第4話 魔王討伐

 村の復興を進める中ではエポナ達から魔界の詳しい話を聞いた。


 俺が一番衝撃を受けたのが亜人は人間狩りの仕事を与えられているが、基本的に魔族は人間を食べなくても生きていけるという事。


 食べる為に人間をさらうのかと思っていたが、エポナが言うには魔族が人間を食べると抗う事が出来ない快感を味わうことができるらしい。


 特に生きている人間を食べる快感は一度味わうと抜け出せないと言う。

 一度人間を食べてしばらくたつと狂った様に人間を求めることから、亜人族は姿形が近いのもあるが人間を食べる事は固く禁止していた。


(アルコール……いや、麻薬に近いか)


 カースト上位と特別な功を上げた種族には大量の人間が褒美として与えられるらしい。


 (自分の部下を麻薬の様なもので操るなんてありえない、どんなブラック企業だ)


「ふざけているな。魔族は社畜以下だっていうのか」


 アキオの時に月平均百二十時間以上も残業をさせられていたが、その社畜時代の記憶がある俺でさえこんなブラック企業はないと思う。


「そもそもカースト制度なんて非効率的な制度を導入している時点で間違っている。誰だ悪いのは? そうか、魔王だな」


 エポナは、ひとりでつぶやいている俺をまるで愛しい人を見つめるかの様に眺めていた。


「無能な上司では組織はまとまらない。なら俺が魔王になって魔族の体制を変えるしかないか」


 その言葉にエポナとホークは驚きも疑心も持った目はしていなかった。

 

「ジン――いえ、ジン様なら良い魔界を作ってくれると信じてるわ」

「ジン様こそ魔王にふさわしい」

「ジン魔王様万歳」


 自警団とホークを含めた八人、亜人橋の死闘を生き残った亜人が総出で俺を称え、万歳三唱を行った。


「魔王か……。普通転生したら勇者だと思うんだが、まぁとりあえずヨシ! 俺が魔王になりこの魔界を変える! エポナ、悪いが魔王の居場所まで案内を頼めるか?」 


エポナは迷う事もなく、


「もちろんよ。喜んで案内させてもらうわ」


 村の復興などの指揮はホークに任せ、俺とエポナは魔王城へと向かった。


 魔王城への道のりは歩いて三日三晩かかったが、魔界の話を聞いたり、アニメで見て憧れたジン・シュタイン・ベルフのセリフや、行動を思い出したりしていたので体感速度的にはあっという間に魔王場へと到着した。


「これが魔王城か。いかにもな作りだな」


 魔王城は見ただけで禍々しさを感じられる様な、そこには絶望しかないと言っている様な、闇を閉じ込めている様に暗く重たく冷たい雰囲気を出していた。


「門番のアイアンゴーレム達がいるわね。どうするの? さすがに正面から攻め込むのは愚策でしょうから魔王に謁見したいと門番に言ってみる?」


「その必要はない。俺の後ろをただ着いてきてくれればいい」


 俺がそう言うと後ろから格好良すぎて死にそうと声が聞こえてきた気がしたが、振り返る事なく門番達がいる正門へと歩き出した。


「ヲマエタチ、ナニモノダ? コノサキニナニヨウダ?」


 門番であるアイアンゴーレムは身長およそ五メートルあり、全身をミスリルのフルプレートで武装している。アイアンゴーレムの防御力は魔界屈指であり、一体でゴブリン千以上には匹敵するとエポナが言っていた事を俺は思い出した。


「お前たちが魔界の盾と呼ばれるゴーレム衆か。どけ、俺は魔王を討伐しに来た。邪魔をするなら――不敗神話の魔界の盾は俺という矛に砕かれ、不敗神話が崩れる事になるぞ」


 グモォーとくぐもった声と共に十体のアイアンゴーレムは、俺の方へと向かって地響きを立てながら走り出した。


「そうか、残念だ。警備部門でお前達を使おうと思っていたんだがな。特異能力(スキル)! 万物を砕くクリア王者の矛ランス!」


 特異能力スキルを発動すると、無数の透明な槍が空中に出現しアイアンゴーレム達に向かって飛翔した。

 アイアンゴーレム達に槍が突き刺さった直後、アイアンゴーレム達は四散して崩れ、その後に槍が突き刺さった衝撃の音が聞こえた。


「俺の行く道は誰にも遮る事はできない」


 見ていたアニメの主人公である、ジン・シュタイン・ベルフが四話にて敵の大軍を一撃で屠った時のセリフを言いながら、俺はずっしりと重い門を開け魔王城に入った。


 門を開いた先で俺たちの目に入ったのは赤い煌びやかな絨毯が敷かれている階段だった。


「この階段を上がっていった先に魔王がいるのか」


 エポナはなにかに心奪われたような雰囲気を出しているが、俺の声で「ハッ!」とまるで現実世界へと引き戻される表情を見せた。


「――そうよ。この階段を上がった先には四天王の部屋が。四天王の部屋の階段を上がった先が魔王の部屋よ」


「四天王とは炎の魔神スルト、水の邪精霊ウンディーネ、疾風の王シルフィード、雷の化身サンダーバードの事だな? 強いのか?」


 エポナとの会話によって異世界、魔界について詳しくなった俺は悩む事無く魔界の四天王の名前と通り名をすらすらと言える様になっていた。


「正直私なんかでは四天王の強さは分からないわ。けど、ジン様の敵でない事だけは分かっているつもりだけど」


「うーん。俺の危険予知KYTにはなんの反応もないから大した事は無いんだろうな」


 たわいのない会話を交わしながら階段を上がり、俺たちは四天王の部屋へとたどり着いた。


「ここまでだ、侵入者よ。貴様達の命運はここで尽きる。懺悔は無用、ここで朽ちろ!」


 四天王達は俺たちの姿を確認すると一斉に襲い掛かって来た。


 スルトは右手から火柱を俺に向けて放ち、ウンディーネは片手を振り下ろし水の刃を繰り出し、シルフィードは両手を前に突き出し竜巻を発生させ、サンダーバードは口から雷の球を吐き出した。


「2S! 安全Safeエリアarea


 俺は指で2Sをなぞり絶対無敵シールドを展開して四天王の攻撃を防いだ。


「ふーん、便利そうだな。特異能力スキル! 外観検査!」


 四天王のステータスを確認した俺はさっきの四天王が放った技が、魔法ではなく特異能力スキルである事を知った。


「魔法でなくてもあんな事が出来るのか。ヨシ! もらうぞ、その特異能力スキル! 1S! 現任Skill訓練drain!」


 指で1Sをなぞり現任Skill訓練drainを発動させた俺は、四天王の特異能力スキルを奪った。


「なに? 特異能力スキルが使えんだと……」


 四天王達はなにが起きているのか分からずパニックに陥る。


「んー、ガチャで言うとR《レア》って所か。初めてのガチャ記念だ、俺に従うのなら命は取らないでおくがどうする?」


 四天王達はお互いに目を合わせあうが、俺への敵対心は消えていなかった。


「じゃあサヨナラだ。特異能力スキル! 派遣Stealの中the抜きsoul


  俺が派遣の中抜きを発動させると四天王は音も無く崩れ落ちた。


「自分より下位の魂を抜き取る特異能力スキル、音も立たないし便利だな」


「さすがジン様だわ! あの四天王ですらたった一撃だなんて」


「ヨシ! 経験値も回収したしボス戦といこうか」


 俺たちは四天王の部屋の階段を上がり、やがて大きな扉が目の前に立ちはだかった。


「この中に魔王がいるんだな? じゃあ行くぞ!」


 気構える事なく俺は重厚で真っ黒で大きな扉を開けた。


「む? 勇者ではないと感じてはおったが、まさか亜人とはな……。名も知らぬ亜人よ! 我が右腕となれ! そうすれば世界の半分をくれてやろう!」


 扉を開いた先にいたのは、禍々しくも豪華な椅子に座っている魔王だった。

 頭には二本の角を生やし、漆黒の鎧を身に纏い漆黒のマントを羽織る姿は魔王そのものだ。


「右腕となれ……か。ふっ、やっぱりどこの世界でも魔王はそんな感じなんだな」


 俺はアキオ時代にプレイした数々のRPGを思い出し、無意識の内に笑っていたが後ろからエポナの怒声が聞こえた。


「魔王! あんたの支配はもう終わりよ! 観念しなさい!」


 エポナは腰にあるレイピアを抜き、魔王へ向けた。


「私たち亜人族がいくら言っても人狩りをさせるし、人間を食べると魔族はおかしくなるって言っているのに聞く耳も持たない! 私が人間とは仲良くすべきだと発言したら亜人族のカーストを底辺にまで追いやって……。仲間たちは何も言わなかったけど私が一体どんな気持ちでいたか! 傲慢で力で支配する事しか出来ない魔王はここで死ぬのよ!」


 エポナは泣きながら魔王に対して、溜まっていた鬱憤をぶちまけた。


「貴様ごとき下等な種族が我に意見をする事すら、おこがましい行為だとまだ気づかぬのか。貴様たち亜人は黙って人間を攫い、我に献上すればいいのだ。そこの銀眼の亜人は別だが他の亜人など虫けら同然よ」


 魔王は玉座から立ち上がり、玉座の上に掲げられた魔槍を手にした。


「力無き者の言葉など無意味、力こそがこの世界で重要なのだ。力無き下等種族は黙って強者に虐げられておれ! 亜人族など我の食糧になる事すら敵わぬ、ただの飯以下の存在と知れい!」


 魔槍を手にした魔王から強烈な殺気が放たれ、エポナは息をするのを忘れてしまっている。

 大気が震え、世界が闇に包まれるのではと錯覚させるほどの、どす黒い殺気の前では歴戦の豪傑でさえもエポナと同じく息をするのを忘れるだろう。


 生物としての本能が、生を諦めさせるほどの殺気を受けるが俺には関係ない。


「大丈夫か? 少し休んでいろ」


 エポナの前に立ち魔王の殺気からエポナをかばう。


「ま……まお……魔王を――」


「待っていろ。すぐに終わる」


 強烈な殺気を放つ魔王に向かって何事もない様に俺は歩き始めた。


「すぐに終わる? 銀眼の亜人よ、後悔する事となるぞ! もはや貴様も必要ない! 貴様たちを殺して、我が自ら赴いて亜人族を根絶やしにしてくれるわ!」


 魔王は魔槍を振り回しながら俺との距離を詰める。

 ブンブンと振り回される槍は風をも巻き起こす勢いだ。


「ふんっ! どんな小細工を用意してるのかは知らんが、この魔槍の前では防御など意味をなさん! 死ねい!」


 魔王は振り回していた槍で高速の突きを放つ。


「小細工など必要ない。上級特異能力ハイスキル分解点検修理オーバーホール


 分解点検修理オーバーホールを放った瞬間に、魔王は空間ごとねじれて消滅した。


「ブラック企業も裸足で逃げ出す様な、とんでもないパワハラ魔王だったな。黙って働けって部下は機械じゃないんだ。俺はそうはならない」


 俺はアキオ時代の事を思い出し、魔王を倒したのにも関わらずしんみりとした気持ちになっていた。


「魔王はどうなったの?」


 なにが起きたか分からない顔でエポナは俺に問いかけてきた。


「魔王はこの世界から魂ごと消滅した。あいつは亜人を馬鹿にしていたから、魔王の魂は消滅させて亜人へと転生させてやった」


「え? それって……もはや神そのもじゃない」


神、か。そんなものは存在しない。存在していたらなけなしの生活費で馬券を買った時に当たっている。


まぁでも、神になるってのは面白いかもな。


「ヨシ! これから魔族の革新を行う。エポナ、手伝ってくれるな?」


「もちろんよ! 精一杯働かしてもらうわ!」


 この後、魔王が死んだ事により三大貴族との確執があったりと色々あったが、俺の手腕によりわずか一年で魔界を完全に統治する事に成功する。

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