第3話 味のないうどん
「くぁ~」背伸びをし、くたびれた顔で欠伸を1つする。赤いLARKを1本咥え、BICのライターで火をつける。大きく1口吸い込み肺を満たす。左手の中ではBICのライターを親指と人差し指に挟んでクルクルと回している。肺を満たしていた煙はゆっくりと気管を通り口から吐き出される。
少年は見惚れる。現在の生命を吸い込み過去を煙にして吐き出しているように映る。
オミさんの煙草を吸う仕草は自然体で絵になる。
「とても美味しそうにみえます」少年は言う。
「そうか?」口と鼻から白くなった過去を吐き出す。
「そこの立食いそばでも食べないか?」煙草を携帯灰皿に潰し言う。
「うん。お腹空きました」少年は答える。
高速バスが愛媛に着き、降りた先の目に入った立食いそば屋に入る。
食券販売機でオミさんは、温かいそばにトッピングコロッケに小カレーを追加し、少年の分のきつねうどんを買った。
「少年、これからどうするんだ?」湯気が立ち昇るそばを躊躇することなく口に入れる。
「予定はないです」少年はうどんを箸の上で冷まし答える。
「1日付き合えるか?」
「うん。大丈夫」箸のうどんに息を吹きかけようやく口に運ぶ。
「そっか、良かった。バスの中で女の子と会うって言っただろ?」
うどんが熱く相槌を打つことしか出来ない。
「実はな、俺が愛媛に来てるのはSNSで知り合った子と気がっ合ってな。その子と遊びために来ているんだ。バスの中で昨日もLINEのやり取りをしてて、その子の家に最近彼氏と別れた友達が来ていて慰めてると言ってる。俺は愛媛に向かってある道中に面白いやつと知り合った事を話した。そこでだよ、少年。2対2で遊んでその子の気晴らしになってもらおうってなったんだ。その子も乗る気になってる。少年が寝ている間に話しが盛り上がったんだよ」温かいそばを食べ終え小カレーに手をつけ言う。
うどんは飲み込んでいるが言葉が出ない。
「これから少年と俺で2対2で遊ぶんだよ。楽しみだろ?」目尻に深い皺を作る。
「え…楽しみか分からないです。」
今まで女性と遊んだことのない少年は動揺している。2対2で女性と遊ぶ。考えただけで緊張してしまう。手には汗をかいている。きつねうどんの熱さからの汗ではないと少年は思う。
「そんなに構えなくて大丈夫だよ。相方は若くてウブって伝えてあるよ。ウブで経験もないって言ってたら張り切ってたぞ」オミさんは食べ終えていた。
「そこまで話したんですか?」恥ずかしいけど有り難くもある。隠す事があるから緊張するんだ。
「お姉さんが来るから安心しとけよ。今から緊張してると後でヘトヘトに疲れるぞ」目尻に深い皺を作り言う。
オミさんは、僕が固くならないようにと考えて女性とやりとりしてくれたのだろうと少年は思った。
いきなりのことで、きつねうどんの味も分からないまま店を後にする。お腹は満たされたが、味わえないと満足感はさほどなかった。
オミさんはとても美味しそうに煙草の煙を吐いている。左手の中でBICのライターがクルクルと回っている。
ハミングバード~少年とコエ~ けもし @kemoshi
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