第20話 ステータス獲得者
他人視点
私は 藤森亜季子 26歳 警備会社で女性警備員として働いている。
小学生の時に両親が離婚をして、母子家庭で育った。
離婚前は父がお酒を飲んでは母に暴力をふるい、私は泣きながら父にぶつかっていっていた。
私が頑張ってお母さんを守っていれば、いつかヒーローが現れて助けてくれると信じていた。
小学生で身体の小さかった私は、相手にもされなかったが、母を守りたいと必死で向かっていっていた。
その後、母が離婚を決意して別れてからは、二人で協力して暮らしてきた。
子供の頃の境遇からか、気が強く育ってしまい、男性も少し苦手だ。
母は離婚後に介護の仕事を始め、私を高校まで行かせてくれた。
大学も行くように勧められたが、断り今の職場に就職した。
高校からの友達に勧められ、男性とお付き合いしたこともあるが、どいつも下心ばかりで、大して気持ち良くもない行為の相手をするのも面倒になり別れた。
包み込むような包容力が、全く感じられない男しかいない。
その後の数年は独り身でいる、結婚もしたいと思えない。
ある日、母と楽しく生活していた平穏が崩れた。
外出には規制がかかり、外では凶暴化した動物が人々を襲うようになってしまった。
母も私も仕事は休みになったが、母は今日仕事場の老人ホームに行くと言う。
入居者の老人達が心配なのだそうだ。
気持ちは分かるが、外は危険だ。
行って欲しくないと頼んでも、母は近いから大丈夫と聞いてくれない。
私が頑固なのは母に似たのだろう。
言い出したら聞かないと思い、それなら私も行くと同行することにした。
母は私を一人残すのも心配だった様で、同行を歓迎してくれた。
老人ホームまでは動物と遭遇することもなく、無事にたどり着いた。
人のいない道路は少し不気味ではあったが、報道ほど数は多くないのかもしれない。
老人ホームには何度も来たことがあるので、ほとんどの入居者や介護士とは顔見知りだ。
他にも何人かの介護士が、老人達を心配したり、設備の整っているここの方が安全だとの判断から来ていた。
子供を連れて避難してきた人もいるそうだ。
老人達は更に賑やかになったと、喜んで私たちを受け入れてくれた。
私達が老人ホームに来て二日後に、談話室で飼っていたハムスターに異変が起きた。
専用のゲージの中で、身体が5倍くらいになり、喧嘩を始めたのだ。
二匹いたが片方が力尽き、生き残った方が死体を食べ始めた。
周りで見ていた人達は、恐怖で顔をひきつらせる。
骨まで残らず食べ尽くしたハムスターは、ゲージの中で暴れまわっている。
このままではゲージが壊され出てきてしまう。
他の人達は恐怖から離れたところで見ている。
私は覚悟を決めてキッチンから包丁を持ってきた。
「亜季、何するつもり!?」
母が手をつかんで止めてくる。
「みんな分かってるでしょ?
この子はニュースでやってた凶暴化した動物と同じだよ。
このままじゃ外に出て来て、私達が襲われるよ!」
「そんな、でも…」
「私がやるから皆は他の部屋に行ってて」
「ごめんね」
と言って数人は部屋を出ていった。
残っている人を見ないようにしつつ、ハムスターにゲージの隙間から包丁を突き刺す。
硬くて少ししか刺さらない。
暴れるハムスターに何度も突き立てるが、少し血が出ている程度だ。
このままではゲージがもたない。
私はゲージを持ち上げ部屋を出た。
「亜季、どこに行くの?」
「お風呂場」
風呂場について、ゲージを水の貯まった浴槽に入れる。
浮いて来ようとするハムスターを、包丁で上から押さえつけながら暫くすると、ハムスターは動かなくなった。
ステータスを獲得しました。
そんな声が聞こえた。
初めはステータスの使い方が分からなかったが、子供の一人がステータスオープンって言えば良いんだよ!と教えてくれた。
子供の遊びに付き合うつもりで言ってみる。
「ステータスオープン」
本当に反応した。
そのあとは子供達とも相談しながら、少しずつステータスを理解していった。
また凶暴化した動物を、モンスターと呼ぶことも子供達に教わった。
こうしてステータスを獲得した私は、入口に寄ってくるモンスターを追い払ったり、足りなくなった物資を集めに行ったりと、自分の出来る事をやっていった。
そんな私に入居者のお爺さんが、コレクションの刀をくれた。
とても高価な物らしく断ったが、皆の為に戦ってくれているのだから、このくらいさせて欲しいと言われ、それ以降は使わせて貰っている。
刀の整備のために、クリーンや修復のスキルも取った。
切れ味が悪くなったり折れたりしても、スキルを使うと綺麗な状態に戻るのだ。
そんなある日、あいつらはやって来た。
「おい!若い女は俺達が保護してやるから、出てこい!」
4人の男達が入口の前で叫んでいる。
警察官もいるようだがやめて欲しい。
モンスターが寄ってきたらどうしてくれるのか。
「私達は大丈夫ですので、お引き取り下さい」
私は中から答える。
「市民の安全を守るのが我々の仕事ですので、安心して出てきてください」
警察官?が言った。
市民の安全を守るのなら、若い女以外も守れと言いたい。
物資を回収に出た時に見かけたが、この人達の拠点はラブホテルだ。
何を考えて、そんな所を拠点にしているのか分からないが、とても真っ当な神経をしているとは思えない。
断り続けていると、諦めて帰って行った。
その後もちょくちょくと絡んできたが、全て断る。
威圧的に銃を向けてきたり、実際に発砲してきた事もあるが、ステータスで強化されている私には、問題なく避けることが出来た。
勿論銃弾を見て避けている訳ではなく、危機感知に従い、撃つ瞬間に射線から避けるのだ。
ここまでされたら仕返しするか、とも考えたが、人を傷つける勇気は持てなかった。
日々嫌がらせがエスカレートしていき、近場で物資を回収出来ていた店の商品を、全て持ち去られたりもしている。
このままでは、皆が食べていけなくなる。
食料の備蓄も少なくなってきてしまい、私は離れた場所に回収に行く決断をする。
皆にその事を伝えると、危険だと止められる。
このままでは皆、餓死してしまうからと説得して、他にも何人か同行する事を条件に承諾してもらう。
日帰りで行ける距離ではないので、同行をしてくれるのは正直助かる。
一人では、夜に寝ることも出来ないだろうから。
その後も色々と話し合い、体力もあるだろうからと、若い女性3名が同行する事となった。
夜は2人ずつ交代で、見張りをする事も決まった。
皆から気を付けてね、との見送りの言葉をもらい、老人ホームを後にする。
今回は県境を越えて、隣の県まで物資を回収に向かった。
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