体育祭 午後の部

 昼休憩が終わって生徒たちは自分たちのテントへと戻り、午後のプログラムが始まった。

 女子のダンスから始まり、俺も参加した騎馬戦も大きな問題が起こることもなく、無事に勝利をおさめることができた。

 まあ騎馬戦は俺そんなに活躍することはなかったんだけれども。

 そもそも馬のほうだったし。

 テントの定位置に戻って、また絢さんと佐藤と一緒にクラスメイトや同じ紅組の人たちを応援する。

 一年は紅組が結構勝ち星を重ねていたけれど、二年や三年は他の組が勝ち星を重ねて、思った以上に接戦を演じていた。


 なんだか手に汗握るな……。


 プロスポーツの観戦は龍の付き添いで時々やったりしていたし、スペシャルサポーター的な仕事で現地で応援したりしていたから、体育祭も同じような感じかなと思ったけれど、その時以上に熱が入ってしまう。

 もちろん、プロスポーツの観戦も面白いし熱が入るのだけれど、これはまた別の興奮だ。


 やっぱり自分のクラスメイトが頑張ってて、そしてその中に自分が入っているからなのかもな。

 こういうのが青春ってやつなんだろうな。


 そんなことをしみじみと思いながら、午後の時間を過ごした。

 そして、とうとう最後のプログラムの時間が訪れる。

 クラス対抗リレー。

 まずは一年の女子のリレーから始まり、二年三年のリレーへと繋がる。

 そして女子の部が終わったあとに男子のリレーが同じように進行され、閉会式へと移っていく。

 泣いても笑ってもこれがラストだ。

 ちなみに順位は俺たち紅組が二位。

 しかし、どの組もこのリレーの結果によって一位になるくらいの僅差だ。

 俺もリレーの走者だし、足を引っ張らないように気合いを入れなくちゃな。


「じゃあ私行ってくるね。二人とも応援しててよ!」


 絢さんが立ち上がって、俺たちにサムズアップをしながら笑顔を見せてくる。


「うん、応援してるよ。頑張れ」

「絢ちゃん、気張ってな! でっけー声出して応援するからよ!」


 一切気負いもなく、自信満々な彼女に俺たちもサムズアップを返して激励をした。

 それを受け取った絢さんは満足そうに頷いたあと、ひらひらーと手を振ってリレーの集合場所へと歩いて行った。


「で、佐藤。リレーどうなると思う?」

「あーそうだな。クラス全体で見たらうちのクラスが頭一つ抜けてると思うけど、リレーのメンバーに選ばれてる上位四人はそんなに力の差はないし、どのクラスが勝ってもおかしくないんじゃねーか? 女子も多分同じだと思う」

「ということは?」

「もう祈るしかねーってことだわ。女子のほうは俺らは応援するしかやることねーし」

「だよなー」


 他のクラスの運動部とも交流がある佐藤に結果の予想を尋ねてみたが、俺が思っていた以上に戦力は拮抗しているみたいだ。

 でもまあ、そっちのほうが応援にも熱が入るし、面白いかも。


「お、そろそろ始まるみたいだぞ」


 佐藤と話しているうちに女子の第一走者がスタートラインに立ち、準備をする。

 そして、係の先生がスターターの音を鳴らし、女子のリレーが始まったのだった。

 第一走者の子たちが走りだした瞬間、グラウンドは熱気に包まれ、今まで以上に声援が飛び交う。

 俺と佐藤もその熱気に当てられ、力いっぱい声を出す。

 頑張れと負けるなと。

 うちのクラスは三番手で第二走者の子にバトンが渡った。

 先頭を走る一番手のクラスとはほんの少しだけ差を開けられている。

 第二走者の子も差を広げられないように激走し、着順は変わらないまま第三走者の子にバトンが渡った。


「絢さん、アンカーなんだ」


 手足をほぐしながらアンカーの襷を掛けて走る準備をする絢さんの姿を見て、ふと声が漏れた。


「あ? お前知らなかったの?」

「競技決めの時いなかったからなぁ。あの時順番も決まったんだろ?」

「いや、お前と絢ちゃんすげぇ仲がいいからよ。普通に聞いてるものかと」

「なんだかんだリレーの話はしてないなぁ。ていうか、体育祭の話もあんまりやってないかも」

「ほーん」


 絢さんとは大体二人でいるときだと芝居の話がメインだし、意外と体育祭の話だとお弁当のこととかそれくらいしか話してなかった気がする。

 我ながらなんとも味気ない気はするけれども。

 もう少し、世間話も多くしたほうがいいのかね。


「おい、絢ちゃん走るぞ!」


 少しだけボーっと考え事をしていたら、佐藤の声で思考の海から引っ張り出された。

 第三走者の子は前の子たちと差を詰め、あと少しで二番手になろうかというところで絢さんにバトンが渡った。

 絢さんは上手くバトンを受け取り、一気に加速する。


「頑張れー! 絢ちゃーん! 抜けるぞー!」

「絢さん! 頑張れ!」


 彼女はスピードに乗り、二番手の子をすぐに抜かす。

 そしてじわじわと一番手の子と距離を詰めていった。

 しかし、クラスのアンカーに選ばれるだけあって、一番手の子もなかなかに速く、追い越すまでには至らない。

 二人の追い比べに高まっていたボルテージがさらに高くなる。

 うちのクラスのテントからも思わず耳を塞いでしまいたくなるほどの声援が絢さんに向かう。


「絢さーん! 根性見せろー!! 頑張れー!!」


 俺もその声に搔き消されないようにと息をしっかり吸い込んで絢さんに声援を飛ばした。

 俺の声が届いたのかはわからないが、彼女はさらにもう一段階ギアを上げる。

 ゴールまであと数メートルのところで二人が並んだ。


 抜けるか? 抜けないか? どっちだ!?


 そして、ゴールテープを切る寸前、ほんの少しだけ絢さんよりも一番手だった子が前に出て、決着がついたのだった。

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