第7話 ミヒャエル・エンデと私
中学校の頃、私は図書委員をしていた。その頃、司書の先生に色んな本を勧めてもらったけれど、ミヒャエル・エンデさんもその一つだ。
当時、中学校で年に一度、市内の代表中学生生徒1名(+先生)が集まり、お気に入りの本を紹介するという読書会と言うよりは今のビブリオバトルに近い会があった。そこに代表で選ばれたことがある。その時の私は空前のミステリーブームでさて何を紹介したものか、と頭をひねっていた時に、その先生にこう言われた。
「Kさん、モモで紹介してみない?」
私は小学校の頃から読書するタイプではあったけれど、クレヨン王国とか江戸川乱歩、伝記、神話シリーズ(特にギリシャ神話がお気に入りだった)は読んでいたけれど、モモは未読だった。というか昔からあまのじゃくで、モモとかエルマーの冒険、ガリバー旅行記のような「これは読むべき」と先生が言うような本をとことん避けていたせいでもある。未読だと先生に伝えると、先生は嬉しそうな顔をして、文庫のモモを本棚から持ってきて言った。
「ぜひ。Kさんは絶対好きだから」
先生がこういう本は外れない。早速借りて帰って読んだ。面白かった。何でもっと早くこれを読まなかったのだ!と机を叩くくらい悔しかった。昨今、というかカクヨムの分類で「現代ファンタジー」と「異世界ファンタジー」に分かれるけれど、ミヒェル・エンデさんは「ファンタジー」だ。純度100%のファンタジー!それからミヒャエル・エンデさんの作品はもちろん「はてしない物語」を含めて全部読んだ。さて、図書の発表の話に戻る。
「先生!感動しました!私、モモを心の中に住んでもらって、ジジみたいなお話ができる人になりたいです!」
「うんうん、そういうの文章にしてまとめてみようか」
私は読んだ興奮の熱量をそのまま文章にあてた。先生はやっぱり優しくて、人の言葉を大事にする人で言い回しや構成に関して一言二言助言はしてくれたけれど、基本私の文章そのままで発表することになった。(このあたりが読書感想文を全面書き直しさせて私の文か先生の文かわからなくなった担任先生と違うところであった)
で、大事な本番。先生の車で他校の学校の教室に行くと、私は圧倒されてしまった。私も私立の女子校だったけれど、その講堂は大きくて立派で、その中に大勢の生徒が円卓を囲み、後ろに引率の先生が座るという初めての場面に出くわして完全に緊張してしまったのである。あれだけ何度も読んですらすら話せるようになったのに、私は何度もつっかえ、カンペを確認して、もう何を発表したか、他の人の発表も何も覚えちゃいない。
悔しくて、もう半分泣きそうになりながら先生の車の後部座席に座って帰路についた。
「先生、ごめんなさい」
「何が?」
「ボロボロの発表で先生に恥をかかせました」
「何を言ってるの。発表の後、みんなの拍手を覚えてないの?」
「あんなの、みんな、発表の後してたじゃないですか」
「そう?先生はひと際大きく聞こえたけれど?」
「私、悔しいです」
「素敵な経験ができたわね」
先生は優しい言葉で慰めてくれたけれど、私は悔しくて悔しくてどうしようもなかった。バックミラー越しで見えた先生はやっぱり笑顔で、悔しくて沈黙する私を優しい運転で送り届けてくれた。振り返ってみればいい思い出になったのは、先生のあの笑顔のお陰に他ならない。
いまでもモモを読み返す。大人になって読み返すモモは児童文学で、ちょっと読みにくくて苦戦するけれど、やっぱり私は心の中でモモに住んでもらって、ジジのような話し手になりたいな、って先生の笑顔を思い出しながら思うよ。
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