第2話 パーティーのシンデレラ
―(保健室)―
劉「大女ってなんですか~!」
「知らんわ!お前が重かったでしょうって聞くから素直に答えただけじゃん!」
劉「わ~ん、気にしてるのに~、先輩のばか~」
気がつくと保健室で罵り合ってるバカ二人。
後にゆうこちゃんは語った。
「誰よりも早く、劉ちゃんを抱き上げて保健室に走った桂木先輩本気でカッコ良いと思った。保健室で劉ちゃんと言い争ってる桂木先輩クズだと軽蔑した」
――
――
――
「ほえ~、デッカイ家だな~」
劉「、、、、(プイッ)」
こ、、、こいつ、全くしゃべろうとしやがらない。
保健医の先生の見立て「最悪骨まで行っているかも」は、整形外科でのレントゲンで回避された。
ただ、重度の捻挫につき松葉杖が必須になった劉ちゃんには、誰かがカバン持ちで付き合わなければならない。
あ~そうだよ!全員一致で俺に押し付けられたよ!
この不機嫌女をさ!
「じ、じゃあな。」
劉「、、、7時」
「は?」
劉「明日のお迎えは7時希望です。それじゃ」
「待て!おま、!」
ぎ~~、ご立派なお屋敷の門は劉ちゃんを飲み込み、荘厳な音を奏でなから俺を閉め出した。
――
――
―(翌朝)―
劉「先輩、昨日はありがとうございます。先輩のおかげで本当に助かりました。感謝しています。」
「、、、明後日の方を見ながら言うな!」
翌日、出迎えた俺へのたったの一言。
可愛くね~とか思ったけど、どうも照れて真っ赤になっているらしい。
ほんのちょっと、かわいいところもあるじゃん、と思ったのは内緒だ。
――
――
放課後、劉ちゃんを送って行った俺を、劉ちゃんの家族全員が迎えてくれた。
遅ればせながら事情を知ったのだろう。
…しっかし、中も大きな家だ!
………ふと気がつくと、少し離れておじいさんがニコニコとこちらを見ているのに気がついた。
直感的にこの人がこの場で一番偉いのだと思った。
「桂木三月と申します。この度は我が放送部にて、大切なお嬢様を傷付けてしまい、申し訳ごさいません。部を代表してお詫び申し上げます。」
中学校て培った体育会系スキルを駆使して深々と頭を下げる俺。
びっくり顔で知らない生き物を見るような目で俺を見てる劉ちゃん。
爺「ふむ、今度の子は一味違うようじゃ」
劉「お、おじいさま!?」
爺「桂木さんとおっしゃったかな?丁寧な謝罪痛み入ります。こちらこそ孫を助けてくれてありがとう。今日から君は私たちの身内だ。困ったことがあったら遠慮無く相談しなさい」
そう言って、ニコニコとその場を離れていくおじいさん。
正直、何を言われたのか良く分からなかったんだけど、隣で劉ちゃんが尚更びっくりした顔で固まっていた。
――
――
それからは、劉ちゃんを送って行くと必ず夕飯に誘われるようになった。
いや……最初は固辞してたんだよ?
それはまあ良い(良くないけど)。
問題は朝夕の送り迎えで、劉ちゃんと未だにまともな会話が出来ていないことだった。
それどころか。
劉「噂になってます」
「ほえ?何が?」
劉「…先輩と私の仲がです!最悪!」
…悪かったな!
でも…確かにこいつ目立つんだよな。
背が高くてスタイル良し。器量も良い。一年生の中でもトップクラスなんじゃないだろうか?
山田「先輩、ご自分のこと舐めてますよね。先輩も目立つんですよ?良くも悪くも。大体、喧嘩で停学になった生徒なんかうちの学校じゃめったにいないんですから」
それって単なる悪目立ちじゃん!
送り迎え一週間。双方の利益の為に送り迎えは今日までにしよう、との見解で俺と劉ちゃんは一致した。
――
――
爺「いつもすまないね」
「いえ、こちらに責任があることですので」
爺「ところで秀美の怪我だがね。君の正直な見解はどうかね?」
「……そうですね。お医者様の見解では、松葉杖は一週間程度とのことでしたが、彼女は初めての松葉杖で決して使い方が巧くはない。それは当たり前のことなのですが」
爺「ふむ」
「現状、逆足への負担が高い状態に見えます。このまま松葉杖を離すと別の怪我を呼ぶ可能性があります。後一週間ほどは松葉杖を使ったほうが良いかと思います」
爺「ふむ、適切な判断だ。桂木くん、今しばらく孫を頼みます」
「はい」………あ…あれぇ?
バッチ~ン!
劉ちゃんが後ろから俺の背中を叩いた。
痛いっての!
――
――
―(劉ちゃんの部屋)―
劉「ったくもう!送り迎えは今日までっていう放課後の打ち合わせはどこに行ったんですか!」
「仕方ないだろ!お前のじいさん何か怖いんだよ!とても嘘がつけない雰囲気でさ」
初めての劉ちゃんの部屋。落ち着かんわ!
劉「、、、私の足、まだなんですね」
「正直言うと…な。俺、怪我人は結構見てきちゃったから分かる」
劉「……ありがとうございます。私をちゃんと見てくださって」
そ……そういうこと真顔で言うな!
俺は思わず目を反らし……て?
「……HF帯のアマチュア無線機?」
劉「え!?先輩、詳しい!」
女の子の部屋に似つかわしくないそれは、おじいさんからの譲り受け品なのだと。
これでアマチュア無線局を開設して世界中の人と話すのが夢なんだと劉ちゃんは嬉しそうに話してくれた。
なるほど、放送部で機械部門にこだわる訳だ。
劉「まだ電話級も落ちちゃうんですけどね」
「この機種なら、最初はW(ワット)数を落として電話級からはじめられるもんな」
劉「何でそんなに詳しいんですか!?」
「……二級」
劉「は?」
「俺、アマチュア無線二級免許持ち」
劉「せ…先輩は神童ですか!?」
うん、高校二年生で二級ならそうでもないと思うけど、中学で取ったときは、周りからそう言われた。
劉「お!お!教えてください!!」
飛び付かんばかりに距離を詰めてくる劉ちゃん。
近い!近いって!!
「教えるのは良いが条件がある」
劉「?」
「まずは、放送室の機械の熟知だ」
劉「私、機械部門にいて良いの?」
「ああ。気持ちは分かったからな。ただし先は長いぞ~?」
劉「先輩~!!」
こいつ本当に抱きついてきやがった!
重い重い重い!良い匂い……
「重いっつの!」
劉「!また重いって言った!先輩のばか~!!」
――
――
――
目標が出来た劉ちゃんは頑張った。
夏休み前には、メンテも含めて、山田と劉ちゃんには教えることが無くなってきた。
俺は約束通り、夏休みを使って劉ちゃんの家に電話級アマチュア無線従事者試験の家庭教師に行くことになった。家に行くのはどうかと思ったが、劉ちゃんの家族、特にじいさんに押しきられた。
さすがにその頃には、劉ちゃんとは普通に会話出来るようになっていた。
彼女が女子同士で群れるタイプの女の子ではないこと、彼氏持ちの女の子であることも大きかった。
気軽に話せる後輩の女の子。
俺は楽しく彼女の家に行けるようになった。
…やっぱり、俺はガキで甘ちゃんだった。
――
――
――
「……何とかなりそうだな」
秀美「本当ですか~!?」
劉ちゃんの無線の知識は日に日に充実している。
……最初は正直どうしようかと思ったけど(汗)。
これなら電話級アマチュア無線従事者試験くらいなら、何とかなるだろう、やれやれだ。
秀美「先輩~、来週のホームパーティー、忘れないでくださいね!私がおじいさまに怒られちゃうんだから!」
「………いや、あのじいさん、最近は遠慮無く俺に言ってくるぞ。俺はあんたの孫じゃないっつうの!」
秀美「………」
「まあ、じいさんの話、面白いから良いんだけどさ。何か最近は自分たちの歴史の話とか、俺、関係無いと思うんだけど」
秀美「おじいさま、先輩のこと、本当の孫みたいに思ってるんですよ。うち男の子いないから。先輩が嫌じゃなければ付き合ってあげて?ね?」
「あいよ、ああ、来週って身一つで良かったんだよな?ドレスコードとか平気だよな?」
秀美「うん!それは大丈夫!(こっちでね)」
「?」
――
――
――
――
「なんじゃこりゃ~」
パーティー当日、念のため学生の正装である学ラン(当時は制服だったの!)でお邪魔した俺は、到着早々待ち構えていたメイドさん(今となってはみんな顔見知り)に捕まりよってたかって………
気がつけば、タキシード着こんだ見知らぬ男の出来上がり!
でもさ、それよりも驚愕の
「り、り、劉ちゃん!?」
そこには、名前以外は別人と思われる、深窓の超絶美少女ご令嬢が出現していた。
「い~~っ!」
思い切り足を踏まれた。
秀美「…いつまで呆けてんですか!」
「良かった~中身は劉ちゃんだ」
秀美「どういう意味ですか!先輩、今日のパーティーの未成年は私たちだけなんですから、しっかりエスコート頼みますよ!」
、
、
、
「つ、、疲れた」
秀美「す、すみません…まさかおじいさまがここまでやるとは…」
劉ちゃんのエスコートの話はどこいった!
俺は会場に入り次第、じいさんに連れ回されて挨拶回り?に奔走させられた。
今日ほど、自分が中学時代、体育会系野球部にいて良かったと思った日はない。
じゃなきゃ礼儀作法もさることながら、体力不足で絶対ぶっ倒れていた。
取り敢えず解放された俺のところに、心配そうに劉ちゃんが駆け寄って来るんだけど、この劉ちゃんの令嬢姿がまた心臓に悪い。
「お願い!何かしゃべって!劉ちゃんらしく」
秀美「どういう意味ですか(怒)」
む~っと膨れた彼女の表情だけは、いつもの面影が見えるんだけど。
秀美「先輩、ど~ぞ!」
「悪い~生き返った…」
劉ちゃんが、飲み物と立食のオードブルを持って来てくれた。
クスリと劉ちゃんが笑う。その笑顔、本当に心臓に悪いよ。
秀美「パーティーも、もうすぐ終わりです」
「本当?良かった~」
秀美「先輩」
「ん?」
秀美「踊っていただけませんか?」
劉ちゃんは本当に深窓のご令嬢のように、ドレスの裾を押さえてすっと頭を下げた。
「……踊れないぞ、俺は」
秀美「手を合わせて歩くだけで良いです。本当は殿方が誘うんですよ!!」
「わかりました、お嬢様」
俺は慇懃無礼に手を差しのべた
「私と一曲いかがですか?」
片手を劉ちゃんと合わせ、片手を劉ちゃんの腰に回して、俺たちは音楽に合わせる。
劉ちゃんは本当に別人みたいだ、いや、劉ちゃんは本当にお嬢様、こちらが本当の姿なんだろうな。
なんとなくシンデレラ姫の話が頭に浮かんできて、そのシンデレラ姫の顔が一瞬桂木先輩の顔に重なって、俺は不安になった。
「どこにも行かないよな?劉ちゃん」
秀美「はい?」
「二学期になっても学校に来るよな」
劉ちゃんは一瞬ぽかんとした顔をしたあと、花のような笑顔を見せて、
秀美「当たり前じゃないですか!今後ともよろしくお願いしますよ、せ~んぱい!!」
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