第4話


「あらやだ!なんてこのお色のアイシャドウ可愛いのかしら~。まるで私みたい。ねぇフィー、そう思わない?(コテン)。」

この国の化粧品を鏡の前に並べ、一通り試し、時には一人コントを交えて楽しんでいる私は、この度、新しく私の護衛騎士になったフェルナン、通称フィーに話しかけた。


前回の舞踏会で私の周りは一新された。

如何せん、あのクソ野郎の回し者が大半だったでしょ~?安心して夜も眠れないじゃない?だから王である父にお願いをして新しくしてもらったのよぉ~そうよぉ~。

そしたらあなた!イケメン騎士が発掘できちゃったの!


フェルナン・ロナン公爵令息。すっとした鼻筋に濃いブルーの清潔感しかない綺麗な目。笑顔の爽やかな銀髪イケメンなのよ!でも、私が興奮している理由はこれだけじゃないのよ。私を顔面だけで人に釣られる単純な人間だと思わないでぇ~。


何を隠そう、フィーは公爵家の嫡男なのに私の騎士をしていますでしょ?

「公爵家の嫡男であるフェルナンがなぜ、王女の護衛騎士を志願したのですか?将来家を継がないといけないあなたが、こんな事をする理由って一体なんなの?」

護衛騎士の採用面接で私は彼に尋ねたの。

最もな質問だと思うわ。嫡男とあれば、後継者として公爵家の仕事に携わるべきなのに、それをほっぽりだして私の護衛をするんですもの。そしたらフィーはなんて答えたと思う?


「恥ずかしながら・・・。」

そう言ってそれ以上言葉を紡げないフィー。私は彼が続きを言うまで静かに待ったわ。


彼は、そんな私の意を汲み取ったのか、意を決したように話し始めたの。

「恐れ多くも、私はずっと王女様をお慕いしておりました。ですが、王女様には将来を約束した方が隣におられた。私のこの心はずっと胸にしまい墓まで持っていく予定でした。ですがこの度の事が起き、人生何が起こるか分からないと学びました。だったら、一度だけでいい。後悔しないように自分の気持ちに素直になって自由にしてもいいんじゃないか、と思ったんです。幸い、私は王宮騎士団に所属していたので、この度、志願した次第です。命に代えても王女様をお守りすると、誓います!」


真っすぐ私の目を見て言うフィーに、私の心は高鳴りっぱなしだったわ。

ヴィオレッタちゃんの記憶の中でも、王国中の貴族が通うフォレスタ王国学園でヴィオレッタちゃんと同学年だったフィーは、さりげなく困っているヴィオレッタちゃんを助けてあげていたのよ。

この情報にはほのかにフィーに恋心を抱いているヴィオレッタちゃんの感情も読み取れるの。甘酸っぱい青春の一ページね~。


ついに私にも春到来かしら~。どっかのおバカさん達に教えてあげたいわ~。これが人を愛するって事よって。


フィーの私に対する熱い思いに打たれて晴れて採用。これは信じてもいいと思うのよぉ~。だけど、今の状況で「はい、そうですか。」って素直に受け入れて即恋人になるほどお花畑な私ではないの。

それに、フィーのお家はこの国の三大公爵家の一つ。権力が半端ないの~。ああ怖い怖い。

フィーの事は信じてる。だけど、あのクソ男みたいな事がないとも限らない。

よって、私達は王女とその護衛騎士という立場に収まっている。フィーも納得してくれているみたいだし、これからの事は焦る必要はないと思うの。神のみぞ知る、よ。なるようになるわぁ~、そうよぉ~。


「・・・王女様、最近国政を司る貴族会議などに参加しその能力を発揮されてはいますが、アレックス殿もここ最近前評判通りの政治手腕を発揮し、貴族の求心を得ているようです。こんなところでのんびりされていても大丈夫なのですか?」


まあ、確かにフィーの言っている事は一理ある。あのクソ男、まだ懲りずに私を蹴落とそうと努力し、再度貴族達の評判を集め始めている。


あの男も私と同じように貴族会議に参加するようになり、税収だったり近隣諸国との問題だったりと国内外の問題について多岐に渡り積極的に発言し、幅広い視野を持って推察された、であろう見解は政治手腕に長けた貴族達をも唸らし、自身の存在感を強めていた。


一方の私は、場の空気に慣れず・・・というよりこの国の在り方に慣れず一方的に話しを聞くに留まっている。ちょっと私が意見しようものなら、あのクソ男が馬鹿にしたように鼻で笑い、私の考えは浅はかだって笑う為、議論の余地がない。


あきらめの悪い男よね~。どうせ執着するなら私に執着してくれる方がまだときめけたわぁ~。権力に執着するなんて小さな男。


・・・と言ってもやり込められているのもまた事実。この辺で私の存在価値を示さないといけない。かと言って今焦って何かしてもカラ回るのも目に見えている。

なんともどかしい時期なのぉ~。


そんな時は好きな事に没頭するに限る。私の気分を上げ、ポジティブな思考回路に持って行ってくれるの。


「気持ちは分かるけど、今ここで焦っても仕方ないわ。なるようになる。あんなクソ男が王座に立つなんてありえないんだから。そうは問屋が卸しません!ここは我慢のし時ね。」

「・・・そうですか。」

フィーは何か言いたげだったが、立場を弁えている彼はこれ以上何も言う事はなかった。

出来る男は違うわね~、どっかの誰かとは大違いだわぁ~。と改めてフィーの有望さを堪能したところで、ピコンと私のセンサーがなった。

「テオンハルトに会いに行きましょう!」


テオンハルトとは、今年八歳になるヴィオレッタちゃんの年の離れた弟の事。

まだ幼いながらも聡明で将来有望なその才能に嫉妬したあのクソ男が、テオンハルトと仲良くしないようヴィオレッタちゃんやテオンハルトにある事ない事を吹き込み、お互いがお互いを嫌っていると勘違いさせ、仲を引き裂いていた。

卑怯な奴ってどこまでも卑怯なのよね~。

政治どうこう言っている場合じゃないわ。まずは大事な人を大切にする事からよぉ~。それが出来ないのに、国を良くするなんて出来るわけないのよぉ~、そうよぉ~。

そうと決まれば会いに行くわよ!


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