第3話
「なんだこの有様は!?私はお前が王になれる器だと思っていたのだが、それは私の思い違いだったのか?」
父はガンっと机を叩き、私に詰め寄った。
「いえ、まだ挽回はできます。サラバン家についている貴族は未だ私を支持しています。それに、今回たまたまヴィオレッタの策がハマっただけで、今後どんなに抗っても私に敵うはずがありません。」
私は父を宥める為にその場を取り繕った。
「その油断が、今回、一番大事な場面でしくじった要因ではないのか?お前は身分の低い可憐な愛する少女を守る勇敢な時期王としてではなく、この国の王女を裏切ったただの浮気男に成り下がった事を忘れるな!」
再度ガンっと机を強く叩き、父は執事を連れて部屋を出た。
主が出て行った執務室に一人取り残された私は、ため息をひとつ零し、部屋を後にした。
どこから狂った?
途中まではうまくいっていた。貴族も平民も皆、私達の身分違いの恋を応援した。大人しく何も反論しないヴィオレッタを良い事に、カトリーヌをいじめる悪女として仕立て上げる事にも成功した。印象操作もうまくいき、誰もヴィオレッタの本性を知ろうとはしなかった。おかげで彼女の味方をするものは誰一人としていなかったはずだ。
あの建国記念パーティーでヴィオレッタに婚約破棄を言い渡し、カトリーヌとの婚約を宣言する。そうする事で困難を乗り越えて実を結んだ私達の真実の愛は、人々に受け入れられ、より支持されるはずだった。そしてその事がより、ヴィオレッタを悪者に仕立て上げ、孤独にするはずだったんだが・・・。やられたな。
自室に戻る途中の廊下で、私に会いに屋敷を訪れていたカトリーヌと出くわした。
「アレックス様。」
カトリーヌは、彼女の愛らしさを強調するような金色のふわふわした髪を靡かせ、私の胸へ飛び込んできた。
家族でもない、ましてや婚約者でもない異性の胸へ、それも走ってくるなんて普通の貴族令嬢としてあるまじき行動でも、私は咎める事なく、彼女を抱きとめ受け入れた。
彼女の見た目と相まって、この天真爛漫な姿が、人々の心を惹きつけヴィオレッタを悪役に仕立てる事が出来た一番の要因なのだから。
「今回は私がうまくやれず、ごめんなさい。」
甘えた声で謝るカトリーヌに、私は恋に溺れた男らしく、優しく彼女を抱きしめた。
別に今までの策略でうまくいったところで、身分差を乗り越えた愛に夢を見て現実を直視できない民度の低い貴族や平民を率いる事になる負担を考えれば、今回の件で彼らも少なからず正常な判断ができる事が分かっただけまだマシだと思うべきだろう。
何、これからは政治力で、私がヴィオレッタより優れていると証明すればいいだけだ。実に正攻法で簡単な事だ。それに、まだこの女も利用価値はある。
「気にする事はないよ、カトリーヌ。今回の事は君は悪くない。それに、私達の愛は何も変わらないし、私達にはまだ他にする事があるだろう?」
私は彼女の肩を掴んで自分から引きはがし、目線を合わせ優しく彼女を見つめた。
「そうですわね、アレックス様。」
普段の天真爛漫で愛らしい彼女からは想像もつかないほど、薄暗い目をして、彼女は微笑んだ。
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