第2話 まずすべきは
意識が覚醒する。
まぶたを開く。
寝不足のときの重たさはない。
パッと目が覚める。
気分がいい。
「ここが次の世界か」
異世界に転生したら一番にするべきこと、それは情報収集。
オレは経験則からそう考えている。
自分が誰で、ここはどこなのか。
それを調べることが最優先なのだ。
確かに、食べ物、飲み物、住むところも大事だがそれよりも先に自分について知る必要がある。
ペタペタと自分の体に触れてみる。何か異形のモノになっていたりはしないみたいだ。
手を見てみても、前回の世界とは変わりがない。
「今回は前回を引き継いだまま転生したのか」
そういうこともあった。
だから、今のオレは王の子供だった前の世界の能力を引き継いでいるのだろう。
じゃあ、早速人を探そうと立ち上がろうとしたが、すぐに事情が変わった。
「やっと起きたわね! ここは一体どこなの?」
「マリーナ……!?」
目を覚ますとマリーナが隣にいて、既に目を覚ましていたのだ。
自分と同じ王立学院の制服を着たままの姿である。
これまでの転生ライフでは、誰かと一緒に別世界に移動したことなどない。
オレはたった一度の転生で、幾度もの転生経験で築き上げた転生時のルーチンを、総て変えざるをえなくなったのだった。
「オレも知らないよ。今、目を覚ましたばかりだし」
「うそ、待って……本当に知らないところに来たの? そういう意味で言ってる?」
「だから言ったのに、別の世界に行くって」
「だって! ……まさか、そんな事信じれるわけないじゃない!」
「オレもここが何処とか何も知らないけど、ここが今までいた世界とは、別の世界ということだけは確かなんだよ」
オレがそう言うと、マリーナは全てを諦めたように仰向けに倒れた。
マリーナが倒れると青草が揺れた。
青臭い匂いが広がる。何かが始まろうとする匂い……とは思えなかった。
「何だかもう笑えてくるわね、現実味がなくて」
マリーナは腕で目を隠すように覆い、そのまま話し始めた。
オレは体を起こしたまま、マリーナの方を見ている。マリーナの胸骨が動くのがよく見えた。
「でも、良かったわ。あなたを見つけ出せて」
マリーナは落ち着いたかと思えば、またオレへの信頼を語り始めた。オレはそれがむず痒くて、そして不思議で仕方ない。
「あのさ、確かに仲は良かったとは思うんだけど、どうしてそんなに優しくしてくれるの?」
「あなたには分からないかもしれないけれど、私はあなたに感謝をしていたの。そして今も変わらないわ。知らない場所に来た今もね」
「何がそんなに……」
「簡単よ。私、学校で浮いていたの。ううん、そういう風に自分で思い込んでいた。勉強も普通、生まれも平民。一緒に入学した平民の子達は有力貴族の派閥に入っていくのに、私は嫌な気分がして入れなかった。話せるのはあなただけだった」
「それはオレも普通の人間だからで……」
「違うわ。あなたは王族なのよ。普通とは違う人間として生まれ、普通とは違う育てられ方をしてきた。それなのに私にも隔てなく話してくれた。周りには、私があなたに取り入ろうとしているように見えたでしょうね。でも、あなたはそういう目で私を見なかった」
マリーナは深刻に、真剣に思っていること吐露してくれている。
それはマリーナのオレに対する信頼の証しだろうけれど、オレは本当に分け隔てなく接していただけで、それはオレが世界をリセットをしてくるうちに身に着けた一種の自己防衛術でしかなかった。
つまりは、誰と仲良くするとかどうでも良くなったのだ。どうせいつか世界を分かつのだから仲良くしても分かれてしまう。
でも、マリーナは着いてきた。
「マリーナの言いたいところはわかった、僕を信頼してくれていることも。ただ、今はそれよりもここがどんな所なのか先に調べよう」
オレはまたマリーナの腕を掴みそう言った。
ズルいやり方だと自分でも思った。
今まで、誰かが転生についてきたことなどなかったから、一時の熱情で抱きしめたのかもしれない。
でも、そうするしなかった。
熱っぽく語るマリーナには、情熱で答えるしかないと思った。
急に抱きしめたせいか、マリーナは一瞬体を震わせた。
でも、小さくうなずいた。そしてわずかに、
「うん」
とだけ言った。
オレは意思が伝わったことが分かって安心し、今まで感じることのなかった連帯感をマリーナから感じた。
まるで世界に二人だけかのような気分に陥る。
「じゃあ、とりあえず人間の痕跡を探そう」
「そうね」
マリーナはオレの身体からゆっくりと身を離し、顔をぬぐった。
オレはそれを少しだけ見つめ、落ち着いたのを見届けた。
異世界に行って最初にするのは情報収集と言ったが、具体的には人を探すことから始まる。
世界で最初に会った人間の反応をみて、世界がどれぐらい懐が深いのかを見極めるのだ。
経験的には、どんな世界に行こうとも対話可能な人間が多い。
しかし、世の中が広いなら別世界はもっともっと広い。
初手で投石してくるヤツもいれば、服装をみて神か何かと勘違いして崇め奉るヤツらもいる。
そういうときはまた転生するだけだから別に構わないのだけれど、できる事なら厄介事は避けたい。転生スキルがあるとはいえ、死んでしまってはどうなるのか分からないからだ。
とにかく、人と出会わなければ何も知ることはできないのだ。
「じゃあお互いが見える範囲に広がって、一方向に歩いて行こう。途中何かあったら報告ね」
「わかった」
「じゃあ、森の方向に向かって歩いていこう」
そうして俺たちはただっぴろい草原を、彼方に見える木々に向かって歩き始めた。
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