「漆黒の荒波」

頭、つまり兜から飛び出る黒色の長い髪、

卵のように艶やかで、白い雪のように白い肌、

そして真っ黒で美しい瞳、そう彼女、ひれんさんが兜の中から現れる。


(ど、どうして彼女が?)


突拍子もない行動に困惑する。

彼の腕が彼女の髪を撫で上げ、腰に手をやったりと、

ぎくしゃくではあるが、女性的な動きをしている。

あれではまるで、『魔王が元々女性だった』としか……はっ!?


「ほ、ほほぉう?なるほどぉ?

 魔甲と呼ばれたお前が、まさかそんな美人だったとはなぁ?」

「意外ですか?まぁ、どうでもいいことじゃないですか」


そう言って、鎧……彼が脱がれていく、それは官能的に、一つずつ脱いでいく。

カラン、カランと、音を立てながら、彼女の体は全て露になった。

身に着けているのは、たった一枚の布のみ、

それを官能的に着込むと、ゆっくりと勇者の方へと向かっていく。


「ふぅん、良い身体じゃねぇか?」

「ふふっ、いいでしょう?この体独り占めしたくはありません?」


勇者は、少し考えた後、下種な笑みを浮かべて、彼女に近付き腰へと手を回す。

他の女性たちは、はぁとため息を吐いたり、適当な魔法遊びをし始めた、

どうやらいつもの事らしい。勇者と彼女は、ベッドのある部屋へと向かっていった。


(気が付かれていないうちに……)


魔法師たちに気が付かれないよう、部屋へとこっそりと向かう。


(いつ、ベッドがあると気が付いたんだろう?)


そんな事を考えながら、部屋の扉を気が付かれない様にゆっくり開け、

物陰に隠れた。ベッドがある部屋、と言っても彼の、魔王様の部屋だ。

中央に大きな純白のベッドが一つだけある部屋、何をするのか……?

そんな事を思いながら、彼女を勇者を見つめていた。


「ふふっ、ほらカッコいい勇者様、こちらへ……」

「あれだけ強いと言われた魔王も、ただの雌だったか、へへっ」


彼女は勇者をベッドへと先に座らせる、

勇者は、鎧や聖剣を床に投げ捨て、彼女の事をまじまじと見つめる。

彼女も乗り気で、色っぽく勇者の体を触り倒している。


「さすが、ベッドの上でも最強ってか?」

「えぇ?その通りですよぉ?♡」


彼女は、自分が巻いている布を、色っぽく脱ぎ捨てる。

彼女の裸体が露になる、白い柔肌が全て露出され、

僕は恥ずかしながらも、行く末を見るために、じっと見つめた。


「さて……では♡」


色っぽく、体をくねらせ、勇者をベッドへと押し倒す。

彼女もベッドの上へと上がり、勇者の体にまたがる。

勇者は鼻の下を伸ばしており、確実に溶けているのは確かだった。


(一体何を……?)


ごくりと、唾を飲みこむ。

このまま、裏切られてしまう可能性も……そんな事を思っていた時だ。

ふと、彼女の手がきらりと光る。

何かを持っている様だが、ここからは見えない。

彼女は、艶めかしい動きで、勇者の下半身をまさぐって、勇者を腑抜けにしていく。


「さて、それじゃぁ――」



その言葉を皮切りに、もう一つの、光ったほうの手を、胸に勢いよく当てる。



「――なっ!?うぐっ……!??」


勇者が苦痛の声を上げる、勇者は伸ばした鼻を治して、彼女の腕を掴みかかった。


「お前っ……まさかッ……!」

「ふふふふ、さっきまでの馬鹿みたいな顔、最高でしたよ?♡」


彼女が、狂気的な笑みを浮かべる。

まさか、と思い二人が寝転がっている純白のベッドを見る。

ベッドは勇者を中心に、真っ赤に染まっていくのが見える。

そのことから、突き立てたのが、ナイフの様な何かだと、推察できた。


「くそっ!!おい!女ども!!俺を助けろぉ!!」


そう、勇者が身をよじりながら、叫ぶが……誰も来ない。


「おいっ!!どうしたてんだっ!くそっ!!おいっ!!」


勇者は、更に身じろぎをして、もがき、足に力を入れたかと思えば、

勢いよく跳ね上がり、彼女を壁へと吹っ飛ばす。

胸を押さえながら、流れ出る血を片腕で抑え、聖剣を取った。


吹っ飛ばされた彼女は、勢いよく壁へとぶつかる。

だが、本人には傷一つ付いていない。


「どうして誰も来ねぇんだ!くそっ……!おいっ!!」



その瞬間、この部屋の扉が勢いよく開き、何かが部屋の外から飛んでいき

それは壁へとぶつかった。壁は飛んできたもので、凹んでしまう。

飛んできて壁にめり込んだ者、それは……


勇者パーティの一人であろう、あの魔法師だった。


「貴様の仲間は、一人残らず、倒してやった!後はお前だけだ!!」


カシャン、カシャンと音が聞こえる。

扉から入ってきたのは、先ほど脱がれた魔王様、彼だった。

彼はどうやら向こうの部屋で、音もたてずに倒しまわったようだ。


「畜生……!畜生畜生!!なんで俺の思い通りにいかねぇんだっ!!くそっ!!」


勇者はその場で、地団駄を踏んで、酷く焦り込む。

どうすればと、周りを見渡した後、怒りの矛先は、彼女へと向いてしまったようだ。


「なら……あのクソアマだけでもっっ!!」


そう言って、聖剣を構え、彼女へと飛び込んでいく。


「ひれんさんっ!」


彼女の危機に、思わず僕は飛び出てしまう、

彼女を守ろうとしたのか、別の理由かは定かじゃない。


だが、僕の足では間に合うことはない。

やはり何も出来ないのか?そんな事を考える合間に、

聖剣は彼女の柔肌へと、突き刺さる……!



――筈だった。


 パキンッ――


綺麗な音色を立てて、聖剣が中央から真っ二つに折れる。

この場にいる全員が、何が起こったかわからず、ただ立ち尽くすのみだった。


「……ふ、ふふふふふふふふ」


最初に動いたのは、彼女だった。

この場はまるで彼女以外時が止まったかの様に、全くもって動かない。

勇者ですら、目線を彼女に合わせるのが、精一杯だったようだ。


彼女一人動く空間、彼女は僕の方を見て、にっこりと笑いこむ。


「さて、それじゃ、カルマンテさん、使って見ましょうか?あの能力♡」


あの……確か蜚蠊操作?あのわからないスキルを使うのか、

そう思いながら、じっと彼女を見つめた。


彼女は勇者へ、指を指す。そうただ指を指すだけだった。



すると……


何処からともなく、黒い何かがあらゆる隙間から溢れ、勇者へと一直線に向かった。

黒い何かは、勇者へを覆いつくしていく。


「な、なんだこれはっ!?ぐはっ!?う、うわぁぁああああああぁっ!!」


黒い何かに覆われた勇者から、ゴキリ、ゴキリと音が聞こえる。

暫くして黒い何かが、去った後に残っていたのは、

ありとあらゆる関節を逆に曲げられ、死んでいる勇者の死体が、そこにはあった。


「ふぅ……♡はぁ~……なんといい力なんでしょう?」


彼女は感嘆の声と、甘い甘い笑みを零す。

僕は死体と、彼女の顔を交互に見合わせる。

部屋前に居た彼も、同様に見合わせていた。


「い、一体どんな力を使ったのだ?」


彼が、彼女にそう聞いてくる。

彼女は、ふふと笑いながらあるモノを見せてきた。


「これですよ、これこれ♡」


彼女の細く白い、美しい指先に、何かが乗っている。


先ほどの黒い塊、その一端だろうか

いや、よく見てみると……ぴょこんと、二つの細い角の様なものが生えている。

下腹部には足の様なものが、六本付いており、それぞれが別々に蠢いていた。


「な、なんですかこれ……?」

「初めて見る……一体何なのだ、貴公よ?」


僕たちが、まじまじと、その生物の様な何かを見つめていると、

彼女が説明してくる。


「これが、蜚蠊です。

 私の世界ではメジャーなんですよ。それにしても可愛いですねぇ」


彼女はその生物を、もう片方の手で撫でおろす。

撫でた後、彼女は僕の手の中に、そのゴキブリと言われる生物を乗せてくれた。


「す、すごい……魔王様の鎧の様に硬いのに、こんなにも軽いなんて」

「一体どんな構造をしているのだ?我も、気になる事ばかりだ……」


二人でその生物をまじまじと見つめている間に、

彼女はゆっくりとひしゃげた勇者の死体へと近づく。

そして、その死体の横へと座り込むと、折れた聖剣を持つ。


「……あの?ひれんさん?いったい何を……?」

「あぁ、これ要らないですよね?」

「要らないが……まさか」


彼女はその言葉を聞いて、狂気的な笑みを見せ、

死体へと両手を合わせて、声を漏らした。


「ご馳走、頂きますね♡」


にっこりと笑いながら、聖剣を死体へと、突き刺した――

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