手紙

【フィルト=プレフィ様


 まずはこんな形で別れの挨拶をすることになってしまうことを、詫びようと思う。それから数日間厄介になっていたことも。また、俺の我が儘で振り回したことも謝罪ものだな。……色々とすまなかった。お前さんにかけた迷惑は、こんな手紙一枚で収まるようなものじゃないが、きっと俺は俺の口から言えないだろうからな。まあ不器用な人間なんだよ。お互いにな。


 と、あまり謝ってばかりだとつまらないだろう。俺が暇な時間を利用してお前さんに手紙を残したのは何も、ただ謝りたいがためじゃない。きっとこの手紙を読んでいる時には、俺は消えてしまっているはずだ。そのアフターケアというか、お前さんの負担を減らすために、俺はこれを書いている。

 一言で伝えるなら、気に病むな。俺が消えるのはお前さんの所為じゃない。自分自身を追いこんでそれから塞ぎ込まれると、俺のやったことは大半が無駄になる。それは俺にとっても、本意じゃない。また煙を患われるのは勘弁だからな。それこそ悪循環が出来上がる。


 ただ、気にするなっていう方が無理な話だろうよ。お前さんはそういう人間だし、それに親父を亡くしてる。煙突掃除の仕事で、だ。奇しくもあの時と同じ状況が出来上がってしまったわけだ。俺だってお前さんのことを詳しく知っているわけじゃないから、本格的なアドバイスを求められても無理で、傍に居て支えることも出来ない。

 俺は死ぬ。そこに変わりは無い。曲げられない運命だ。お前さんが頑張っても、捻じ曲げられないんだよ。だが決して無駄じゃない。お前さんがやっていることは、それは俺ではない誰かを結果として救えてる。お前さんの望み通りだろう。自分の身を犠牲にして、そして人を救おうとした、結果の賜物だ。たった一人を救えずに、何十人といる俺の同業者を救ったのに、気を病ませるというのも、贅沢な話だと思わないか?


 人の命は煙霞と儚く、されど天へと舞い上る、ってやつだ。俺の死が無意味に終わるなんて、そんな理不尽が蔓延る国でも無いだろうさ。

 人の死全てが不幸せだと、そう思うことそのものが間違っている。

 俺自身、あまり良い人生とは言えなかったが、最後に人並みには戻れたと思っているしな。


 だから、気にするな。お前さんが思っているよりも、遥かに人は幸せさ。

 色々と書き連ねて来たが、不器用なりにそれだけが言いたかった。俺はただ、それを伝えたかったんだ。


 それから。

 不器用で無愛想な俺が、何を口走るか分かったもんじゃないからな。伝えたいことはここで、遂げさせてもらう。

 ありがとう。お前さんと出会えて、心底感謝している。

 出来れば、この手紙を最後まで読んでくれることを、願って。

                                スートより】

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