第2話

 気がつくと、見慣れた天井があった。

 あれ?

 上体を起こそうとすると目の前が一瞬真っ暗になり、眼底が鈍く痛んだ。

 「大丈夫?とりあえずポカリ飲みな」

 リナが、私の部屋にいる。

 どうやって帰った?なんで一緒に?

 「まったく、慣れないのに長風呂しちゃだめだよ」

 リナの言葉でようやく、思考が鮮明になっていく。そうだ、リナに合わせて一時間くらいお湯に浸かって、それでのぼせて、リナに送ってもらったんだ。

 「リナ、ごめん」

 「気にすんなって、大丈夫だから」

 「……とりあえず、ポカリ代払うよ」

 「いいって、いいって」

 リナは私の肩を軽く叩いた。

 時計は九時を少し回ったところ、リナの帰りが遅くなるといけない。

 「今日、泊まっていいかな…………」

 「……え?」

 どうしていきなり?

 「あ、えっと、ほら、ミズキが心配だから」

 私が不審な顔をしたのを見て、言い訳をするように言葉を重ねた。

 「今夜なにかあったら大変だし、それに……」

 リナと一緒に銭湯にいるのは楽しい。もっと知りたいとも思う。

 「……ごめん、変なこと言って。私帰るね。」

 リナは慌ててカバンを持って立ち上がった。

 「そうだ、ポカリ買ってきたから」

 そう言ってカバンからポカリを三本取り出して、机の上に置いて、それじゃ、と、リナは部屋を出ていこうとする。

 「待って。泊まってってよ。」

 「…………気使わないでいいよ」

 リナの事、ほとんど何も知らない。でも、リナの体に痣や傷があるのを知っている。

 「お大事にね」

 「待って!」

 私は立ち去ろうとするリナの手を掴んだ。

 「私が、一人じゃ不安なの。帰らないで。」

 リナの左足首の内側には線を重ねたような傷跡がある。また、手首から肩にかけて、腕が痣だらけになっている日もある。残念ながら見間違いじゃない。リナは、銭湯で隠そうとしない、自分の傷跡を。

 「お客さん用の布団あるし、夕ご飯も昨日のカレーがあるから、ね」

 帰らせてはいけない。事情はわからないけど、SOSを出してくれたのだから。

 

 

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銭湯では何もはじまらない 蓮池キョウ @kon_371

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