「運命には抗って、抗ってから諦めるというのも遅くはないと思うんだ」

 俺は主人公リューリアらと別行動だ。


 ケルメスと一緒、バディを組んでOSET遺跡の中枢に向かう。リューリアのパーティーは地上に出る、そういう提案をしたのだが……。


「リューリアはルーネとそれを連れて出て」


 と、スカーレットが仕切った。


 スカーレットが俺についてくる。


 俺が口を開こうとしたら、スカーレットの指先まで覆うチェーンメイルの指と口付けさせられた。


 鉄の味がした。


 それでも俺は言う。


「俺とスカーレットが組んでも弱いぜ?」


「望むとこ。だからこそ一緒にいこう?」


 スカーレットにここまで言わせちまったか。


 それを言われちゃうと断りづらいのよね。


「帰れ」


「嫌だ」


 ケルメスは両手をあげている。


 つまりそういうことになった。


「リドリーはどうしてOSETに詳しいのかな?」


「知らないのか? 男みんな冒険好きなんだよ」


 OSET遺跡の中枢にはあっさり辿り着けた。


 ギルヴァンみたくゲートを解く絡繰や、パスワードなんかは全部省略だ。壊れたドアを、気密ハッチを三人がかりでこじ開けたくらいか。


 スカーレットとケルメスが焼き切った。


「ここは……」


 スカーレットが言葉を無くす。


「OSET遺跡の中心だよ」


 宇宙戦艦で言えば中央指揮所だろうか。


 幾つものモニターにイスやらが円形に並ぶ。


 俺は端末の一つを動かした。


「生きてる」


 OSETの遺跡が目覚める。


 防御システムにエネルギー回路再構築。


 OSETのアナウンスが廊下にひびいた。


 OSETの浄化チームが起動する。


 OSETの機械化兵器だ。


 魔人は本能がそうさせるのか、OSET兵器に襲いかかった。魔人とOSET兵器が衝突する。だが、坑道での戦いで弱体化した魔人には、跳ね返すだけの力が残ってなどいなかった。


 俺が戦ったのとは比較にならない魔人が。


 OSETの高度な装備の前に焼かれていく。


 小型焼却ロボットが無数に、洪水のように押し寄せ、あらゆる対象をスキャンしては、魔人だったものを焼く。


「これで終わったろ……?」


 と、俺は崩れかけた体に力を入れた。


 まだ生きているモニターでは、魔人が逃げまどう。逃げている、というのは、正しくはないな。


 魔人は命を繋ぐ選択肢に進んでいる。


 喰える獲物なら喰う。


 排除する敵なら排除。


 勝てないなら全力で逃げる。


 今の魔人は三番目の本能だ。


 騎士団がOSETの遺跡に入った。


 OSETの遺跡は調べられるだろう。


 妨げる封印は解けているのだ。


 俺は、ケルメスを見た。


 ケルメスの魔人に生き残る道は無い。


 逃げる機会は、蔓延する魔人を掃討するために起動したOSETの防御システムのせいで失われた。


「魔人は全て掃討されたんですよ」

 

 モニターの中では魔人が焼却される。

 

 OSETの遺跡から魔人が除去され、防御システムたちはサイクルの最初へと戻り、再び目覚めるまでの眠りへと帰っていく。


 イレーヌにどう説明するかな……。


「おぉー」


 と、スカーレットがモニターを触る。


 王都ではテレビモニターは無いらしい。


 だがギルヴァンの歴史を知っていれば、その新鮮さは時期に終わるのだろう。本編は始まってさえいない。


 俺は、前日譚でもうへとへとだ。


「きみは?」


「何がだ、ケルメス」


「きみはどうする? 人類の裏切り者になるかもしれない。同胞の魔人を全て精算してくれた大恩のミジカミミを見殺しにはしたくはないけどね」


 ミジカミミ、ね。


 エルフが人間に言う言葉だ。


 ギルヴァンでは、なんだが。


「考えてない。考えて決められる人生じゃない」


 だが、と、俺は疲れた言葉で続けた。


「運命には抗って、抗ってから諦めるというのも遅くはないと思うんだ」


 魔人を見逃す?


 選択肢、だな。


 普通の人間には過ぎた冒険だった。


 もう、お腹はいっぱいだぞ……。


 余生は村で過ごすのも悪くない。


 世界の命運は主人公達に任せる。


▶︎【√もうお腹いっぱいかな】


 もう少し続きを見るか?


 外を知ってしまったな。


 仲間たちは去っていく。


 後始末もあるが……俺は見送っていいのか?


▶︎【√知らない明日を見る】

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