ディストピアワナビ
唐突ですがみなさん、世界がめちゃくちゃになって、最後の一人になったらどうとか考えますかね? 私はよく考えるんですよ。寂しくて仕方ねえでしょうがね。世界中のプラモデル独り占めできるかもっていうしょうもねえことも考えちまうわけで。
こう、うまい具合に健康なまま最後の一人になって、空気も水もきれいで、食べるものもあって、ご都合主義なディストピアになっちまったらっていうことで……
「あれ、なんだここは? あ、コールドスリープしてたんだったなすげえ文明発達してるはずよ、もう。あれ、人っ子一人いやしねえ。どうなってんだろうね。なんかわかんねえけど、人類滅びちまった?
いやあ、まいったね。100年もたちゃあ、時代が巡り巡っておいらの小説が最先端になってると思ったんだがねえ。この様子じゃコンテストもねえな。カドカワも滅びちまってるようだ。こうね、書き上げた小説を印刷して抱きしめながら眠りに入ったんだがね。こらもう、どうしたらいいもんかね
でも待てよ。おいらしかいねえんなら、おいらが世界一の書き手ってことじゃねえのか? こいつは愉快だ。けど、きちんと名誉も残しときてえもんだなあ。宇宙人が地球発見した時に、「地球人最後の一人はすごい小説家だったようだ」って言われてえなあ。
そうだ、コンテスト、おいらが作っちまおう。『ディストピア文学賞』うん、いいね。まあ、審査員もおいらしかいねえよな。さっさと規定も決めちまおう」
ってんでこの男、自分で賞を作って、自分で募集して、自分で審査することにします。
「『ディストピアにふさわしい退廃的で斬新な作品を求む!』いいねえ。あれ、でもこれじゃ今まで書いたやつは向いてねえな。仕方ない、書くか」
ってわけで、この男新作を執筆し始めて、来る日も来る日も書き続けました。
「ぎりぎり締め切り間に合った! あ、消印有効って、おいらが消印押さなきゃいけないじゃないか。配達もしなきゃな。ああ、大変だ。で、今からはおいらが審査員だね。まずは下読みよ。いやあ、緊張するね。どんな作品が来たかねえ……なんだ、たった一作かよ。タイトルは『世界に最後の僕』ありきたりだねえ。あらすじは……つまんないねえ。起承転結ってのは守れて初めて崩すもんだが、この人はきっと基礎もわかってないね。あと、何この登場人物の多さ。最後の一人なのにいっぱいいました、びっくりしたでしょ? って言いたいの? 伏線もありゃしねえ。あと、誤字脱字多いよ。それだけで落とす下読みもきっといるよ? けどね、いいところも見つけてやんないとね。ヒロインがかわいいとか、戦闘描写が上手いとか。……ねえよ! いいとこねえよ! もうこれはね、一次審査通過作なしだよ。
で、今から最終選考だな。大御所作家の審査員になるぞ。まあ、一次選考通過作ゼロなんだが。まあ、敗者復活ってことでね、予選落ちた作品も救ってあげましょうっていうイベントしますか。落としたのがよそで受賞してもいろいろ言われるんでね。んー、応募作はこのたった一作か。いいところが一つでもありゃね、最終選考に名前だけ載せてにぎやかしにできようってもんなんだが。いやあ、ないね。いいところないね。これはもう、世界の最後の一人になっても受賞は無理だろうね。あーあ、来年はもっとましな人が応募してくれるといいんだけど」
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