第4話 砂糖になっても甘くない。

 「そ、そんな事が…………」


 依頼人が絶句されています。

 無理もないです。

 

 その間に風俗に勤務する女性について少しよろしいでしょうか?

 大前提としてお金が稼げるから……

 と皆様も思うでしょうが、そんな甘い物ではありません。


 デリバリーヘルスの場合はだいたいの店がフリー60分15000〜18000円。そのうち女性の取り分は8000から9000円。そこから写真指名があれば1000円を上乗せ。リピートの場合は本指名2000円上乗せ。5時間勤務したら約5万? と思うと思いますが、デリバリーですので実際は移動時間があります。

 しかも、一本終わってから必ずしもその後連続して続いてる訳ではありません。待機時間があるのです。その時間は自由時間ですが、時給じゃありませんので一銭にもなりません。

 一日一本。

 そんな日は普通にあるそうです。

 ゼロの日もあるそうです。

 ちなみに、業界用語で一本も仕事がない日を『お茶をひく』と言います。


 だから人気が出る為に、女性も様々な努力をしなければなりません。ただ触らせたり、受け身は駄目。もちろん、愛想よくは基本、プレイ内容、言葉遣い、気配り、自分磨き、時には営業……。身体一つで稼げるなら……と飛び込む方がいます。店側も新人であれば、「この店は稼げる」と思わせ、今後も出勤してもらう為に、フリーのお客様を優先的に付けます。しかし、一週間もすれば新人としての価値はなくなり、後は自分次第になっていくのです。

 ホストやキャバクラの世界も売れるのはほんの一握りと聞いた事ありますよね?

 デリバリーヘルス勤務の方もそうです。一見稼ぐ為の最後の手段的に風俗店は周知されていますが、甘いです。

 何かを捨てなければなりません。

 性病の危険――私が知るある女性はソープランドに勤務していましたが、病院で検査してもらった際に「見えないし、ご自分ではわからないかも知れませんが、中が傷だらけです……」と医師も絶句したそうです。

 その方は風俗専業でそこそこ人気があった方ですので、週三日勤務一日3万〜5万、生理休暇を除くと月10日勤務で30〜50万の収入がありました。

 月22日8時間勤務で月収20万。

 月10日6時間勤務で月収30万以上。


 どちらが良いかはその人の価値観次第です。否定もしません。実際前述した方はそれで生計を立てて、この世の中に暮らしていたのだから。


 増やせばもっと稼げるじゃん?

 甘いです。

 好きでもない男性と身体を合わせるのですよ?

 いくら、覚悟を決めた方でも、メンタル的に月三分の一が限界……いや、それでもむしろ多いと思いませんか?


 どんな仕事を選ぼうが、稼ぐのは大変だと言う事。甘い世界はないのです。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 「砂糖と塩様。今回の調査時間は一週間、ほぼ24時間体制で述べ160時間。並行して、尾行調査以外にSNS、ホテルに関しての調査を行いました。結果から申しあげますと、奥様は週一回派遣型の風俗店――俗に言うデリヘルで勤務していました」


 「…………」


 「そして、その店にはご結婚される前から在籍されていた様です」


 「そ、そんな事が……」


 「SNSを頻繁にチェックしていたのは、恐らく……店舗で配信している、ブログの様な物を更新したり、個別の営業活動をしていたと思われます」


 「…………」

 

 「何故風俗店に勤務しているのか? と言う要因までは現時点では確認出来ませんでした」


 「わ、わかりました……」


 「差し出がましい様ですが、何か心当たりはありますか?」


 探偵に調査を依頼するのは無料ではありません。何人もの人間が動くわけで、それなりの費用はかかります。だから、経済的には貯蓄がある方、余裕がある方です。

 ですので、今回は経済的な理由で風俗店に勤務している――と言うケースではありません。


 「…………夢があった……」


 「はい?」


 「思いあたるのは、夢があったと話しているのを聞いた記憶があります」


 夢……。

 そうですか。

 何かを成就させる為にお金が必要。

 

 私は叔父から、この探偵事務所を引き継ぎましたが、もし何もない状況から自分の事務所を立ち上げるとしたら……。

 詳しく聞かないとなんとも言えませんが、少しだけわかる気がします。


 

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