第7話 砂糖の様に甘い日常

 「パパ〜おかえり〜」

 「パッパ〜」

 「う〜」


 帰宅した。

 玄関に三人の子供達がそれぞれ、歩行・ハイハイ・歩行器で俺を出迎える。話をしようと決めた、俺の心をいきなり揺さぶる由々しき状況だ。もちろん子供達の後ろには妻が続く。


 「おかえりなさい」


 「あ〜帰ったよ」


 少しばかり寄り道――をした俺の帰宅時間は特に指摘される事もなく向かい入れてくれた妻。


 「あれ? お菓子?」


 反応したのは、俺が持っているビニール袋。コンビニで意味不明に購入した、無駄駄菓子達だ。


 「あ〜。たまには……な」


 「たまには? へんなの。昨日もたまごボーロ買って来たじゃん」


 「いや、今日はチョコバットとふ菓子だ」


 「ポテチは?」


 「は?」


 「朝頼んだ私のポテチだよ。濃いコンソメ」


 「す、すまん……」


 「えっ?! 忘れたの? ポテチ用に胃袋半分開けておいたのに」


 「と、とりあえず夕飯にしよう」


 あの調査結果は本当なのか?

 俺が知っている事とは微塵も思ってない事を差っ引いても、妻の振る舞いは普段と変わらずマイペースだ。


 「ねえ! 見て見て! 一輪挿し――買っちゃった♪」


 妻は一輪挿しを無邪気に頭上に持ち上げ、俺に自慢する。


 「なかなかいいな。挿してある花はなんだ? スイセンか?」


 「違うよ。トイレじゃないんだから。ガーベラに決まってるじゃん」


 「そうか。ガーベラか。だが、子供達の手が届かない所に置いとけよ。危ないからな」


 「うん!」


 どうだい?

 なんとも微笑ましいだろ?

 今の現状を壊したくないと言う俺の気持ちをわかってくれるか?

 他愛もない会話。

 他愛もない笑い。

 他愛もない出来事。

 それが日常の幸せと言う物じゃないか?

 だが、俺は突きつけなければならない。例の事実を。

 子供が寝静まった後……恐らく22時には開始出来るだろう。

 それまでは我が家のいつもの日常を満喫させてくれ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺はリビングのテーブルに例のライターを置いた。

 今回の最重要アイテム『ホテル ロサンゼルちゅ♡』のライターだ。

 これがすべての始まり、そして全ての俺の思考過程を最後に打ち壊して来たラスボス的アイテムだ。

 妻はまだ子供達を寝室で寝かしつけている。

 その間にテーブルの上の物は、二本のミネラルウォーターのペットボトル以外を排除し、真ん中にこれ見よがしにライターを置いた。当然、妻が座ればそれに目が行くだろう。

 俺の計画はこうだ。

 ①まずはライターを見た妻のリアクションを凝視して確認する。

 ②当然無言になると予想。

 ③ミネラルウォーターを飲む俺。

 ④まずはライターについて聞いてみる。

 ⑤当然知らないと発言すると予想。

 ⑥ミネラルウォーターを飲む俺。

 ⑦本題に入る。


 こんな流れだ。

 何気にミネラルウォーターの存在は大きい。

 俺の心のリセット作用、落ち着き、冷静、理路整然――そんな効能があるからだ。


 引っ張るなよ。と思う奴は自分勝手な奴だ。これから高確率で修羅場が始まると予想されるんだぞ。決して演出・構成なんかではない。


 ちなみに、一応あらかじめ断っておくが、俺の計画がうまくいかないと言うフラグではないからな。多分……。

 


 


 

 

 

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