第14話 マリナ・リゼット

 俺たちは四人で進んでいる。

 銀眼の魔王ジン・シュタイン・ベルフこと俺。

 猫耳の亜人エポナ・ルールー。

 森妖精族エルフの長ミーシャ・シャーレット。

 スカーレット一族当主ナタリー・スカーレット。


 他の人間達はまだ牢屋の部屋にいるが、ナタリーが結界を張っているのでそう簡単には手出しが出来ない。


 道を進めば進むだけ怪しい仮面を被った、聖女様親衛隊が襲い掛かってくるが、俺たちの敵となれるはずもなく瞬殺されていく。

 聖女様親衛隊を倒しながら進んでいるとやがて上への階段が見えてきた。


「この先にいそうだな。生体反応が多い、気を抜くな」


 俺は魔王のマントをエポナに手渡して、代わりにフードを被る。


「あの仮面がいっぱいとかゾッとするわね」


「個々の戦闘力は大した事はないのですけれどね」


「――ん。問題ない」


 道中にナタリーから聖女、マリナ・リゼットの悪魔の様な所業を聞いた俺たち。

 連れ去られた純潔はMPを吸い取られるか、生きたまま殺されるかの二択だったようだ。


 生きたまま殺す、言葉にするとおかしく聞こえた三人だったが、生きた人間に聖なるナイフで傷をつけ血を流させて、その血を聖女が被ったり飲んだりするというのだ。


 傷つけるだけでは飽き足らず、汗を舐めてきたり、触れたくない所を触ってきたりと、完全に頭のネジがぶっ飛んでいると俺たちに思わせる話ばかりであった。


「ヨシ! 行くぞ」


 俺たちは階段を駆け上がると、大きな広間へといざなわれた。


「たった四人でここまで来るなんてね。すごいね、強いんだね」


 椅子に座りウフフと笑いながら俺たちに話しかける聖女、マリナ・リゼット。


 マリナの前では大きな十字架に磔にされた女性の姿が見え、周りには仮面をつけた怪しい一団が多数配置されている。


 マリナの姿は三十年前と何も変わっていない事に俺が不思議に思っていると、マリナは目の前で磔にしている女性の方に目を移した。


「この子、可愛いと思わない? ほら、見て」


 マリナは磔にされた女性の太ももに聖なるナイフを突き刺し、女性は悲鳴をあげる。


「流れている血もこんなに赤いの。若いって良いよね」


 血がついているナイフの腹をペロッと舐めたマリアは、恍惚の顔を見せ頬を紅潮させながら、


「おいしいぃぃぃぃ。若さがぁ、若さが体に染みるのぉぉぉ」


 ハァハァと喘ぎながら血を舐めるその表情は、もはや人間とは思えない。


「ん? 聖女のやつ、魔堕ちしたのか。アレは吸血鬼、ヴァンパイアだ」


「ヴァンパイアって三大貴族のよね?」


「ヴァンパイアと言えば、ヴァンパイアロードしか思い当たりませんが」


「――ビッチは、吸血鬼、だったの?」


 喘いでいたマリナは急に立ち上がる。


「もう、我慢できないのぉぉぉ」


 ガブリと磔にされた女性の首元に噛みつき、一気に血を抜かれた女性は息絶えた。


「んんんっ!」


 ブルリと身を震わせたマリナがナタリーの方を向く。


「デザートが自分で食べられに来たのね? それとも、また虐めて欲しいのかなぁ? あの時のナタリーちゃん可愛かったなー」


 よだれを垂らしながら何かを思い出す素振りを見せるマリナ、その言葉に怒りをあらわにして肩を震わせるナタリー。


「そっちのは亜人と、森妖精族エルフかな? とっても美味しそうだね。特に森妖精族エルフはバウム爺が独占しちゃったからね。あー、どんな味がするんだろう?」


 ニタァと笑うその表情は捕食者が獲物を前に舌なめずりしている様であった。


「そんな事はどうでもいい。お前らが作っているストロング・ブル・モンスターはどこにある? どこで作成している?」


「信者たちに任せてるから分からないし、あなたの様な亜人の、しかも男には興味がないから話しかけないで」


 マリナは先ほどまでの様なうっとりとした目ではなく、冷たい目で俺を睨む。


「まぁそう言うな。そっちが興味なくても俺にはあるんだよ。殺したい程にな」


 フードを脱いだ俺の目を見たマリナの声が荒げる。


「その銀眼は! 魔王ジン・シュタイン・ベルフ! まさか女神様の封印が解けたの? 今の魔王は転生前の記憶も特異能力も魔力もないはず!」


「残念だったな。魔力とMP以外は前の俺より強くなっている。お前は魔堕ちした代償で神聖魔法が使えないだろ? それじゃあワイズマンロッドも意味が無い」


 俺の言葉が図星だったのか、マリナは少し黙った後に口を開く。


「私を殺しに来たって訳ね」


「いや、そうじゃない。お前に罰を与えるのは、このちび娘だ!」


 俺は人差し指でナタリーを指さした。


「――むぅ、何回も、言ってるのに、僕の名前は、ナタリー・スカーレット」


 ナタリーは頬を膨らませながら俺の目を見つめる。

 自分の相手がナタリーだと言われたマリナは、声をだして笑う。


「うふふふふ。ナタリーちゃんではヴァンパイアクイーンである私の相手は務まらないわね」


 マリナは下唇をペロリと舐める。


「その子に務まるのは……夜伽くらいね」


「――馬鹿にするな、ビッチ、お前を倒すのは、僕」


 今まで俺たちと小さな声でしか、話をしなかったナタリーの声のボリュームが上がる。


「――凌辱される、痛み、悲しみを、味わってもらう」


 ナタリーから発せられる凄まじい魔力が、風を伴い広間の中で吹き荒れる。


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