第9話 魔王
ドンっと音を立て両親が住む実家の扉を開けた俺は、両親の驚く顔をよそに椅子へ座りテーブルに両足を乗せた。
「飯だ。パン一欠けらじゃないぞ。飯を出せ」
いきなり家に入ってきた俺に驚く両親であったが、俺の傍若無人な振る舞いに激怒した。
「こ、この悪魔の子が何様のつもりだ! この家に入ってよいと言わぬ限り、入ってはならぬと言ったはずだ!」
怒鳴る父親の手は、俺の手とは全く異なっていた。
畑仕事などは全て息子の俺に押し付けてきた父親の手は、鍬も持ったことが無いだろうと思わせる程に綺麗で、力仕事もしない体はたるんでおり筋肉も無く、その弛んだ体はただだらしない。
「次は言わんぞ。飯だ。匂い的に今日は肉入りのシチューだろう? 俺の稼ぎで買った肉だ。俺に食わせても良いと思うが?」
両親は一切働く事もせず、雑務を含め全て丸投げにしてきた。
丸投げしているのに収穫が少ない時は息子である俺にパンすら与えなかった。
しかし、収穫が少ない時でも両親は毎日豪華な食卓を囲んでいた。
「お前達は俺にばかり仕事を押し付け、人の五倍以上も働かせた挙句に飯もまともに出さない、ブラックも真っ青だ。本来なら今すぐにでも殺してもいんだぞ。最後だ、飯を出せ」
冷たい銀の眼で両親をギロッと睨む。
「あ、あんたなんかに、食わせる飯はないよ! そんな悪魔の様な目で見ないでおくれ!」
母親だった物は俺にパンを投げつけた。
「そうか、そうなのか。お前達でさえそうなんだな」
パンを投げつけられ、あーはっはははと声を上げて笑う俺の姿に両親であった物は恐怖しているようだ。
「お前達は俺を生み、一応曲がりなりにも育ててくれた。感謝はしている、が生かしておく必要はないな。魔王復活の祝いへの参加を許可しよう。
その俺の言葉と共に村は阿鼻叫喚の渦へと叩き込まれる。
「お、お前は一体なにを?」
「外から悲鳴が聞こえるわ! 何をしたの?」
さて、どうしてやろうか? と邪悪な笑みを浮かべながら、かつて両親であった物に慈悲深く答えた。
「余興だ。いずれ来る恐怖の前の……な。聞け、この悲鳴を。お前達を死に至らしめる恐怖が外で踊り、歌っているのだ」
何をした! と父親もどきが扉を開ける。
「な、なんだこれは……。地獄、地獄だ……」
凄惨な光景を見た元父親は地獄と自宅を切り離すかの様に扉を閉めた。
「あいつらの繁殖力はカビより強く、繁殖行為はウサギより早い。当然の結果だろう。あー、
俺は冷静に冷徹に冷酷に冷淡に答える。
「お前が! お前がやったのか? やはりお前は悪魔だ!」
「どうして……どうしてこんな事に……」
その時、静かに扉が開きグギギギという不快な音と共に恐怖が顔を覗かせた。
その恐怖は緑色の肌色をしており、右手にはこん棒が握られている。
「たすけ――」
言葉を発し終わるより早く、緑色の恐怖は父親だった物の首に食らいつき、その肉体は血を吹き出す肉塊へと姿を変えた。
「アキオ……アキオ! ごめんね! 母さんが悪かったね? ごめんね、本当にごめんね。ゆるじて、ゆるじでぐだざい」
泣きじゃくる元母親の言葉を無視して、俺は
「飯だ。食らえ」
母親だった物が
「ウサギの肉か。まぁ悪くはないな」
モシャモシャグチュグチャ
「俺はシチューには鶏肉でも良い派だがな」
グチュグチュグチャグチャ
「しかしジャガイモとかニンジンとかは異世界では入れないのだろうか?」
グチュグチュビチャビチャ
「まぁ初めてのシチューにしては美味だったぞ、ほらお前達が大好きな金貨だ」
キンっと音を立てて俺の指から離れた金貨は、ビチャっと音と共に骨だけになった母親の躯に落ちた。
扉に目をやると不可思議な顔をしているエポナが見えた。
「ジン様、天狼族から二体精鋭を借り受けてきたわ。しかしこの村の有様は一体?」
立ち上がった俺はエポナの頭を優しく撫でた。
「この俺に無礼を働いた報いと、ジン・シュタイン・ベルフの復活として、この村の命を頂いた。それだけだ」
エポナは片膝をつきこうべを垂れる。
「ジン様の糧となれる褒美を貰った人間達は感謝すべきだわ。さすがはジン様! 今すぐに、ジン様の子を授けてもらいたくなるぐらい、ジン様は慈愛に満ち溢れているわ!」
「そうか、俺は感謝される事をしたのか。ぬるかったのか? いや、いい。エポナ、反乱軍はどこへ幽閉されている?」
「どうやら魔界の大森林の集落に囚われているらしいわ」
魔界の大森林の集落を治める
集落で暮らす魔族は多種多様な
魔王を欠いた乏しい戦力では大森林の集落の魔族たちを従わせるのは必然だったんだろう。
俺とエポナは天狼族の精鋭に跨り、魔界の最南端にある大森林へと向かった。
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