背が高い後輩の劉ちゃんは、彼氏持ちのくせに処女だった

ヘタレちゃん改

第1話 背が高い劉ちゃんは新入生

男の子の初恋で、「幼稚園のときの先生!」とか、言うやついるだろ?

え?いない!?

…じ、じゃあ、小学校の先生でも良いよ。

顔を思い出せるかい?

良くは思い出せないんじゃない?


俺が思うにそれは初恋であって初恋じゃない。

男は思春期に入って、恋と性をハッキリ認識して…忘れられない初恋をするのではないかと俺は思っている。

そして…俺にとって、本当に忘れられない子は…高校二年生のときに現れたんだ。

俺より背の高い、小生意気な後輩として。

――

――

と~っても自由な進学校である我が校では近年稀に見る「停学処分」を経て、明けて高校二年生の春、何故だろう?俺はケジメで退部したはずの放送部に入り浸っていた。


俺の名は桂木三月(かつらぎみつき)

まあ、これは実年齢50代の親父の思い出話だ。

放送部は衰退した。放送部の連中は「大喧嘩して悪名を流したお前が悪い」とか言っていたが、何のことは無く元々放送部自体が人気が無いんだ。そもそも花の高校生が、毎日昼休みと放課後をぶっ潰されるこんな組織に興味を持つのがおかしい…身も蓋もない話だが。


それでも昨年までの三年間、曲がりなりにも人が集まって華やかだったのは…


そう、アナウンス部門に桂木先輩がいたから…


多分、アナウンスが大好きだった美貌の桂木先輩の存在が大きかったんだと思う。なんといっても学年トップクラスの人気者だったからね。


桂木先輩は、確かに高校三年生の秋に突然失踪した。それは俺のせいかもしれないと…責任を感じているところはあるけど…

でもね、三年生だった先輩はどちらにせよいなくなる訳で、結局、放送部の衰退は必然だったんだ。

まず一学年上の先輩たちが、三年生になるのを待っていたかのようにいなくなった。

顧問の竹田先生も説得に動いたが、受験を盾に取られると強くは言えず、残ったのは、俺と同学年のアナウンサーの平田(女)と成井(男)だけ、、、。


これに新入生が三人では、どうにもならず、特に主力の二年生に機械担当がいないのは致命的で。


平田「桂木くん、お願い!戻ってきてよ!!」

こいつが俺と同クラスになったのが運のつき。

高校二年新学期から僅か一週間後、放課後捕まった俺は機械の調子が悪いとか言われて引っ張り出されて逃げられなかったんだ。


…いや、逃げようとしたんだよ?


ただ、こいつが典型的な女子で、友達軍団で囲んでくるんだよ…

「平田ちゃんかわいそう~」とか言ってさ。

…これ、俺の最も苦手なタイプなんだよね…


…で、久しぶりに放送室に連れて来られた俺は、「機械の調子が悪い」どころか、目を覆うような修羅場に遭遇する羽目になる。

――

――

「…なんだ…これは!!」

平田「な、成井君!なんで煙が!?」

成井「わ、分からないんだ、突然って、桂木!?」

?「ひええ~」

そこには、170㎝近い身体を縮こませながら、ワタワタしている大女が。

「ちょっとどけ…ヒューズが切れてる。どんだけ負担掛ければ…って、なに強引に繋げてんだ!!」

?「あわわ…」

「いいから、どいてろ!邪魔だ大女!」

?「お、大女って…なんですか!あなたは!放送室は部外者立ち入り禁止です!先輩~放送室に変な人が入って来た~」

「あ~もう、こんなにしやがって!」

?「触っちゃ駄目です~私がやります!」

「こ、、この大女!」

?「あ~また大女って言った!!あなたがちびなのが悪いんじゃないですか~」

「いいからどけ!このままじゃ、このままじゃ今日の放送番組がぶっ飛ぶぞ!!」


このくそみたいな言い合いが、こいつとの出会い。

修羅場の吊り橋効果で惚れたのかって?

最初は殺意しか湧かなかったよ!!

ちなみにヒューズぶっ飛びの強制接続で放送室の機械は火事寸前だった。

何とか、何とか接続を根本から見直した上でヒューズを交換して、放送部の当日業務をこなし終えて。

その日の帰りに、俺は顧問の竹田先生とサシで話したんだ。

(ラーメン奢って貰いながらだけど)。


もちろん先生は俺に戻って来て欲しいと。


俺は、先生にだけは、先生にだけは桂木先輩とのこと全部話したんだ。桂木先輩の失踪は俺のせいかもしれないって。

そして俺の気持ちも伝えた。

けじめとして、とても放送部には戻れないって。


先生は俺の気持ちには寄り添ってくれて、放送部には戻れないことには理解を示してくれたんだ。


だけどさ、、、


先生「桂木、、一つだけ良いか?」

「はい…」

先生「お前、、今まで俺のラーメン何杯食べた?」

「………は?」

先生「そのままって訳にはいかないよなあ(笑)」

「………(大人って汚い!)」

結局、俺は放送部に席は戻さず、でも機械作業には携わると言う、摩訶不思議な立場になった。


なんのこっちゃ!?


放送室は学校公共施設…そんな立場じゃ入れないでしょう!?と言ったんだけど、何とかする!と。

竹田先生…何か学校の弱みでも握ってるんか?

と、言うことで俺が何とも中途半端な立場に追い込まれてすぐ。

今年の物好きな新入生のお三方。その新人歓迎会………そこには当然、あの大女もいたんだ。

放送室ってのは一種の治外法権でね。生徒はもちろん先生だってめったに入ってこない。

何かの設計ミスなのか何故か余裕があってね。

簡易ベッドや運動器具、そして打ち合わせ用には大きすぎる円卓まであってね。

俺たちはその円卓を使って、新入生の歓迎会をやっていた。


まあ、俺も事実上の再加入なんで歓迎される側に入れて欲しいのだけど、そんな我が儘は通じず。


歓迎する側は、

成井(男)アナウンサーで部長。

平田(女)アナウンサーで副部長。

(ちなみにこいつらカップル)。

それと俺。何でも屋?部外者?説明がつかん。

新入生たちも?マーク。

ちなみに歓迎される側は

山田(男)機械部門。但し電気部と相乗り。なぜかイガグリ頭で体育会風。

錦野(にしきの)ゆうこちゃん、アナウンサー希望。

小柄で長い黒髪を後ろで纏めた眼鏡っ娘。なんとも新入生らしくきゃっぴきゃぴ。


そして、もう一人、大きな身体を折り曲げて、ジュースをにこやかに注いで回っている女の子がいた。


劉(りゅう)秀美(ひでみ)ちゃん、中国籍日本生まれ。

身長169cmとか言ってたな。

悔しいが当時の俺よりかなり上。

あ、全然太ってはいないんだよ?

むしろ身長とのバランスでえらいスレンダーに見える。

ショートカットで遠目には中性的なんだけど、近寄ると目鼻立ちが整って美人顔。

女の子は二人とも中学校からの彼氏がいるとかで、山田はがっかり顔。

こいつ、放送部への出席率が下がるんじゃないかな?

劉「え~と、先輩、、で良いのかな?ジュースまだ要ります?」

「先輩違う!部外者。あ、、ジュースは欲しい」

劉「じゃあ、部外者先輩ですね。私は秀美。劉秀美です。あの時は失礼しました。だけど私、機械部門志望なんでいずれ部外者先輩から全てを吸収してあなたを追い出します!」

「その心意気は良い!!でもな…一週間見てたんだけどさ、お前、機械の適性乏しいよ。成井が勧める通りアナウンサーのほうが良いと思うな」

劉「ひど!たった一週間で何が分かるのですか!?」

「………いや、初日で分かったんだが、それでも我慢して一週間見ていたんだが」

劉「私のどこが適性無しなんですか!」

「お前、初日、何を壊しかけたのかもう忘れたの?機械を無理やり繋ごうとするの最悪なんだよ」

劉「、、、、(汗)」


危うく、その日の放送番組がパー。


劉「し、しかしそれは"弘法も筆の誤り"というか」

アホが!諺(ことわざ)になっておらん!!お前、よくこの進学校に入学出来たな!!

「おい!山田!!お前、さっさと機械のこと全部覚えて、俺をオン出せ!」

山田「いや~、俺は電気部あるっすから」

劉「私を無視しないでください!」

「劉ちゃん、お前さ、アルトの声がはっきりしてて綺麗なんだから、良いアナウンサーになれるんだよ」

俺、機械を守りたい一心……

劉「き!綺麗って、、わ、私を口説いてるんですか!」


口説いてません!!


劉「と、ともかく私はこれからも機械部門志望ですから!」


あ!バカ!そんなところで足元気にしないで動くと………


劉「きゃああ!」

お約束の通り、足を線に引っかけ、悲鳴を上げて、彼女が倒れ込む。

俺は正直、こいつより引っ掛けた接続線の先の機械の方を気にしてとっさに動いたんだけど……その時見えちゃったんだよね、彼女の足首が一瞬、曲がってはいけない方向に曲がってしまっていたことを。


気がついたら身体が勝手に動いていた。


「え?」「え!?」まわりの驚愕。


「平田!扉を開けろ!こいつの荷物持って着いてこい!」

劉「いたたた、、、え?きゃああ!?」

問答無用。俺はこいつをいわゆるお姫様抱っこにして、保健室に走り出した。



実のところ、桂木先輩には申し訳ないが、俺は高校時代の桂木先輩の顔って、良くは覚えていないんだ。俺の童貞を掠めとり、もしかしたら俺の子を孕んだかもしれない彼女の顔を。

………本当に俺、ガキだったんだよな。


劉ちゃんとは、高校以降は会えなくなるんだけど。

それでも劉ちゃんの顔は覚えている。

今でも鮮明に思い出せるんだ。

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