第3話 森のなか出会った

「ねぇ、あそこに誰かいる」


 だいぶん歩くと、一つの塊に見えていた森の一本一本が見分けることができるようになった。

 同じような木が並んでいて、人の手が加えられているなぁ、などと考えていると、マリーナが人影を見つけたらしい。


 マリーナが指差す先には、確かに人影があった。

 人影は木に隠れるようにして、森の中の様子をうかがっている。


「何をしているのかしら」

「分からないけど、一人みたいだね」

「確かに、他には誰もいないみたいだけど……、あの人に声をかけてみる?」


 ここから見える限りでは、危険な武器を持っているようには見えない。

 だからといって安全な理由にはならないけれど、大剣を抱えた重戦士よりは声をかけやすい。


 木陰から覗いているのは、小柄な女の子。

 見るからには変な格好はしていない。何かを入れた腰袋が膨れていた。


 髪は少しボサボサに散らかっている。

 肩が少し痛いのだろうか、木に寄っかかりながら、左手で右肩を抑えていた。


(ねぇ、どうするの?)

(あの子しかいないみたいだし、声を掛けるしかないね)

(……待って、声をかけるのはいいけれど、自分のことをなんて説明するの? 見た目は……あなたは変わっているようには見えないけれど)

(マリーナも前の世界と変わらないよ。ただマリーナの言う通り、僕たちが何者なのかわからないし、できる限り余計なことは言わないようにしないとね。見た目はそのまま魔王に転生してるかもしれないし)

(……魔王って何? いや、待って。転生ってなに? 私たちがどうなっている可能性があるのよ!)

(だから、そういうことも分からないんだって。だから、あの子から色々聞かないといけないって話だったでしょ)

(それはわかるけれど……私、そういうの上手くないわよ)

(うん、分かってる)


 ボコッ。


(じゃあ、あなたが行ってよね)

(もちろん。ただ、急に襲われるかもしれないから、一緒に来てね。何もしなくていいから)

(分かったわ)


 小声での作戦会議が終わり、僕らは女の子に歩み寄る。

 少し大きな声を出せば、気がつくような距離に接近しても女の子は熱心に木陰を覗いている。


「あのーすみませn」

「ひぇぇっ!! してませんしてません! わたしは何にもしてませんでした!」


 僕たちが声を掛けた途端。

 女の子は飛び上がったかと思えば、腰を抜かしてその場にペタンと座り込んだ。


「えっと…大丈夫?」

「……ひぃいぃ」

「話せる状態ではなさそうね」

「オレたちはキミに危害を与えたりしないよ。ただ少し聞きたいことがあるんだ」

「わたしは何もしていませんー!!」

「だから落ち着いてってば。別に何もしないから、ただこの辺りについて聞きたいだけなんだ」


 取り乱してばかりの少女に、オレがなだめるように話す。すると少女も落ち着きを取り戻し、こちらをジロジロと見てくるようになった。

 丸い黒目がちの白目の濁っていない目が、オレ達の身体の上で動き回った。


「たた確かに、お二人はバイトール商会の人間ではなさそうですね。取り乱して申し訳ありませんでした」


 少女はペコリと頭を下げた。3つの三つ編みがそれに従い、肩へ垂れた。

 少女はそれを払いながら話を続ける。


「この辺りについてですか。それはですね……その、なんといいますか……」

「何か言いにくい事があるなら、言わなくてもいいんだよ」

「いやっ! スゥーッっとですねー、言えないわけではないというかですね」

「何か言えない事情があるのかしら」

「はいぃ」


 マリーナが口を挟んだ。その一言が核心だったようで、女の子はドギマギ目線を泳がせている。


(どうするの? 話しが出来るような状況ではなさそうだけど)

(何だか隠し事をしているみたいだし、面倒事になっても嫌だから、他の人がいないかだけ聞いてそっちに行こう)

(えぇ、そうね)


 二人の意見が一致した。

 少女には深入りしないようにと思ったのは、オレだけではなかったようだ。


「それじゃあキミも事情があるようだし、深くは聞かないよ。ただ、近くに町や村はないかな。この辺りには詳しくなくて教えてほしいんだ」

「それならあっちの方に集落があって、そこから町まで乗り合いの馬車が出てます」


 少女は心臓を隠すように心臓のあたりで重ねていた手を解き、森沿いの方向を指した。

 少々小高い丘があって向こう側は見えないが、超えたら見えてくるだろう。


「そうなんだ。ありがとう、それじゃーー「待ってください!」


 オレとマリーナは早く立ち去ろうと、素早くお礼をいい、少女から離れていこうとした。

 が、少女が何か一大決心をしたかのような、緊張した声色でオレ達を呼び止めた。


「ここで会ったのも縁でしょうから、お二人にお願いがあります! タダとは言いません! 必ず払えるものは払いますから、手を貸していただけませんか!」

「いや、オレ達はさっきこのあたりに来たばかりで……」

「小金石があるんです。先祖代々の小金石があるんですぅ!」


 そう言って、少女はパンパンに膨らんでいた腰袋に手を突っ込み、慌ただしく何かを取り出した。

 それをオレ達に見せつけてくる。


「……ゴールドの原石じゃない。しかもこんなに」


 マリーナが少女の見せてきた、金色に輝く石を見て驚く。

 確かに少女が持っているのは前の世界で言う、ゴールド。いわゆる金の原石だった。


「ゴールド……ですか? やはり、お二人は別の国の方なんですね。身なりが立派なのでそうかと思っていましたけどぉ」

「あぁ、まあそんなところだよ。それで、そのゴールd……小金石がどうしたの?」

「それが、この小金石はわたしのおじいちゃんがこっそり隠していたみたいで、このままだと不正に金品を隠していたとして、処刑されてしまいますぅ!」

「処刑」

「わたしは何も知らなかったんです。そこでなんとかお知恵を貸して貰えませんでしょうかぁ! お二人なら詳しいでしょう!?」

「いや、そんな事言われても」


 少女はオレとマリーナの間で、二人の腰にしがみついて泣き始めた。

 オレは困ったなと思いマリーナの方を見た。

 オレと目が合うとマリーナはため息をついた。


 もう助けるしかないわよ。


 マリーナの目はそう言っていた。

 



 






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ゞ異世界転生ゞ〜転生を繰り返してたオレ、だんだん連れが増えていく〜 ㈱榎本スタツド @enomoto_stud

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