体育祭 一年男子リレー前
「ごめん! 勝てなかった!」
絢さんはテントに戻るやいなや、手を合わせて俺たちに謝ってくる。
「別に謝る必要ないよ。なあ、みんな!」
「そうそう! めっちゃ凄かったよ、絢ちゃん! ていうか、みんな凄かった!」
「ああ。やばかったよな! 手に汗握ったし、クッソ盛り上がった!」
佐藤が他のクラスメイトを煽り、絢さんも含めたリレーメンバーに労いの言葉や賞賛の言葉を送る。
「みんな、お疲れ様。あとは俺たちに任せてよ」
俺も絢さんたちを労い、仇をとると伝える。
彼女たちが本気で走っている姿を見ていると、俺も負けられない、頑張らなきゃという気持ちにさせられた。
「うん、頼んだよ、唯くん」
俺は一度頷いて、絢さんと拳を合わせた。
「じゃあ、俺たちはウォームアップしてくるから、ゆっくり休んでて」
ちょうど今、二年生女子のリレーが始まったので、俺たち男子のリレーメンバーはテントを出てストレッチをしたり、身体を温めたりウォームアップを始めた。
「唯、ちょっと身体伸ばすから付き合えよ」
「ん、オッケー」
佐藤から誘われ、俺たちは背中合わせに立ち、背筋を伸ばすストレッチをする。
まずは俺が佐藤を背負い、彼の背中を伸ばす。
「うー、これ地味に効くんだよな」
「それだけ凝ってんじゃない? 普段からストレッチしなよ」
「やってるっての。っと、次はお前な」
「はいはいっと」
佐藤と交代して、次は俺を背負ってもらう。
ぐぐーっと背中が伸びていく感覚についつい声が漏れてしまった。
「どうだ、唯。お前も結構効くだろ」
「確かに、こういうストレッチ普段やらないから、意外と……」
「へへ、だろ?」
「うう……ってちょ、眼鏡落ちた!」
「まじか。ちょい待ち、降ろすわ」
「ごめん、頼む」
思ったよりもがっつり反っていたせいか、眼鏡が落ちてしまった。
佐藤から降ろしてもらい、落ちた眼鏡を拾う。
「よかった。傷はついてないみたい」
「それなら安心だな。ていうか、お前、眼鏡したまま走るのか?」
「そりゃまあ、これないと視界ぼやけるし」
それと風で前髪が捲れても、これがあれば俺の正体バレる可能性が減るし。
こういう身体を動かす時ほど髪形が崩れやすいんだから、この眼鏡は必須なんだ。
「まあ、それはそっか。体育の時くらいコンタクトにすりゃいいのに」
「目にレンズ入れるの怖くない?」
「慣れだろ。俺はやったことないけど、サッカー部の他の友達とかは慣れるって言ってるぞ」
本当はコンタクトすることに抵抗ないし、慣れるっていうのもわかる。
だから俺は佐藤に嘘をついていることになる。
それは凄く心苦しいのだけれど、今はまだ内緒にしておかないといけないから。
「そのうち試してみるよ。少なくとも高校のうちは」
「そしたら髪もバッサリ切ってみろよ。周りの目も変わるぞ」
「あはは。気が向いたらね。期待せずに待っててよ」
「おう」
いつか佐藤には俺の正体を打ち明けられたらいいなと願いを込めて彼に告げる。
約束というには不確かだけれど。
「お、二年女子終わったみたいだぜ? そろそろ待機場所向かわねーとな」
「そうだね。おーい、みんな、待機場所行こー!」
三年女子のリレーも準備が始まったので、俺たち一年男子も待機場所に向かわなければならない時間になった。
少し離れたところでウォームアップをしている他のリレーメンバー二人に声を掛けて、四人揃ってテントの後ろから待機場所へと向かう。
「四人とも頑張って! 応援してるから!」
歩いている俺たちに気づいた絢さんからエールを貰う。
それに気づいた他のクラスメイトたちも各々が激励の言葉をぶつけてくれた。
「おう! ぶっちぎりで一位取ってやるから見てろよ!」
「お前ら喉ぶっ壊すくらいの応援頼んだぜ!」
「全力を尽くすよ」
「任せろ! 期待は裏切らないから」
そのエールに俺たち四人は各々の言葉で返事をする。
うん、気合い入った。
頑張ろう。
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