体育祭 リレーの結末

 三年女子のリレーも終わり、とうとう俺たちの出番が回ってきた。 


「女子たちがあんだけ頑張ってくれたんだ。俺たちもかっこいい姿、見せようぜ!」

「「「おう!」」」

「一組ー! ファイ!」

「「「「オー!!」」」」


 リレーメンバーで円陣を組み、佐藤の音頭で掛け声を発する。

 よくライブ前に雪月花のメンバーとやるけれど、クラスメイトとやるのは初めてだ。

 だからか、凄く新鮮に感じて猶更気合いが入る。


「唯、ちゃんとバトン、俺に繋いでくれよ!」

「任せといて。佐藤も、ちゃんと一番にゴールテープ切ってよ」

「おう!」


 佐藤からのエールを貰って、俺も彼に軽口混じりのエールを返す。

 そして俺と佐藤は別れて、スタートの位置で準備を始めた。


「白鳥、まともに話したことってあんまりなかったよな」


 足首を回したり準備をしていると、リレーメンバーで一番走者の田中君に話しかけられる。


「そうだね。一応、体育でやったリレーの練習の時に絡みはしたけど」

「だよな。お前、佐藤や風祭さんと絡んでるイメージしかないし」

「あー、確かに」

「ま、これもなにかの縁だし、仲良くしていこうぜ。俺もお前と話したいし」


 田中君はハニカミながら拳を突き出してくる。

 俺としてもこう言ってもらえるのはとても嬉しいことだ。

 だから、俺も田中君の拳に自分の拳を当てて言葉を返す。


「うん。俺もそうしてくれると嬉しいな」

「って、リレー前に言うことじゃねーよな。っし、気張ってくるわ。応援しててくれよ!」

「頑張って!」

「うい!」


 田中くんは手を上げて、スタートの定位置についた。

 他の走者もスタート位置に立って、軽く跳ねたりと身体を温め、開始の時を待っていた。

 三番走者の俺も、落ち着くことができず、何度か深呼吸を繰り返したり、ストレッチをして気を紛らわす。

 そして場の緊張感が高まり、ピークを迎えた時、係の先生がスターターを掲げてた。

 その瞬間、グラウンド内は静まり返る。

 そんな厳粛な空気を打ち破るように、先生はスタートの合図を鳴らした。


「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


 第一走者が走り始め、それと同時にグラウンドの至るところから歓声が巻き起こる。

 俺たちのテントからも田中君を応援する声が響き、それに応えるように田中君は快速を見せつけた。

 流石は陸上部といったところだろうか。

 田中君は一番に次の走者へとバトンを繋ぎ、第二走者のクラスメイト、野球部の鈴木君が走りだす。

 しかし、そこでアクシデントが起こった。

 走りだしてカーブに差し掛かった時、勢いがつきすぎたためか、鈴木君は足を滑らせてしまった。

 幸い、すぐに体勢を立て直して大幅なロスにはならなかったが、その隙に二人に抜かれてしまい、三番手になってしまった。

 俺はスタートラインに立って、鈴木君からのバトンを待つ。

 鈴木君は自分のミスを取り返そうと凄い勢いで二番手の走者に追いすがっていた。


「白鳥、わりぃ! あとは頼んだ!!」

「任せて!」


 鈴木君からバトンを渡される前に、小さくステップをして走り出し、鈴木君からのバトンとエールを受け取った。

 息を吸い込み、グッと止めてギアを上げる。

 腕を力いっぱい振って、地面を蹴る。

 二番手の走者はすぐに追い越すことができたけれど、一番手の走者とはなかなか距離が縮まらない。

 そんなに離されてるわけではないけれど、クラスの選抜に選ばれてるだけあってなかなかに速い。

 走力的にも俺とあまり差はないみたいだ。

 土煙を上げて、ファンには見せられないような形相で歯を食いしばりながら走る。

 走る。走る。走る。

 じりじりと迫っているけれど、追い越すまでには至りそうにない。

 そして、並ぶか並ばないかくらいのところで、アンカーへバトンを渡す時が訪れてしまった。


「佐藤、ごめん! 追い越せなかった!」

「上等! あとは任せろ!!」


 佐藤にバトンを渡し、エールを送った。

 佐藤は力強く返事をし、一気に加速して一番手の走者を追いかける。

 俺は後続の邪魔にならないように、サッとトラックの中に入って、ドッと息を吐いた。

 久々の全力疾走で息を切らして、膝に手を当てる。


 早く息整えて佐藤の応援しなきゃ。


 呼吸をコントロールして息を整える。

 そしてすぐに佐藤の応援のために声を張り上げた。


「負けんなぁ! 佐藤!!」


 普段は使わない強い口調で叫ぶ。

 アンカーのラストスパート、そして一番手と二番手のデッドヒートということで、一年女子のリレーと同じかそれ以上の盛り上がりを見せている。

 一番手との差はほぼほぼなく、あとひと伸びできれば追い越せるくらいには縮まっていた。


「頑張れ! 負けるな!」

「佐藤君! 頑張れーーー!」

「根性見せろーーー!!」


 テントからの声援が俺の方まで聞こえてくる。

 その熱に当てられて、喉が枯れるんじゃないかと思うくらいに俺も叫び続けた。

 そして、ついにゴールテープが切られる。


「っっっっしゃぁぁああああああ!!」


 佐藤が両手を天に突き上げて、勝利の雄たけびを上げた。

 そう、ゴールテープを切る直前に、佐藤が一番手だった走者を追い越して、ギリギリ勝利を収めたのだ。


「「「うおおおおおおおおお!!」」」


 物凄いデッドヒートを演じた二人に賞賛の雨が降り注ぐ。

 俺も柄にもなく興奮して、ガッツポーズと喜びの声を上げる。


「白鳥!」

「田中君!」


 田中君が手を上げて俺の名前を呼んだので、俺は彼の上げた手に自分の手をぶつけてハイタッチをしてお互いを労った。

 彼も最初一番手でバトンを渡し、この勝利に尽力した立役者の一人だ。

 一番目立つのは佐藤だけれど、彼も称賛されるべき人物だと思う。

 俺は彼と一緒に沸き立つテント前に向かった。


「唯、田中! 俺らやったなぁ!!」

「美味しいところ持ってったね、佐藤」

「白鳥、まじで助かった! サンキューな!」

「どういたしまして。田中君と鈴木君も凄い走りだったよ」


 四人で肩を抱きながら、各々を称える。

 途中アクシデントはあったとはいえ、全員が頑張って走ったから勝ち取れた結果だ。

 今はこの勝利の余韻に浸ろう。

 俺たちは胸を張って、沸き立つクラスメイト達の元へと戻っていく。

 そして、次の二年のリレーが始まるまで、俺たちリレーメンバーはクラスメイト達から手荒い祝福を受けるのだった。

 

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