第42話 年越し

目が覚めると隣に、スクール水着姿の和美が寝ている。

可愛い。

乾いているスクール水着って、触り心地がいいな。

感触を楽しんでいると、和美が目を覚まし、

「お兄ちゃん、おはよう」

と言って抱き付いてくる。

和美は昨日の夜から、お兄ちゃんと呼んで甘えてくるが、プレイだと分かっていても、つい、にやけてしまう。

暫く兄妹のスキンシップを楽しみ、今日も一人で食堂へ向かう。

いつもと同じく、からかわれながら朝食を済ませ、皆と訓練をする。

そうして日にちはたち、今日は大晦日と言うことで、訓練は暫くお休みだ。

女性陣は今日の夜と、正月の料理を準備するそうで、皆で楽しそうに話している。

俺は好きにしてて、と言われてしまったので、電話帳で調べた警察署へ、弾薬の確保に向かうことにした。

志帆も銃術の魔力調整が出来るようになり、今後も銃を武器として使っていくそうなので、弾薬はいくらあっても困らない。

近隣の県だけでも、数十ヶ所あるので急いで廻ろう。

頑張った結果、今日一日でかなりの数を確保出来た。

俺達だけなら、数十年は困らないだろう。

一人満足して帰還すると、皆も食堂で休んでいた。

年越しの準備も、終わったそうだ。

大掃除は俺がクリーンをかけて廻ったので、どこも綺麗になっている。

全員が揃っているので、最近訓練を頑張っていた皆に、サプライズだ。

次元空間に大浴場を作っておいたのだ。

作ったと言っても、探索時に発見した綺麗な銭湯を、空間切断で建物を丸々切り取り、入れただけだが。

時空魔法を大掛かりで使うのに、MPが心もとなかったため、強化樹でMPの強化をした。

HPとMP強化は、増加値が想定よりも多かったので嬉しかった。

銭湯で使用する電力は、建物の外にディーゼル発電機を並べて使っている。

建物の外では結構な音を鳴らして、発電機が稼働している。

皆を大浴場に案内し、二時間後に迎えに来るから好きに使ってくれ、と立ち去ろうとすると、皆で入ろうと彩香が言い出す。

誰も反対しないどころか、乗り気で俺を引っ張って行こうとする。

穂香も楽しそうに俺の手を引くので、お言葉に甘え、ご一緒させてもらう。

子供達もいるので、普通に風呂に入っただけだが、今年の疲れは、全て癒された。

やっぱり風呂は良いもんだな。

風呂を出た後は、準備出来ていた年越し蕎麦を食べながら、皆で年を越した。


皆で新年の挨拶をする。

新年になり、何が変わるでもないが、皆で年越しを祝う。

去年は、家族や知人を亡くした者も多くいる。

今年は、誰も失うこと無く、楽しく暮らしていきたいな。

ただ生きていくだけなら、皆には拠点に引き込もってもらい、俺が物資を調達してくればいい。

でも、それだけでは楽しく無いよな。

皆の意見を聞きながら、それぞれが楽しく暮らせる様に、今年は頑張っていきたい。

自分の中で、そう決意表明をし、皆の表情を眺めて過ごした。

暫く皆で騒いでいたが、子供達は限界を迎え部屋で休ませている。

みんな、お酒を飲んで素面ではないが、だからこそ、本音を聞きやすいかもしれない。

そう思い、皆に尋ねてみる。

「皆はこれから、どうしたい?

ある程度のレベルには到達したから、今後は無理にモンスターと戦う必要もないと思う。

もっと人が多く集まっているコミュニティも 、探せばあると思うし、そこに行きたいとか、親族や知り合いを探したいとかでも良いし、何かやりたい事とか無いかな?」

みんな、考え込んでいるのか話さない。

暫く待っていると亜季が話し出す。

「都会なら、地元に親や友人がいるとか有るのかもだけど、ここみたいな田舎じゃ、親元に住んでいるか、そうでなくても近くには住んでいる人ばかりたからね。

今、県内で生存しているのは、このグループだけなんだよね?それなら、近しい知り合いが生存しているとは思えないよ。

知り合いの居ない、他のコミュニティに参加したいとも思えないかな。

高遠さんの側より安全な場所は、たぶん無いと思うよ」

みんな親族や知人の生存は、諦めているんだな。

このまま、皆でスローライフを堪能するのも悪くはないが、どうするか。

俺は長くとも40年もすれば、寿命で死ぬだろうし、もっと早くに死ぬかもしれない。

その後、皆はどうするのか?

志帆と子作りの約束もしている。

その子はどうなるのか?

子作りを止めるか?

こんな世界で生き残れているだけで、奇跡なのかもしれないが、それって、いざ寿命を迎えた時に幸せだったって思えるのか?

それとも、こんな世界になったしまった時点で、人類に幸せな未来なんて、あり得なくなってしまったのか?

分からない。

何で俺はこんな力を持っている?

明らかに他のメンバーよりもチートだ。

俺は何をするべきか?

何か、したいのか?

分からない。

皆を幸せに出来るのか?

俺は幸せなのか?

少なくとも俺は幸せだ。

こんな世界にならなければ、今の様に女性達に囲まれた生活など、あり得なかった。

日々の糧を得るために働き、特に幸せを感じる事もなく、生涯を終えたのだろう。

そうか、俺はこの世界が好きなんだ。

何も出来なかった以前の世界ではなく、誰かを助け、求められるこの世界が。

思考加速は働いていたと思うが、それでも考え込んでしまっていたらしい。

みんな心配そうに俺を見つめている。

俺は皆にやりたい事を決めさせ、それを手助けしようとか考えていたが、結局人任せにしようとしていたんだな。

悪い癖だな。

こんな世界になってしまったんだ。

自分の意志で、やりたい事をやろう。

自分勝手は良くないが、皆に助言を貰いながら、俺が後悔しないように生きていこう。

今でも十分幸せなんだ。

これ以上の高望みはせず、それでもこれからも幸せだと思えるように。

取り敢えず、心配そうに見ている皆に伝えよう。

「俺は皆と居れて、とても幸せだ!

これからも俺と一緒に居て欲しい!」

いきなり叫んだ俺に、みんな驚いていたが、やがて笑顔になり

「ずっと一緒だよ!」

「もちろん!」

「離れないよ!」

等々、応えてくれる。

こんな世界で俺は、幸せだ!


暫く皆で盛り上がっていたが、ふと振り返って恥ずかしくなってきた。

「みんな、ごめん。

自分の世界に入って、テンションがおかしくなってたみたいだ。

これからもよろしくってのは、間違い無いけど、今後も俺がおかしくなったら、止めて欲しい」

「分かったよ、高遠さんは私達が居ないとダメダメだからね。

しっかりと見てて上げるよ」

亜季が可愛らしい顔をニヤニヤさせながら言ってくる。

その通りなので反論できない。

俺は皆がいないとダメダメだからな。

これからも頼りにさせてもらおう。

その日は結局、具体的な事は何も決まらずに、俺の心が少し整理されただけで就寝する事にした。

女性陣はまだ話すそうで、久しぶりに一人で眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る