高校生活
「唯ー、お前英語の宿題やったー?」
「そりゃもちろん」
「まじ!? 頼む! 見せてくんね?」
「佐藤さ、この前もだったろ? ちゃんと宿題やりなよ」
「いやー、部活終わって家帰ったら机に向かう気起きなくてよー」
「もう、仕方ないなぁ。昼休みミルクティとメロンパンね」
「おお、サンキュ! ガンダで行ってくるわ!」
あの告白から時は流れ、高校に進学して約一か月。
平穏無事な毎日を送ることができている。
「てかさ、もう暑くなってきてるけど、そのクソ鬱陶しい髪切らないんか?」
「あー、なんかこれが落ち着くんだよね」
「ふーん、まあお前がいいならいいけど」
そう言って俺の隣の席であり、この高校での最初の友達、佐藤和樹が俺の英語のノートを受け取って席に着いた。
ちなみに佐藤が言ったクソ鬱陶しい髪型とは、前髪は目元を、サイドは輪郭を隠すようなほどに伸びているような髪型だ。
さらにそれに黒縁のフレーム大きめの少し度の強い眼鏡。
傍から見たら、オシャレにあまり興味のない地味な野暮ったい男子に見えていることだろう。
もちろんこのような格好をしているのには理由がある。
芸能科のない一般校に進学するに当たって、事務所から正体がバレないようにとキツく言われたからだ。
一応人気のある芸能人だという自覚はあるので、もしバレた場合にはこの生活を送ることはおろか、学校にも迷惑が掛かってしまうことは理解している。
同じ学校の生徒から四六時中見られたり、無遠慮な記者が待ち伏せして自分以外の生徒にしつこく取材と称して追い回す可能性もあるかもしれない。
だからこそ、この野暮ったい格好をすることに対して文句を言いようがないのだ。
というか、その程度で文句を言おうなんてあまりにも贅沢すぎる。
メンバーや事務所への迷惑を含め、そのような危険性があるにも関わらず自分のわがままを突き通してしまったのだから。
それに俺も自分が雪宮唯だとはバレたくなかったし。
ただまあ、こんな自分にも良くしてくれている友人に偽りの自分で接しているのは後ろめたくあるのだけれど……。
「うっし! 終わった終わった! ありがとな唯! 助かったわ」
「ん、次はちゃんと家でやって来いよ。俺だって毎回やってきてる保証なんてないんだから」
「とかいいつつ、なんだかんだお前ってきっちりやって来てるよな。真面目くんというかなんというか」
「宿題忘れて放課後に居残りとか、バイトに支障が出ることなんてしたくないしね」
一応、前よりセーブはしてもらっているとはいえ、未だに芸能活動は続けている。
なのでもし居残りになって収録やレッスンなどに遅れることになったら信用にも関わる。
そもそも年単位でのスケジュールが組まれてるんだから、今更簡単に芸能活動休止しますなんてできないし。
だから移動中の車内や休憩中の楽屋などスキマ時間を使って、授業の予習や宿題を片付けている。
正直キツいと思うこともあるけれど、これも自分のわがままの代償だ。甘んじて受けよう。
「そういや、お前どこでバイトしてんだ? てか、なんのバイトしてんだよ」
「昔からお世話になってる知り合いのところでちょっとな。接客業とかじゃないから探っても無駄だぞ」
「えー、せっかく冷やかしに行こうと思ったのに」
「例え俺が接客業してても冷やかしに来るのは止めとけ。普通に迷惑掛かるから」
「へいへい。で、今日はバイトあるのかよ?」
「ああ、放課後にね。佐藤も今日部活だろ?」
「いつも通りなー。強豪じゃないから練習時間長くないし、俺ら一年生でもボール使って練習できるのはありがたいわ。まあ、ちゃんとガチでやってるけどよ」
「そっか。じゃあお互いに頑張ろうな」
「おう!」
お互いにハニカミながら拳を当てる。
そして始業のチャイムが鳴り、またいつも通りの一日が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます