第8話 村田沙耶香と私
さて、村田沙耶香さんも好きな小説家の一人ですが好きになる予定はない作家さんでした。あらすじを見ている限り、明るい作品ではなかったので。今現在は好きだけれど、他人に勧めるなら「コンビニ人間」だ。他は結構、五感の鋭さからくるハッとする美しい文章と、生臭い香りがする湿度の高いストーリーで頭がぐわんぐわんする作家さんだと思う。ただ好きになったきっかけがちょっと面白い。
私が2,3年通っている一人でやっている美容師さんがいる。年下だけれど、最初っからため口で話してくる。そして読書家で、一人しかいないその美容室には乱雑に本がたくさん並んでいる。しばらく予約が取れないなぁと思っていたら、アフリカにフラッといって、「ボランティアで子供たちの髪切ってましたー」とのほほんというような男性である。切ったら「うまく切れた。やればできるじゃん、俺」という控えめに言って変な美容師である。
そんな美容師さんがある日ふと言ったのだ。
「なんか最近、お客さんに『コンビニ人間に似てる』って言われて読んだんですよねー。だけど誰に似てるんだろう。」
ほう、それは面白いと思った。その時私は、小説は暖かいものしか読まない時期で(なんで時間使って嫌な気分にならんといかんのかと思っていた)、なんか暗そうな村田沙耶香さんの作品はなんとなく手に取ってなかった。しかしその美容師さんの言葉が気になったので、さっそく村田沙耶香さんの「コンビニ人間」を手に取って読んでみた。
面白かった。一気に読んでしまった。文体の読みやすさと美しさが、不思議、まあはっきり言ってしまえばどこか不気味な登場人物たちをするすると飲み込ませていってしまう面白い作品だった。
だがしかしだ。次の髪切りの時に言った。
「あの、コンビニ人間、私も読んだんですが、どれに似てても誉め言葉ではないような・・・」
「だよねー。あえて言えばあのヒモかな。俺も楽できれば自分が好きな人の髪しか触りたくないもーん。」
あ、違うな。似てるのはコンビニ人間の作風自体かもしれないな、と思った。口には出さなかったけれど。それをきっかけに村田沙耶香さんが好きになり読むようになった。
ところでだ。村田沙耶香さん、同じ作家さんに「クレイジー沙耶香」といわれるくらい不思議な作家さんだそうですが、エッセーを読んだ時、私は「普通の人で、普通に面白かった。共感できるところいっぱいあったんだ」という話を友人にした。そしたら友人も読んでくれたらしく、私にこういった。
「村田沙耶香さんのエッセー、私も読んだけれど、彼女普通かな?」
え?普通の人と思ったんだけど。え?もしや私もクレイジーK?と動揺したのはいい思い出(笑)
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