ゞ異世界転生ゞ〜転生を繰り返してたオレ、だんだん連れが増えていく〜
㈱榎本スタツド
第1話 n回目の転生
オレ、ジュンタロウ・ノートミは異世界転生に魅せられた人間だ。これまで何度も何度も異世界転生を繰り返している。
最初に転生した世界のことは……覚えていない。ただ自分が生きていた世界、いわゆる現実世界から、異世界へ転生するときに一つ特殊能力を貰えた。
そこで俺は「自在に異世界転生する能力」を要求して、それから、オレは異世界転生にどっぷりハマってしまった。
だって嫌なことがあったり、生きにくい世界なのだったら転生してしまえばいい。
ランダム生成ローグライクゲーで、クリア出来ない面があったらすぐに諦めて次の攻略でゴールを目指すだろう? その感覚に似ている。
好奇心はあるが飽きやすく、やる気はあるが打たれ弱いオレにはピッタリの特殊能力だった。
だから、その理屈でもって、今の世界に飽きたオレは次の世界へと旅立とうとしているのだった。
「今の世界はハズレだったな」
今回の転生では、オレは王位継承権5位の男子に生まれた。そういうことになっていた。
親が太い(王家を太いと言うかはわからないが)おかげで、過去の転生のときみたいに朝露を飲んで飢えを凌ぐことはしなくてよかったが、周りにいる人間がクソすぎた。
意識がはっきりしないうちから、誰が優秀なのかの見極めが行われていくのにはもう嫌気が差したのだ。この世界では数少ない王家かもしれないが、別の世界に行けば王家など腐るほどある。
だから、オレは別の世界に行くことにした。
既にスキルは発動したあとだから、あとはその時を待つだけでいい。
体を浮遊感が包む。
転生へ向けて準備が始まったのだろう。
あぁ、これでこの世界からも消え去る事ができる。
心残りはなにもない。
消えゆく意識の中、そんな事を思っているときだった。
「やっと見つけた! 何してるの!」
「え? マリーナ!?」
誰にもバレないように行動したはずだった。
いつも通り王立学院へ送ってもらい、実家からは平然と出てきた。
学校から出るのにも、学校裏にある散策林のルートから外れた道を使った。
この場所にもう一度行けと言われても行けないような場所だ。
それなのに、オレのクラスメイトの女子――マリーナ・ベイカーがそこに立っていた。
マリーナは平民の出だったが、明るく勉強熱心で余計なことをしないからすごく好感が持てた。加えて、席が近いこともあってか、クラスではよく話していた。
でも、欠席したぐらいで探す程の仲ではなかったはずだ。
「なんで、マリーナがここに?」
「あなたを探しに来たからよ。今日は、午後から不文律史のテストでしょ? アレを落とすと補修になるから、さっさと戻りましょう」
マリーナはそう言って、僕の手を引いていこうとする。
目があった。
あまり可愛いわけではないかもしれないが、色白のフレッシュな顔立ちが汗で少し色づいている。笑うと半月のようになる目も愛嬌があった。
日は既に高くなっていた。今から戻って、やっと試験に間に合うかどうかだろう。
しかし、既に転生を開始してしまった。
オレはそれをマリーナに伝えなければならない。
「ごめん、オレは行けないよ」
「何言ってるのよ。あなたが勉強してないかもしれないけれど、私はしっかりしたの。受けないと勿体ないじゃない」
「確かに勉強はしてないけど……そういうことじゃないんだよ」
「じゃあ、どういうこと?」
「受けても意味がないんだよ」
「そんなわけ無いでしょ。補修受けなくて良くなるんだから」
「違うんだ。オレは世界から消えるんだよ。だから、テストとか補修とかももうどうでもいいんだ」
「……何それ。私がいる前で、あなたを死なせないわよ」
「死ぬわけじゃないんだって。別の世界に行くんだよ」
マリーナは理解しがたいようで、平行に整えられた眉毛を歪ませている。
その最中でも、オレの転生の準備は進んでいる。着々と体から力が失われていた。
「だからごめん、マリーナ。来てくれたのは嬉しかったけど、もうテストを受るつもりはないから、マリーナだけでもーー」
「私も行く」
「えぇ!?」
そう言うと、マリーナはオレの体に抱きついて来た。しがみつくという方が正しいかもしれない。
いつも漂っている金木犀の香りはしなくて、今は草土の匂いがした。
おでこで分けた前髪が汗で張り付いている。
それに気がついて、ここまで来るのに、大変だったんだろうと思われた。
オレは急に親愛や愛情、それに加えて感謝やその他諸々が混じった感情が胸に押し寄せてきて、気づけばマリーナの額にチュウをしていた。
「ななな! 何をしてるの!」
マリーナは突然すぎたことに驚き、頭を振って抵抗した。
オレも思いがけずしてしまったことを謝ろうとしたが、できなかった。
「新たな世界へ転生します」
脳内で誰とも分からない音声が流れ、視界が曇っていく。
すると視野がボヤケて、グルグルと目が周り、天と地が分からなくなり、最後にすべてが一つになる。
そして、俺は次の世界へと転生したのだった。
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