第10話 南雲ルミナ救出作戦スタート

 ずるずると2体の牛(ミノタウロス)を引きずりながら部屋へ戻ったコンマ達は現在、部屋の窯場で解体した牛(ミノタウロス)の肉片を鉄板の上に置き、焼きあがるのを今か今かと待っていた。


「ルミナ、もうちょい待てよ~。こんなん中々食べられないからなあ!」

「え、わ、私食欲ないんだけど……」


 コンマはコメカミに石を当て気絶させた牛(ミノタウロス)を締める、つまり絶命させると言って、ルミナに手伝うように指示してきた。


「こいつら締める前に恐怖心を与えると肉が固くなるんだよ。だから気絶してるこいつを先に締めないとなあ。ちょうどいいナイフもゲットしたからおまえに解体させてやるよ。俺はナイフなんていらないけど、ここで暮らすんなら解体するのにも慣れておかないとなあ」

「え!? い、いやいや、私はいいから! てかコンマ君もうすぐ帰れるかもしれないじゃない! きっと私の仲間が助けに来てくれるから!」


 必死に解体するのを逃れようと、コンマに懇願したルミナだったが、彼は頑なにルミナに解体を手伝わせようとした。


「そんなもん、もし誰か来たってルミナみたいにミイラ取りがミイラになるに決まってんだろ? 結局叶わない願いなんてするだけ無駄だしさあ、ルミナも今のうちに解体の仕方覚えとき?」


 そんなわけで牛(ミノタウロス)の解体を手伝わされることになったルミナ。コンマは部位を切り取る度に『この部位は〇〇でうんまいんだぞお!』と説明してくれたのだが、彼女にしてみれば只のグロ映像を見せられているだけ。そんな彼女に食欲などあるはずがなかった。


「ほらっ! タンだぞ! いつもはめちゃくちゃ薄~く切ってんだけど、今日は特別に分厚く切ってやったからよお! しかも今日はこの超貴重な岩塩もつけてやる! 俺の汗の塩じゃないからな! うまいぞ! でもちょっとずつ使ってくれよな!」

「あ、あははは……」


 笑顔でそう言うコンマに食いたくないとも言えず、ひと口大に切られたタン(ミノタウロス)を口に入れる。どうしても生前の牛(ミノタウロス)が脳裏に浮かんできたが、もうこうなってしまっては食べるしかない。覚悟を決めた彼女は、その肉を口に運んだ。


「あ、普通においしい……普通に牛タンだ……」

「へへっ、うめえだろ? この牛筋肉質で赤身の部位が多いから固いんだけどさあ、タンはめちゃくちゃ柔らかいんだよ~。味わって食ってくれよな?」


 彼は本当に善意でこの料理を振舞ってくれているんだなあ、としみじみ思うルミナ。だがこの後、様々な部位が待ち構えているのをこの時の彼女は知らなかった。

 そして『もうおなかいっぱいなんでいらないです』その一言を言えるほど彼女の心は強くなかった。

 結局ロース部やレバー、果てはホルモンなど、様々な部位を腹いっぱい頂くことになったのだった。



    ◇



 その日の夜――


「おい! 起きろ! 小娘! 何を呑気に寝ておるのじゃ!?」

「うぅ……うぅ……寝てないわよう、おなかが痛くて寝ようと思っても寝られないのよお」


 コンマに食え! どんどん食え! と勧められ、言われるがままにミノタウロス(牛)を食べさせられたせいか、胃もたれなのか食あたりなのかよく分からない謎の腹痛に苦しんでいたルミナの前に、再度鬼のお面を頭に引っさげた少女が現れた。


「本当に呑気な小娘じゃのう。して手筈どおりに事は進んだのか?」

「え? ええ、一応コンマ君には知られずに仲間に伝えることはできたわ。あなたの言ったとおりこれから1週間以内、前に出現した扉の辺りで待機しているように紙面で伝えておいたわ」

「ふん、ならばよい。前にも言ったが、そ奴らが来る時主様はあの祭壇から離れさせておくんじゃぞ。主様が近くにおったら扉のモンスターはでてこんからの」


 地上とこの666階を繋ぐ扉『テリブルゲート』はB級モンスター。近くにコンマがいると鬼の仮面の能力でB級以下のモンスターは出現することができなくなる。

 つまり扉が出現する時間帯、コンマをあの祭壇エリアから遠ざけておく必要があるのだ。


「あなたあの扉が出現するのは1週間以内って言ってたけど、正確な日にちと時間は分からないの?」

「あ? そんなの分かるわけないじゃろ? 主様なら分かるかもしれんが、よもやそんなことを聞くわけにもいくまい。ともかくあの扉は1週間に一度、3分間だけあの場に出現するのじゃ。それだけは確かじゃ。じゃからお主の仲間には、あの場で常に扉の出現を見張るように言えと言ったじゃろうが」

「い、いや、そこまで細かく指示を出せる状況じゃなかったんですよお。突然ミノタウロスとの戦闘になって気が動転してたし。それにコンマ君にバレたら終わりだし……でも多分大丈夫。救援チームには虚坂うろさか君も来てくれるはずだし」

「虚坂? なんじゃそいつは? 頼りになるヤツなのか?」

「はい! めちゃくちゃ有能な人なので!」


 そう、彼は若干17歳にしてダンジョン協会『ダンジョン探索者育成局』と『ダンジョン聖遺物解析・開発局』両方の上級研究員に名を連ねる超有能人物。


 そして彼はこの国に5カ所ある、ダンジョン協会が管理運営する『ダンジョン探索者育成学院』のうちの一校『東海校』の生徒、にもかかわらず学院で教鞭もとるという稀有な人物。


 何故年端もいかない青年がそんな重要な役職に就き、教鞭まで取っているのか、ルミナにとっても謎の多い人物なのだが、彼はとにかく有無を言わさず優秀だった。

 それに。そういうこともあるのだろう。彼女はそう結論づけ、納得していた。

 きっと彼ならこの困難な状況もなんとかしてくれるはず。ルミナは半ばその他力本願とも言える作戦に、全てを賭けるしかなかった。


「ふんっ、まあよいわ。お主の策がうまくいけばそれに越したことはない。それに――」


 ――そ奴らがここへ来ることさえ叶えば、他に手がないわけではないからのう……


 罰子がニンマリと嫌らしい笑みを浮かべながらぼそりと呟いたのを、ルミナが気づくことはなかった。



    ◇



 そしてあれよあれよという間にルミナがこの地に来てから1週間。


「ああ! もう牛は飽きたの! 野菜とかないの!? あの密林にいっぱい生えてるじゃない! なんであれは食べちゃダメなの!?」

「だ~か~ら~、何度も言ってんだろ? あれは全部毒があんだよ。俺は別にいいけどあんた1回口に入れて大変なことになったじゃねえかよ!」

「1種類くらい食べれるのないの~!? も、もう牛は嫌なの~」


 ここに来て3日目、どうしても食物繊維を摂取したくなったルミナは、密林エリアにあったどう見てもキュウリにしか見えない野菜を、コンマの制止を振り切って口にしたのだが、食べてものの数分後に猛烈な腹痛に襲われ、丸1日寝込む事態に陥ったのだ。

 コンマ曰く、この密林エリアに自生している植物は、全てなんらかの毒性を持っているらしい。ちなみに状態異常無効化を持っているコンマですら、毒がなくても物凄い蘞味えぐみと腐った卵のような臭いで、とても食べられたものではないらしい。


「ねえコンマ君! お願い、お願いだから狩りに行きましょ? きっと今日なら牛と赤ライオン以外の獲物もいる気がするのよ。ねっ? お願いだから」

「え~、まだ牛が1頭残ってんだけどなあ。そんなに嫌だった? はあ、しゃあねえなあ。じゃあこっからかなり遠いけど、湖エリアまで釣りしに行ってみっか?」

「うん! 行こっ!」


 ルミナは心の奥でほくそ笑んでいた。よしっ! コンマ君をここから引き離せる!

 そう、今日は1週間ぶりに地上とこことを繋ぐ扉『テリブルゲート』が出現するのだ。

 彼女は一縷の望みに賭けて、コンマを部屋から連れ出した。


(お願い、光理子ひかりこ、ふう、虚坂君! 信じてるからね!)



    ◇



 コンマとルミナが部屋を出ておよそ2時間が経過した頃、祭壇エリアでは――


「スマートウォッチに666階って表示されてますわよ!? し、信じられない……」

「な~んか~、体がほわほわする~」

「ふう、君はいつもそうじゃないか。皆いいかい? ここは未知の領域だ。例の映像でも見たようにベヒーモスクラスのモンスターが出ることも予想される。我々は一刻も早くルミナ君を探さねばならない。では各自周辺に注視しながら進もう」

「んなこたあわかってんよ」

「まあ俺がいるから大丈夫だろ」


 なんとか扉、つまりB級モンスター『テリブルゲート』を潜り抜けこの未開の地へ到達した救援チーム一行。

 瑠璃垣光理子、櫻小路ふう、虚坂次緒、それにプラスして急遽救援チームに編成された探索者2名を含む計5名は、東海N1ダンジョン深層666階にその足を踏み入れたのだった。



     ◇ ◇ ◇ ◇



 ※当拙作をご覧いただき誠にありがとうございます。


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