2話 夏休みの思い出①常夏の水着回
青い空に透き通るような綺麗な海が眼下に広がっている。夏休み期間になった俺たちは何とか皆の予定を合わせて海に遊びに来ていた。
灼熱の如く暑さにも関わらず、ビーチには親子連れや俺たちと同い年くらいの男女のカップルなどたくさんの人で賑わっていた。
あまりの人の多さに人酔いしそうになっていると、目の端に女子大生の二人組が「早く行こよ―――!」とテンションマックスの状態でこちらに走ってくる。それ違うほんの一舜が滅茶苦茶際どい水着とたわわに実った果実が目に入ってしまい、少しだけ見惚れてしまい健全な男子高校生だったこと改めて認識させられる。
と、呑気にそう思っていると――――。背後から物凄い殺意に近い気配を感じて振り返ると怖いくらい笑顔な九音とあっちゃ―――と額に手を当てた胡桃が立っていた。
二人とも普段とは違った格好していた。九音は前回と同じ純白のビキニに同じ柄のショート・ハーフサイズの布を巻き付けた格好、胡桃は黒色のビキニといった大胆かつアダルティーな恰好をしていた。
普段は見られない二人の水着姿に見惚れてしまうのを必死に堪えて平静を装いながら肩を並べて歩く。
当然ながらそんな二人には注目の眼差しが集まっていた。同性からは可愛くて、スタイルもいいなんて、羨ましい、絶対モデルか芸能人だよといった羨望の眼差しを向けられ、野蛮な男どもからはおぉ―――あの子たち滅茶苦茶可愛くね!?―――ナンパしてこようかな、といかにもチャラチャラ声も聞こえてくる。
その声を聞いた瞬間、普段は温厚な透哉が凄まじい鬼の形相で見てきた男たちを睨み上げていた。まるで、‘’ふざけたこと言っているとぶっ殺すぞ‘’と言わんばかりの覇気を纏いながら――――。
本当に胡桃のことが大事のようだと感心していると。お前もしっかりと西園寺さんを守ってやれよ、こういう場所はそくでもない連中の巣窟なんだからなと耳打ちされる。
それはいくらなんでも言いすぎだろと思っていると、真横から声をかけられる。
声の方向に顔を向けると、大学生くらいの美人なお姉さんたちがお兄さんたち今時間ある?と話しかけてきた。
―――まさかこれが巷に聞く逆ナンパ?と困惑していると、その一人が透哉にぎゅっと胸を押し当てながらお姉さんといいことしない?と小声で誘ってくる。それを透哉は鬱陶しそうにしながら「すみません。俺、そういうことに興味ないんで―――」とあしらっていた。
透哉の言葉にムッとしたナンパ女が「もしかして隣にいる女が彼女なの!?」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら「そんなお子ちゃまと遊ぶより私ともっといいことしよ!」とさらに妖艶な声色で迫ってくる。
胡桃のことをバカにされたと感じた透也は怒りに震えながら、「今、胡桃のことバカにしたのか? お前らみたいな尻軽クソビッチが容易く俺の胡桃のことを口にするな!」と見たことないくらいの剣幕で怒り狂っていた。
その剣幕にたじろいだナンパ女たちは周囲の視線もあってか脱兎のごとく勢いでどこかに走り去ってしまった。
「………透哉!」
衆人環視の中、胡桃が透哉に勢いよく抱き着く。
「おぉ―――どうしたんだよ」
驚いた透哉が目を丸くすると。
はにかむような笑みを浮かべた胡桃が「あんな風に言ってくれたすごく嬉しかった」と言う胡桃に「あんなのたいしたことじゃねぇよ」と頬を掻きながらそう言う透也。
二人のやりとりを見た周りの野次馬たちが兄ちゃんやるね――――、よかったなお嬢ちゃんなどと言われていた。
俺もそんな二人を温かく見守っていると突如として脇腹に痛みが走った。
痛んだ箇所に視線を向けるとフグのように頬を膨らませた九音が俺の脇腹を抓っていた。
「良いな―――胡桃だけあんなに藤堂くんとイチャイチャしてズルいよ」
焼きもちなのか、羨ましいそうに二人を見ている九音に「ええっと、西園寺さん?」とお伺いを立てる。
「私もユウマくんからあんなこと言われてみたいな――――」
ちらちらとこちらを見ながら言ってくる九音。
「………」
だんまりを決め込んでいると「ユウマくんのばかっ!意気地なし」と理不尽に罵られる。
そんなアクシデントからしばらくたった頃だった。九音がおもむろにポーチの中から小さい何かを取り出して俺に手渡してくる。
「西園寺さん………これって―――――」
おずおずと九音に訊いてみると―――――。
「塗ってくれるよね?ユウマくん――――」
にっこりとした笑顔のまま九音がそう迫ってくる。
そう、九音が手渡してきたのは『日焼け止めクリーム』だったのだ。
「ちょ、ちょっと待て。西園寺」
慌てふためくユウマをじーっと見つめながら、「問題ないでしょ―――だって、付き合っているんだから」と、とんでないことを言い出す九音。
「でも―――えっと、その――――」
おろおろとしているユウマに「他の女の子には出来て、私には出来ないんだ―――」
と、しょんぼりと肩を落とす九音に「わかったよ、塗ればいいんだろ、塗れば………!」
半ばやけくそになりながら返事をして九音から渡された日焼け止めのクリームをパラソルの中でうつ伏せになっている九音の背中から塗り込んでいく。
透き通った綺麗な白い肌のすべすべな触り心地にドキドキしながらも、優しく慎重に丁寧に塗っていく。
「ふっふぁ―――、ユウマくん―――――!」
当の本人は何故だがわからないがエロい声を出すという奇行に走っている。
「西園寺頼むから、変な声を出すのは控えてくれ」
懇願するのだが―――――。
「どうして!? もしかして反応しそうになっちゃったから?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてそう言ってくる九音。そんなぶっ飛んだことを平然と言える彼女の神経を疑った。
(まったく本当に西園寺は―――――)
しかし、そんなことを口にしても状況は好転しないため心の中だけに留めておくことにするが、当の本人はそんな俺の気も知らずに楽し気な笑みを浮かべていた。
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