの子がグチャグチャになっても後悔しないでね」
俺は返事もせずに地酒をマイカップに注ぐ。
「――魔王様、見てて」
「楽しませろよ」
「ナタリー! あんな性悪女、ボコボコにしちゃえ!」
「あなたならきっと勝てます」
「――うん、じゃあ、行ってくる」
ナタリーは俺たち一行から離れ、小走りで前へと出た。
「――楽しませるのが、目的、瞬殺は、しない」
「はぁんっ! この先を想像するだけでゾクゾクしちゃうわ! 杖の無い魔法使いなんて、壊してちぎって嬲っていたぶって、最後には手足を切り落として私のお人形にしてあげるわね!」
先に動いたのはナタリーだった。
「――補助魔法『極』、疾風迅雷」
俊敏性を限界まで高める補助魔法を使ったナタリーは、超高速でマリナとの距離を詰めようとする。
「魔法使いが接近戦? 馬鹿にしないで! 暗黒魔法、
雷を帯びた無数の黒い球体が、マリナを囲うように出現する。
「あれじゃ近寄れないわ!」
「あの球体、非常に危険ですね」
「近寄るのが目的じゃないだろう」
グイっと俺が酒を呷るとナタリーの姿がマリナの前から一瞬で消える。
「あれ、どこへ? ――この私が見失ったとでも言うの」
マリナが辺りを見渡すと、さっきまであった女性の死体が消えている。
「――この人、巻き込む、お願い」
マリナの視界から消えたナタリーは、エポナ達の所へ死体を運んでいた。
「なんなの……あの速さは」
信じられないスピードのナタリーに脅威を感じたのか、マリナは両肩の後ろの方から赤黒い翼を出した。
目は真っ赤に染まり、歯は鋭くなって、肉なんて簡単に切り裂いてしまいそうな鋭利な爪も生えている。
その姿はヴァンパイアというよりかは悪魔じみていた。
「コノスガタハウツクシクナイカラ、ナリタクナカッタケド」
変身したマリナはどす黒く禍々しいオーラを放っている。
「ヤツザキ? キリサキ? メッタザシ? ノウミソヲクダイテ、ナカミヲスリツブス? ソレガイイ! イイイイイイイイイッ!」
飛び上がったマリナは爪をかざして、ナタリーに向かって一直線に飛翔する。
「――魔堕ちして、それだけ? まずは、その魔装を解く」
右手で円を描くナタリー。
「外法『極』、天衣無縫」
謎の光に包まれたマリナは人間の姿に戻り、空中から地面へ落下してギヤァッっと声を上げる。
「外法? 聞いた事ないわ。魔装を剥がすなんて信じられない」
「長寿の私達ですら見聞きした事はありませんわね」
「強化効果を解除して封印する魔法だな。バフを消して封印か、RPGでは戦いたくない相手だな」
ナタリーは地面に這いつくばるマリナに冷たい目を向ける。
「どう? 無理やり、力を、封じられると、嫌な気分、になる、分かる?」
せき込みながらヨロヨロと立ち上がるマリナの戦意はまだ消えていない。
「まだ……これからよ!
「――その、かみなり、お気に入り?」
「触れただけでそのものを焼き尽くす雷、ただ纏う魔法ではないのよ! 暗黒魔法!
黒雷の球体は、前に突き出したマリナの手のひらに向かって集まり、一つの大きな塊となる。
「――ん、お気に入り、壊す。雷魔法『極』、電光雷轟」
ナタリーの手のひらから発せられた、極太の雷はマリナの黒雷磁砲をかき消し、そのままマリナの体を貫いた。
雷が直撃したマリナはその勢いで壁の端まで吹き飛んで衝突し、体は焼け焦げて口から血をゴフッと吐き出す。
「あ、あ、あ……」
自分の手を見たマリナはある事に気づいたのか、燃え残った髪の毛をかきむしり狼狽する。
「しわ、しわが、いやよ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ナタリーの外法によって年相応の姿へと変貌していたマリナは発狂する。
「――それが、本当の姿、醜いね、ビッチ」
「私は、若さを……美貌を保つために……今まで必死で……やってきたのに」
雷によって焼かれたマリナの姿は、誰から見ても美という文字が浮かんでこない程に醜くなっていた。
「――そんな理由で、たくさん、殺したの? おばさん」
おばさんと呼ばれた事に怒り、地面を叩きつけたマリアの手が崩れて無くなる。
「――まだ、ダメ。治癒魔法『極』、妙手回春」
治癒魔法を受けて、崩れた手さえも元に戻るマリナ。
「――シテ。コロシテ……」
若さと美貌を失ったマリナは死を懇願する。
「――ん、ダメ。時魔法『極』、犬馬之年」
魔法を受けたマリナの背は徐々に低くなり、だんだん腰も曲がっていく。
肌も皺だらけになり、顔は水分が全く感じられないほどに乾燥している。
「――九十歳くらい、魔法も、使えない」
「助けて、助けて、助けて」
しゃがれた声でマリナは許しを乞う。
「このまま生かしておくつもりか?」
俺の言葉にナタリーは首を横に振る。
「――女性なら、なんでも、襲う、ゴブリンの巣に、転移させる」
「ほう、それは良い案だ。俺の村に丁度ボスゴブリンに昇格させたやつがいる。そいつにでもくれてやるか。ナタリー、良くやったな」
名前を呼ばれたナタリーは満面の笑みを浮かべる。
「――ん。頑張ったよ」
――――――――――
そうして教王を失った教国の事を帝国の皇帝に告げ、教国は帝国の支配下となる。
牢屋に囚われていた人間達は、俺についていくとの事で村へと一緒に帰る事となった。
その後、教国を帝国が支配した事を知り焦った王国は、共和国への侵攻を開始するが、共和国には議会中のラミア達の姿があった
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