青春をしたいアイドルと女優になりたいクラスメイトの話 改訂版

みずきち

第一章 出逢い

プロローグ

 肌を焼くようなスポットライト。

 耳に付けたイヤモニ越しでも聞こえてくる絶叫のような歓声に光の海みたいに揺れるペンライト。

 それに負けないように声を張り上げて歌い、最後方の観客まで届くように大きく激しく踊る。

 俺の両隣には苦楽を共にした大切な戦友が、俺に負けないくらいのパフォーマンスを繰り広げている。

 そしてライブのアンコールもクライマックスに……。

 最後はしっとりとしたバラードを心を込めて、聴いてくれるファンの皆の心に届くように歌い上げる。

 そして、曲はアウトロに入り、原曲とは違うアレンジでラストを盛り上げるように響き渡り、この夢のような時間は終わりを迎えた。


「今日は本当に……ありがとうございました!!」

「「ありがとうございましたぁ!!」」


 万雷の拍手の中、三人で深々と頭を下げながら、最後まで楽しんでくれたファンの皆に感謝を告げてライブの幕を閉じた。


「お疲れ様でした」


 ステージから裏に捌けてスタッフさんたちから労いの言葉をいただく。


「お疲れ様でした!」

「お疲れさんっした!!」

「お疲れ様でしたー」


 一人一人に会釈をしたりハイタッチをしながらライブの喜びや達成感を分かち合い、三人一緒に控え室へと戻る。


「あー、疲れたけどやっぱライブ楽しかったな!」

「……そうだね。でも、明日からのオフは家に引きこもりたい」

「この数ヶ月、打ち合わせにレッスンにリハにって活動しっぱなしだったしな。てか、世間は夏休みだし、俺らもどっか遊びに行こうぜ!」


 このグループ、雪月花のメンバーである望月龍と花園優斗が控え室に置かれた椅子に座り、スタッフさんから受け取ったタオルで汗を拭きながら話している。

 元気な兄貴分である龍が、大人しくインドア趣味である優斗を外に連れ出すいつもの光景だ。

 相性が悪そうな二人だが、なんだかんだ優斗は龍のことを慕っているし、オフの日が被れば俺たち三人で遊びに行くことも少なくない。


 というか、優斗や高校の芸能科に通っている龍はともかく、俺はこの二人以外に休日に遊べる友達がいないんだけど……。

 別に学校でハブられてるとか話し相手がいないってわけじゃないんだけど、こういう活動をやっているとどうしても学友との繋がりが薄くなりがちなんだ。

 修学旅行とか文化祭とか体育祭とか、学校の行事も参加できないことが多いし。

 だから俺は……。


「なあ、雪もいいだろ? どこか遊びに行こうぜ!」


 俺にも予定を聞いてくる龍。


 そのありがたく魅力的なお誘いに対して返事をした。

「めちゃくちゃ魅力的な話だけどさ、俺と優斗は受験勉強しなきゃいけないだろ。だからパス」


 とても残念ではあるけれど、ノーの返事を。


 そりゃ出来ることなら俺だって久々に二人とパーっと遊びたいけどさ。

 でも、受験勉強は将来に関わることだし、ここは勉強を最優先しないと……。

 それに目的もあるしな。


「いやいや、俺と同じ高校受験するんだろ? 去年の俺思い出してみ? そりゃ普段よりは勉強の比重置いてたけど、普段からある程度勉強してりゃ受かるって。お前、結構勉強はできるしさ。それにうちの芸能科受けるんなら尚更大丈夫だって。だから遊び行こうぜ!」

「まあ龍と同じ高校なら自信はあるけどさ。ただ、その……」

「ん、どうしたよ、そんな言い淀んで」

「龍くんの圧が強いんじゃない? それか鬱陶しいとか」

「あ? んなわけねーよな雪! 俺と雪の仲なんだしよ!」


 椅子から立ち上がり、俺の元まで来て肩をガシッと組みながら言う龍。

 別に龍の圧が……っていうのはないけれど、ちょっと言いづらいというか……。

 まあ、ずっと黙っておくわけにもいかないし、いい機会かも。

 俺は意を決して、龍と優斗に自分の気持ちを伝えることにした。


「俺さ、誰も俺のことを知らないところで青春したいんだ。だからお前らと別の高校に行くから、ちゃんと受験勉強しなきゃいけないんだよ」


 俺、雪宮唯の告白に控え室の時間が止まった。

 そして少し間があいて、控え室ではスタッフからノックされるまで、大層騒がしくなったのだった。


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