救われていたんだ

 スートのこと。


 初めこそ普通の煙突掃除屋だと思っていた。気に食わなかったのは確かで、変な態度を取ってしまったことは憶えている。

 それから自分の知らなかったことを教えてくれて、煙突掃除のことを教わって、母が倒れてもきちんと心配してくれた。フレスが現れた時も、気を遣ったような態度で、その後都市へと繰り出した。色々見て回って、普段行く機会も無かったその中心地を堪能した。


 やはり初めから、父と似ていると理解していたのだ。予感や予測ではなく、確信として、その想いはあった。

 父の存在が大きかったからか、それとも今はもういないものとして受け入れてしまっているからか、彼との間にあった壁を取り除くのに、そう時間は掛からなかった。もしかすると、出会った瞬間から、直感として認めていたのかもしれない。そればかりは、あの時のことを思い出しても、分からなかった。


 出会ったのは、偶然。必然では無く、当然でも無い。そうして彼と過ごした日々も、単なる私の我が儘。人生で初めて通した、自分勝手だった。

 彼に対して抱いていた心境は。

 恋心か。それとも親子のような愛情か。または同族としてへの仲間意識か。どれも違うような気さえするし、そのどれもが正しいと判断出来る。


 けれどやはりそのどれであっても。彼を失いたくないという事実に、変化は無かった。ただ一人の煙突掃除屋を救いたいが為に、自分の為に、人を使う。こんな人間では無かったと、彼女自身認識はしていた。それでも、嫌だったのだ。

 他人であろうと別人であろうとよく知らない存在であっても。

 もう自分自身の周りから、誰も失いたくはなかった。


 父もフレスも。

 目の前からいなくなった。

 母が倒れた時も、病院に着くまで気が気ではなかった。

 そして、今度はスート。出会って日は浅い。友好的な関係ではあるが、感情移入するにはどうしても時間が必要であるはずだ。もう少し時間を要して初めて、困っている彼を助けたいと思うのが普通なのだろう。

 ただ。

 いや、彼が現れた時点で。

 きっと彼女の周りの世界は、救われていた。

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