――「聖剣の勇者 レベル60」――

「初めの勇者襲来」

「――なるほど、死刑と」

「えぇ……ただ、私の食欲を満たしたかっただけですのに」


彼は自身の体を玉座に、頭を机に置きながら、

体に拘束した彼女の話を……猟奇的な話を聞いていた。

僕もそれを聞いていたが、とても人間とは……思えない。


『同族』を食べたい。

その欲求のままに、同族を殺し、その肉を、血を、内臓を貪ったようだ。

特に好きなのは、僕のような華奢で小さい男……

あのことを思い出すだけで、ゾクゾクと震えが止まらない。


(僕らでも、そんなことしないのに……)


メモをとりながら、そんな事を考える。

続きを言うのであれば、何年も冒涜的行為を繰り返していた様だが、

あるドジをきっかけに、捕まってしまいそのまま死刑と至ったそうだ。


「折角、痛みもなしに、止めをさせたのに……」


そう言いながら、彼女は色っぽくあの黒い瞳で、僕の事を見てくる。

ゾゾゾと背筋に寒気が走り、彼女の視界から逃れた。


「うぅむ、まさか、救世主がこんな、うぅん」

「酷い言い草ですね、あれだけ、求めて貰ったのにぃ♡」

「いやまぁ、その、うん」


僕は、玉座の裏ではぁとため息を吐く、

あれだけ美しいと思った救世主だと思っていたのに、

こんな猟奇的な人だったなんて。もう時間がないと言うのに……。




__ドンッ!


そんな時、この部屋の扉が大きく叩かれた。


「……来てしまったか、勇者!」

「ど、どうしますか!?魔王様!!」

「むぅ……やむおえまい。隠れていなさい、カルマンテ」


僕は彼の言う通り、そのまま玉座の後ろで彼を見つめる。

彼は置いた頭を、自身の体へと被せる。

何か抗議する声が聞こえたが、すぐに消え去った。

彼は、玉座の横に立て掛けていた巨剣を取ると、立ち上がり扉の方へと向ける。


__ドンッ!ドンッ!


扉がミシミシと言い始め、中央からひしゃげていく、後少しで砕けてしまう!


(魔王様……僕も戦えれば!)


非力な僕が出ても、すぐにやられてしまうのは、明らかだ。

卑屈になりながら、今にも壊れそうな、扉をじっと見つめていた。


次の瞬間。


__ドグシャァ!!


扉は木っ端微塵にくだけ、切り裂かれる。

扉の破片が舞う中、彼はギッと力を入れた。


「よぉ!雑魚魔王!来てやったぜ!勇者様がよぉ!」


そこに現れたのは、聖剣を片手に持ったキザな勇者だった。

トゲトゲとした髪型に、青と赤の派手で、豪華な服を着た華奢な男。

周りにはパーティの仲間であろう、女性たちを侍らせており、

その誰もが大きな帽子と、杖を構えている事から、

人間の魔法師であることは明らかだ。


「来たか……聖剣の勇者!」

「あぁ!テメェの弱っちい軍隊、全員皆殺しにしてやった!あとはお前だけだ!」


そう言われた彼は、ギリリと巨剣を握り締める。

守れなかった後悔と、目の前の勇者への怒りが、顕になっていた。


「おのぉれぇぇ!!!」


大きく巨剣を振りかざすと、魔力を込めて彼は力任せに、それを振り下ろす。

魔力は刃へと乗り込み、魔力の塊として、空気を裂いて勇者へと飛んでいく。


「へっ!お前ごときの攻撃!」


勇者の周りにいる魔法師たちが、防御壁をはり、彼の攻撃を容易く受け止める。

相手の方が上手なのか?それとも数の暴力なのだろうか?

どちらにしろピンチなのには変わりない!


「オラァ!」


振りかざした隙をついて、勇者は聖剣を彼へと振りかざす。

彼は片手で、どうにか受け止めるが、威力が強すぎたのか

彼の巨体を軽々と飛ばし、壁へと吹き飛ばす。


「ム、ムゥぅ!!」


あれだけ強い彼でも、負けてしまうのだろうか?

横で苦しむ彼を、ただ僕は見つめるだけ、

見つめることしか出来ないのか?そう考えていた時。


「な、なんだと?だが、ムゥ……」


何か独り言の様なものを呟く、こんな時に何を……?


「オイ!なにぶつぶつ言ってんだよぉ!?」


勇者が荒い言葉を吐きながら、ゆっくりと彼に近づいてく、このままでは……!


「……わかったやってみよう」


その言葉と同時に、彼は勇者へと手を出す。

ゆっくりと立ち上がると、巨剣を横へと投げ捨てて、両手をあげた。

これではまるで……降伏!?


(そ、そんな、魔王様でも勝てないなんて……)

「あ?命乞いか?そんなもん、聞くわけが――」


勇者はそれでも、彼へと剣を振りかざそうとする。

その行動に臆さず、彼は自身の頭へと手を持っていき、

頭を外して、脇へと抱えた。


ピタリと勇者の動きが止まる、何故だ?そう考えるが……ハッと思い出した。


「そう、降参するわ」


出てたのは、そう、ひれんさん、彼女だった。

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