「本性発覚」

あと二十分を切った、まもなく勇者がやってくる。

救世主の彼女、ひれんさんに来てもらったとはいえ、

彼女にどんな能力が身についたのか、はっきりとしない。

彼は新しい体に慣れるため準備をしている。

なので僕が彼の指示のもと、彼女の能力を調べることにした。


「えっと、こちらです」

「はい、わかりました」


着せる服も無いため、布一枚を巻いて貰い、僕の後ろについて来てもらう。

後ろだったら、もし落ちたとしても、見ることは無いからだ。

魔王城の廊下を二人で歩く、廊下には二人分の足音だけが響いていた。


「この部屋です、この部屋で分析してみましょう」


そう言って、部屋に二人で入る。

部屋と言っても僕の自室だ。基本的にあるのは、

大量の棚に魔術書と、料理に使える素材本などが入っているだけ。

机には薬学に使う実験道具などが、所狭しに並んでいるだけだ。


「えっと、その椅子に座って、少し待っていてください」

「はい、ありがとうございます、カルマンテさん」


彼女を椅子に座らせ、棚にある器具を取り出して、彼女の前に出した。


「これが、分析版……えっと、なんて言えば良いんでしょうか?

 ざっくりと話せば、能力がわかる板というか、なんというか……」

「大丈夫ですよ、私についた能力を調べるもの、ですよね?」

「そ、そうです!はは、すみません……」


テヘヘと謝ると、彼女はふふと微笑して口を開く。


「確か、戦わないと、いけないのですものね」

「そうですね……すみません、でもきっと大丈夫です!」


僕はそう言って、分析版に魔力を込める。分析版が淡い光を放ち、動き始めた。


「えっと、解読しますので、暫く僕の部屋見ても大丈夫です」


彼女はそれを聞いて、はいと言ってこくりと頷く。

僕は彼女に分析版をかざし、分析をし始めた。

彼の、魔王の肉体を使ったのだ。何かしら能力はあるはず……。


「出てきた、えっと……?」


出て来たステータスによれば、

レベルとしては1

1にしては防御力がずば抜けているだけで、それ以外は普通、

とどのつまりただ硬い一般女性なのだ。

刀くらいなら弾きそうだが、それでも防御面だけ、攻撃は一歳ないと来た。


(どっ、どうしよう……こんなの彼女にも魔王様にも伝えられない!)


救世主だと思ったのに、彼の肉体、レベルとしたら、

八十以上もあるはず……それを使ったはずなのに、

ただ防御が高いだけなはずがない……何か、何かないだろうか、

そう思って覚えているスキルの欄を覗いた。


(…………何これ?)


スキルに何か異様なものがついている。発音は、えっと……。


「蜚…蠊……操作?何を操作するんだ?」


なんのことだろう、彼女ならしっているかもしれない。

そう考えて、顔を板から上にあげた。


だが……彼女は、椅子から消えていた。


「あれ?ひれんさん?」


そう言葉を発した途端、僕の首に何か冷たく硬い感触が伝わる。

首筋の方を見れば……それはメスナイフ。

一体誰が?その疑問はすぐにわかったし、分かりたくなかった。


「蜚蠊操作、面白いですねぇ?」

「ひ、ひれんさん?!何を……?!」

「何をって……ふふっ」


彼女は僕の脇に腕を入れ、動けなくした後、

後ろから耳元に口を持ってきて、ふーっと耳穴に向かって、息を吹きかけられる。

ゾワゾワっとした感触が、自分の体を包む。


「これから、貴方を食べるんですっ♡」

「えっ!?!?」


食べるって……?い、一体どういう事だろう?

背筋が凍ると共に、心臓がどくっどくっと高鳴る。

一体何を……?


「私好みの華奢で、小さな男の子、しかもエルフだなんて……

 どんな肉や血の味がするのでしょう?うふふふっ……♡」


本当に食べる気だ……メスが、首を離れ、体をつつと通る。

そして、ぷちり、ぷちりと、服のボタンを一つずつ千切られる。

服が脱がされ、自分の褐色肌が露わになる。


このままでは、本当に切り裂かれて、食べられてしまう。

逃げようにも、体が震えて動かない。このまま死んでしまうのだろうか?


「さて……それじゃあ――」


そう言って、僕の体に、メスを突き刺そうとした――




目を瞑り、痛みに耐えようと、全身を硬直させる。

ぶるぶると震えながら、来たる痛みに耐えようとした……。

だが、いつまで経ってもやってこない、一体何が?そう思った時、

カランとメスが落ちる音と共に、ひれんさんの声が聞こえてくる。


「なっ?!なにっ?!甲冑の腕!?」


驚きの声と共に、組みつかれていた腕が、引き剥がされる感覚を覚える。

ぱっと目を開き、声の方を振り向くと、

そこには両腕を甲冑に掴まれ宙に浮き、引き剥がそうとする彼女。

あの甲冑は……!


「我の側近に、手を出すとは、何事だ?」


低く唸る様な、とても安心する声が聞こえてくる。

カシャン、カシャンと音が聞こえ、やって来たのは、そう魔王様、彼だった。

僕は溜め込んだ恐怖心を、涙という形で流しながら、彼の方へと走り出す。


「魔王様っ!!怖かったです!!」


彼へと抱きつき、安堵感を得る。彼は僕の方を見て、優しい顔を兜で表現した。


「カルマンテよ、無事か?」

「はい!なんとか……ありがとうございます!魔王様!」

「くっ……離してくださいっ!それに貴方もその体!」


彼女は掴まれながら、暴れまわり彼の方へと目線を向ける。

その目はもの優しさはなく、獲物を狩る狩人の鋭い目つきをしていた。


「大きい甲冑着てるものだから!いっぱいお肉食べれると思ったのに!!」

「えぇ?我も?残念ながら、我の肉体は貴公の肉体となったのだ」


彼は、自身の甲冑を開くと、暴れる彼女を自身の体へと、

仕方ないと言った表情で、入れ込む。

彼の体に拘束され、首だけが出ている状態。

彼女は首を動かして逃げようとしたが、力では勝てない事を悟り、

ムスッとした顔で、頬を膨らませた。


「全く、自由に鎧を動かせるようになったかと思えば……不幸が続くものだな」


そう言って、彼は彼女の顔に、

自分の兜をのせ、そのまま王座へと向かった。

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