第6話


コンコン

「どうぞ。」

「入ってくれ。」

「キリール・バルスコフ大尉入ります。」


返事を待たずにキリール・バルスコフは入室し敬礼をする。

ライアンという偽名を使う彼は傭兵部隊長でありながら大尉を名乗る。


「良くきてくれた大尉。私はルーベン・ノタリオ・ポサダ少将。ここの基地司令を国王陛下より預かっている。」

「そして私はホアキン・デフィジョ・アルマンドス少将。第289軍団の指揮官職をいただいている。」

「高名なお二方と違い未熟者ですが、本社から大尉を拝命しています。よろしくお願いします。」


脂ぎった中年低身長ハゲで太ったポサダ少将と髭のそり残しが目立つ好青年の面影を残した高身長マッチョなアルマンドス少将と軽い社交辞令を挟み実務へとムードを変える。


「つまり奴らはノコノコと真正面から突っ込んできて?交戦したと?」

「それは不可解だ。水星軌道から金星軌道へ上ってきた君たちが接敵すること自体が不可解だが。」

「敵機の機数が7機というのも不自然だ。全滅覚悟の強行偵察なら一個小隊4機で行うべきだ。」

「半壊した偵察部隊をまとめて投入したのでは?君の意見をきかせてくれるか?大尉。」


数回意見をかわした少将二人組はキリールに意見を求める。


「状況を把握しきれていないので機密に抵触しないかぎり全体像を説明していただけますか?」

「ああ、そうだったな。」

「であれば詳細を教えてやるのが道理か。」

「ありがたいです。」

「いや、いいさ。」

「気にしないでくれ、そこの君たちも来い。」

両少将は控えている下士官数名とキリールをつれ部屋の奥へとむかい簡単な立体地図が表示された端末を数枚用意し書類と合わせて説明を始めた。


「対ドイツ戦線で我々が引き受けている戦域はE5°ーW10°N30°ーN65°グリッドのコロニーが多数存在する静止軌道上高度29,131㎞から上下1500㎞だ。」

「わが軍がいままで作った戦域の中でも最大クラスの領域を持っている。これを担当するのは戦域指令のマルセリノ・カドレニー・サウリン大将率いる第23戦域司令部だ。俺達二人の上司にあたる。」

「戦力は彼、アルマンドス少将の第289軍団と第258軍団、第33軍団、第101軍団、第305軍団、第8軍団、第233軍団、第87軍団、第195軍団を中心とした9個軍団144万人。陸軍。300隻の戦列艦と支援艦艇多数を持つ宇宙軍。」

「基地は彼、ポサダ少将が指揮するユヴカ1基地とユヴカ11、21、31、41各基地にレガール1、21、31、41各基地あわせて9個。戦域司令部はレガール1にある。」


2人は書類をかわるがわるみせ、立体地図に赤い点を追加していく。

最後に基地の話を終わらせると次は青い点を配置し始めた。


「たいして敵方ドイツ軍の規模はほぼ同じだ。7個の基地と20個軍団179万人の陸軍と戦列艦250隻の宇宙軍を持っている。」

「戦況は艦艇数で有利なこちらが圧力をかけているが油断できる状況ではない。」

「とすれば次の攻撃を察知するための強行偵察だったのでは?」

「やはりそう考えたか。」

「まあ、そのあたりが妥当なところか。ありがとう。」

「いえ、現場の意見を取り入れていただけるのは助かります。」


話は終わった。

残りの事務報告を終わらせ敬礼をし、退出する。


「ああ、早く帰って・・・。いや、帰っても仕事か。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「大隊各員整列!!やすめ!!」

大隊長仕えの下士官がだみ声でがなり立てる。

大隊長の手前でなければ少尉である自分が威張れるのだが、そうルーカスは思う。


「諸君、私は大隊長のサムエル・ミソン・トーレ少佐だ。私の下で獅子奮迅の努力をしてくれることを期待する。以上だ。各中隊長は集まれ。」


短い。短すぎる。こんなもののために俺達を集めたのだろうか。

だみ声下士官のほうが長く話していた気がする。


「はあ~解散解散。着任まえから戦ったのにねぎらいの言葉もなしか・・・。」

「まあ大隊長はいつもどうりだから気にしなくていいよ。普段の倍は話してる。」

「一体普段はどうしているんだ・・・。」


少佐は手短に挨拶をすませ中隊長クラスの士官たちと話始めた。


「あの2人は知らない人だ。どこ出身だろう?」

「片方はトルコ人じゃない?近所のトルコ人のオッサンと似てる。」

「ふ~ん、まあいいや。どうせおしゃべりなライアンが教えてくれる。」

「そうだね、彼は頼んでいないのによくしゃべる。」


そう二人で自分たちの愉快な中隊長をいじりながら隊舎として割り当てられた建物に、徒歩で向かう。


ボロッ


そういう効果音が聞こえてきそうなほど古ぼけた8階建ての建物であった。


「エミー、君には扉を開ける栄誉を与えよう。」

「隊長殿、おなかがいたいであります!!」


「なんだ生理か?早くはいったほうがいいぞ。」

二人でお互いにボロビルの扉を開ける権利を譲りあっていると後ろから不思議そうな女性の声が聞こえる。


「お前たちが開けないのなら私が開けるんだが。」

「おいおい、大丈夫か?」

「扉開けた瞬間崩れたりしない?」

「大・・丈・・・夫!!」


む~ん、そう全力で彼女は扉を引く。


ガコ ガコ ガコン!!


ようやく扉が開いた、根元からだが。


「あちゃあ~、開いただけましか。」

「まあもともとボロかったし仕方ないか。」


正面入り口のエントランスドアが開かない以上、コチラを壊して押し入るしかない。


「私が電気盤をチェックしてくる。ルーカスはエミーと一緒にすべてのフロアと個室をチェックしてくれ。」

「「了解です。」」

「念のためライフルを忘れるな。」


歩兵用のライフルと連絡用の小型端末をそれぞれ手に持ち階段を駆け上がる。

エミーが1階から、ルーカスが8階から見て回る作戦だ。

階段は一つしかなくエレベータは音でわかるので何かいたとしても逃げることはできないだろう。

もっとも何かいたとしてもネズミか猫だろうが。


8階にまでかけあがったところではしごがさらに上につながっていることに気がつく。


ストラップを使い肩からライフルを下げてはしごに手をかけて登っていく。

端末はジャケットのポケットの中だ。


ギッ ギッ ギッ


キーッ


押し上げ戸を開くと、やはりそこは真っ暗闇だったがが室内よりは明るい。

電気一つない室内でなれた夜目には刺激となり思わず涙が出る。


頭を軽く左右に振り目を覚まさせる。

仕事に戻ろう、そうルーカスは思い押し上げ戸の入り口から飛び降り着地。

8階の残りの部屋の扉をどんどん開け中の様子を確認する。


「問題ないか、次の階に行こう。」

そう呟き階段を1階分駆け降りる。


この建物は全ての階に6室あるが無傷の部屋はただの一つもない。

全ての部屋が窓が割れているか床に大きな傷。

ガス臭がする部屋すらある。


「ベル、ガス栓は閉まっているのか?」

「いや、閉まってないぞ。そちらでは閉めれないのか?」

「ああ、異常にガス臭がする。」

「わかった。こっちで閉めよう。」

「ありがとう。」


通信を切り6階へと駆け降りる。

この階は今まで見た中で特に酷く汚れ物が散らかっている。

一歩踏み出すごとに異臭を放つ生ゴミか段ボールの箱に足が引っかかり時折ブニュっとした物を踏みつける。。

前の住民は相当自堕落な生活をしていたのだろうか?

それにしたって汚れすぎであるが。


「だめだな、汚すぎる。腰まであるぞ。」

「もう見回りはいい。撤収だ。」

「ベル、いいのか?」

「ああ、この建物は酷すぎる。エミーの見たフロアも全部ゴミまみれだったようだ。」

「無事なのは7階と8階だけってことか。本当にここを俺たちの中隊の隊舎にするのか?」

「さあな、ライアンが来てから決めればいいだろう。それまで私は寝る。」


彼女は荷物を枕に首を休め、仮眠をとり始めた。


グウグウ


もう寝始めたようだ。本当に早い。

俺も寝よう。


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「おーい、お前らどこだ。」

ステンッ


「「ギャッ」」


ベルとライアンの声が聞こえる。

どうやら寝ているベルに気づかずライアンが足を引っ掛け転倒したらしい。


「すまんすまん。」

そう言ってベルを抱き起こしながらエントランスを見回すライアン。


「ああようやく来てくれたのか。ベルが仮眠をとり始めたから俺たちも仮眠を取ることにしたんだ。」

「なるほど。ところで何でお前らこんな臭うんだ?ドブみたいな臭いだ。」

「それはどこかの大尉さんがゴミ屋敷を私達に手配したからじゃない。」


ライアンの発言にエミーが嫌味を交えて返す。

まだ若い女の子の彼女は軍人と言えど臭い物はツラい。

最もゴミまみれの中で幸せな人間はこの世にいないだろうが。


「待て、今何て言った?」

「「「ゴミ屋敷!!」」」

思わず現状への不満からみなで怒鳴ってしまう。


「そんなの俺は知らんぞ。この建物がダメなら他をあたるしかないが・・・、他に当たれる住宅が何個あるか。」

うーんどうしよう、そう言いながらライアンは建物を出て行った。

一秒でもここに長くいたくないのだろう。


「私たちも移動しよう。」

「「そうしましょう。そうしましょう。」」


なんとかゴミ屋敷から脱出した後みんなで憲兵隊からかりたボロボロの軍用オフロード車、プジープに乗り込む。


ブロロロッ


素早く逃げるように出発した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ほとんど光がない大隊司令部の駐車場。


「まだかなあ、早くお風呂に入りたいよ。」

「まだかなあ、早くエミーといちゃつきたいよ・・・。」

グウグウ


ぬるい気温のなかプジープにお尻を乗せ足先をプラプラさせる。

ライアンが上司である大隊長と相談している間3人は手持無沙汰だった。

ベルは大きいいびきを挙げながらボンネットの上で大の字に寝っ転がっている。


大隊司令部の方をボンヤリと見るエミーの横顔を見る。

綺麗だ。

下の方が燃え上がるのを感じてエミーの腰に手を回す。


「うーん・・・。」


するとエミーがルーカスに持たれかけてくる。

ん、エミーは目を閉じ口を軽くつきだす。

彼女の希望通りにキスをする、それも特別にやさしいヤツだ。

それを同意と取り始める。


彼女の体をゆっくりと愛撫し彼女も彼にそうする、だんだんと高まった後二人は一つとなり。

そして達する。

そのインターバルが何度も繰り返される。


「長くかかりそうだし俺達もはじめるか。」

「いいよ・・。」

ベルとライアンもシ始めたようだ。

ところでライアンはいつ上司との相談をおわらせたのだろうか?

まあどうでもいいのだが。


他人よりも自分の最愛の人と同じ空気を共有できること、これが最上の喜びなのだ。

彼女の汗、香り、唾液、その全てが喜びへと繋がっている。


不便な宇宙船生活と久々の戦闘が火をつけたのだろうか?

それとも彼

人は元来そういう物なのか?


どちらにせよ2人の記憶が途切れ再び意識が戻った時には2人とも筋肉痛になっていた。


「で、大隊長さんの命令を通達しても良いかい?」

「あ、ああ。」

「やっぱり疲れたか、車のサスペンションが壊れてないか心配だよ。」

「はは・・・。」


そんなに激しくしてしまったのだろうか?

傍に抱いているエミーの顔を覗き込む。


スウスウ


穏やかで満ち足りたような顔を見て安心する。

次に下の方を見る、これも滅茶苦茶にはなっていない。


「ベルがかたずけてやったようだな、感謝しておけ。」

「そうか、礼を言わないとな。今ベルはどこに?」

「整備されている自分の機体を確認するためにハンガーまで行った。俺は自分の中隊の隊員を全員集めにいくんだ。」

「は?」

「馬鹿タレ。中隊は12人、昨日は4人しかいなかったろ?前の戦闘で全滅したから本社から補充が来るのさ。」

「ああ、たしかに。」

「この程度のこと軍にいたとき学んだだろ。まさかソイツの下の口に全て吸い込まれたのか?」


下世話な話を交えながらそのあとの予定を話す。


「おれも礼が言いたいからハンガーの方に行こうかな。」

そう言いながら立ち上がろうとすると。


グッ


彼女に袖をひっぱられる。


「すまないエミー手を放してくれないか?服が伸びちゃうよ。」


スー スー


寝ているようだ。

どうやら無意識の内に引っ張っているのだろう。

そんな彼女の姿に慈しみを感じてしまった。

時彼女の口から洩れる「ママ・・・、ママ・・・。」の言葉に庇護欲が刺激されたのだろうか?


彼女の髪に指を通し、ゆっくりとゆっくりとなでる。


「まずはその子供が乳離れできてからだな。」

そう言って爆笑しながらライアンは他の隊員たちと合流しに行った。


まあ彼はどうでもいい。

エミーが寒くないようにジャケットを彼女にかけ、額に軽くキスをする。

行為の始まりのヤツではなく、愛のあかしとしてのヤツだ。

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