第62話 新たな生命

花見当日、子供達は朝から楽しそうに準備している。


いちご狩り以来の、久しぶりの外出だから仕方ないよな。


由香里を筆頭に女性陣がお弁当を作っているが、彩香は待ちきれないみたいだな、玉子焼きをこっそり食べさせてもらっている。


穂香は料理を教わりながら楽しそうだし、本日の主役の志帆は、未来と和美に連れられて衣装部屋に行ってしまった。


何を着せられているのかは、俺の格好から予想が出来る。


ははっ、本日の俺は白のタキシードを着ていて、まるで新郎の様だな。


結婚式はしたことがないので、こんな格好は初めてした。


まさかこの歳になって新郎の衣装を着るとは思いもしなかったな。


暫く楽しそうな皆の姿を眺めていると、未来が部屋に入ってきた。


「花嫁さんの準備が出来たよ!

さぁ、入場して下さい!」


和美に手を引かれて、とても美しい花嫁さんが入ってきた。


皆が拍手で迎えるなか、俺は見惚れていた。


ヤバい!美しすぎる!

元より綺麗な顔立ちの志帆だが、さらに美しくメイクされ、肩を出し美しい胸の谷間も覗いている。


細く美しい括れに、下に行くに連れて広がるドレス。

ふわふわとしたフリルも美しさを際立たせている。


抱き締めてお持ち帰りしたい。が必死に堪えて「志帆、とても綺麗だよ」と言う。

紳士なのだよ、私は。


亜季が写真を撮りまくってるな。

後でデータを貰わなくては。


他の皆も準備は出来た様なので、転移で桜の咲き誇る場所まで移動する。


今回は空の旅は無しにした。

ウェディングドレスでは、狭くて身動きしづらいからな。


桜の木が立ち並ぶ中、少しだけ開けた場所があるので、そこに会場を設置する。


テーブルと椅子を取り出し、料理をどんどん並べていく。

準備が終わり、皆が席に着いたので挨拶をさせてもらう。

志帆からするらしい。


「私は子供を授かる事が出来ないと言われ、女性だけが味わえる幸せの一つを諦めていました。

他にも幸せはあると言い聞かせながらも、他の女性が選択出来る幸せを、私は選択出来ない事を悲しみました。

その上こんな世界になり、絶望の中で生きていられたのは、沙季と明美が居てくれたからです。

そして絶望の中から私達を救いだしてくれた高遠さん。

そんな私達を受け入れ、家族だと言ってくれた皆さん。

ここにいる全ての方々に感謝しています。

その皆さんとの暮らしの中で、諦めていた子供を授かる事が出来た事、大好きな人の子供を授かれた幸せを、今とても感じています。

改めて言わせて下さい。

本当にありがとうございました。

産まれてくる子も含め、今後もよろしくお願いします」


女性達が涙を流しながら拍手をおくる。

俺も涙を堪えながら拍手する。


暫くすると皆の視線が俺に集まっている。

何してるの?あなたの番ですよ!との無言の圧力に圧されながら話し出す。


「これからも大切な、愛する家族を必ず守っていきます。

皆さん、これからもよろしくお願いします!」

恥ずかしくて気のきいた台詞は言えないが、決意表明をさせてもらう。


皆が笑顔で拍手をおくってくれる。

恥ずかしいが悪くないな。


その後は、食事を楽しんだり桜の下で記念写真を撮ったり、各自が楽しんでいく。


皆それぞれに大切な人を亡くしたり、辛い思いを沢山してきた筈だ。

それでも今、皆で幸せそうに笑っていられる。


もしかしたら、今では俺達が日本で一番幸せなんじゃないだろうか?

何百人と集まっていた自衛隊の避難所では笑顔なんてあっただろうか?

俺はこの笑顔を守っていきたいな。


子供が産まれるのは来年になってからか?

それまでに準備をしておくとして、少し今の情勢とか確認しておきたいな。


これまで俺達の住んでいる場所から北側は、かなり探索を進めてきたが、生存者の集落が無いんだよな。


見逃している可能性もあるが、自衛隊の基地にも避難民は居なかったんだよな。


なぜ政府?自衛隊?誰が指揮してるか分からないが、その指揮官は国土の北側半分を放棄したのか?南は調べてないから分からないが、雪に閉ざされてしまう事だけが理由なのか?


この辺は雪があまり降らないのに自衛隊基地が放棄されてるのは何故だ?

考えられるのは原発か?

あれを危険と判断して避難したのか?

分からないが、今後の皆の生活を守るために、確認しなくてはいけないな。


放射能出てないよね?出てたら今現在、無事ではないのかな?測定器を探して計ってみる必要もあるかな。

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