第4話 カフカと私
今でも読書感想文という宿題があるのかは知らないが、私の学校は中高共に読書感想文の宿題があった。で、読書感想文用の読書、と言うのが存在した。学校から推薦の一覧も配られたし、確かにミステリーで読書感想文を書くのは難しい。当時、私はミステリーばっかり読んでいたので、読書感想文用に本を探さなければならなかった。そこで私が白羽の矢を立てたのはカフカだった。カフカはよい。何せ短いし、深い。これはいいものを見つけた、と思ったものだ。
しかし、これが後に悲劇を呼ぶ。忘れもしない中学校1年生の読書感想文。ちょっと本題に入る前に一言文句を言いたいんだが、いきなり読書感想文を宿題に出すくせに読書感想文の書き方って習わなくない?あれなんで?そんなだからこんな悲劇が起こったんだ。私はカフカの「変身」を読んで、さて書こうと思ったがどう書けばいいかさっぱりわからなかった。割と面白かったですとしか言えず、頭を抱えた。そして見つけたのである。巻末に「解説」なるものを。
なんだー、これを要約すればいいじゃん♪と安易に考えた。国語は割と得意だったので、要約は簡単だった。今でいうところのチャットGPTで感想を書いてもらったようなものである。あっさり終わった宿題を片手にふんふん♪と提出した。
そして悲劇が起こった。夏休みが終わってまだまだかったるいHRの時に、先生が意気揚々とこう言った。
「Kさんの読書感想文が学年の最優秀賞に選ばれました!つきましては全国の読書感想文コンクールに出すことになりました」
拍手が沸き起こる中、私だけが絶望していた。ティラリーンティラリィラリィーラ♪という効果音が一人頭の中で再生された。(これわかる人いるかな)
「よく書けましたね」
いや、先生、違う、これ、解説。言えるわけがない。こんなものが全国にいったらバレるんじゃないか。いやバレる。怒られる。血の気が引いた。よろよろと家に帰ってお母さんに助けを求めたら「自分の穴は自分で拭け」的なことを言われた。もっともである。しかし、助けがあった「もっとよくするために、推敲しようか」と先生が提案してくれたのである。ここしかない!!と思った。もう読んだよ、何回も何回も。自分が虫になって起きる夢を見るくらい読んで、全部自分の言葉でかつ、ちゃんと代表としておかしくないようにいい読書感想文になるように何回も何回も書いた。
「先生!これで!これで行かせてください!」
「ん?これ内容変わってるよ。元々の文章がいいんだから、それを推敲するだけでいいのよ」
それじゃダメなんです~TTそっから何回も何回も推敲して、ようやくOKが出た時には私の文なのか先生の文なのかよくわからないものになったけど。とりあえず真似の痕跡が消えたことにひたすらホッとしたことを覚えている。
ただ最後の文章はなんとなく覚えている。
「私に残ったのは、いつか自分も虫になるかもしれないという恐怖だった」
本当に恐怖だったよ。あー怖かった。若い皆さま、安易にコピーペーストやチャットGPTとかに頼るとこんな悲劇が起こることもあるからな。要注意!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます