大きな木

@oto_1ka

第1話 冬のはじまり

とある山の中に1本の木があった。


ーまた、新しい季節がきたな…そろそろ準備をするか


カラダを小さく震わせると、黄金色に輝く葉がはらはらと落ちていく。周囲の若い木々もすでにほとんどの葉を落とし、次の季節に備えている。空気はひんやりと澄み渡り、木々の間を冷たい風が吹き抜けていく。


落とした枯れ葉をカサカサと踏む音が遠くから聞こえてくる。ひょこっと顔を覗かせたのは、今では里でも長老と呼ばれるほど立派になった馴染みのたぬきだった。灰色がかった毛並みは年季を感じさせ、その瞳には経験豊かな知恵が宿っている。


ーおや、もう準備を始めるのかい?


ーたぬきさんか、そろそろ季節が変わるからな


ーそうかい、私はあんたの太くてたくましい幹をかりて、また今年も寒さをしのがせてもらうよ


長老と呼ばれるほど年をとったたぬきはヨタヨタとした足取りで自分の幹に潜り込む。たぬきの動きに合わせて幹がかすかに揺れ、木は心地よさそうに静かにその存在を感じ取る。


ーああ、そうしてくれ


ーおやすみ


ーもう寝てしまったかもしれないが、また暖かい風が吹く季節がきたら色んな話をしよう。私はいつだって暇だからお前が起きるのを待ってるぞ


冬の冷たい風が吹き始める中、木はしっかりと根を張り、たぬきを守るようにその幹を広げる。そして、また春が訪れる日を静かに待つのだった。

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