「年貢の納めどきなんて往生際があるかよ」

「魔人だァッ!?」


「囲まれた! 後ろにも!」


 俺は前と後ろを見た。


 怪我人のがおおい集団を、魔人が挟む。


 俺たちに逃げ場所は残されてはいない。


「年貢の納めどきなんて往生際があるかよ」


 ラスピストルの赤い粒子弾が飛び交う。


 そして魔人の両腕から『エンジン』を聞く。


「嘘だろ、おい」


 魔人はただの崩壊した肉袋じゃあない!


 両腕を掘削機だとか回転鋸にサイバネ……機械化されているじゃねぇかよ!


 恐怖心を掻きたてる回転音が響く。


「OSETの遺跡が生きてるのか?」


 俺は思い当たることがあった。


 同時に、助かる手段も、だ!!


「戦えない奴ら!」


 と、俺は抜き身のグラディウスで走りながら言う。


「壁か足元に『仕掛け』を探せ!」


 俺は手当たり次第に探る。


 坑道を掘るときに苦労したはずだ。


 なんたってOSETの遺跡が埋まっているてのは、けっきょく、OSETの施設の通路に沿って掘るしかないからな。頻繁に『壁にぶつかった』はずだ。


「あった!」


 壁が崩れていた。


 垂直に硝子のようなものが立つ。


 俺は迷うことなく手をかざした。


「生きているな動いてくれよ」


 直後だ。


 小さくデジタルな文字が点滅した。


 数拍を置いて……目覚めてくれた。


『警告、人類以外の生物を検知』


「この範囲の外にいる奴らを倒してくれ!」


『防御システムの要請を受理、限定執行モードで対象を処理します』


 たったそれだけだ。


 だが、魔人が止まった。


 魔人はサイコロ状に細切れに崩れ落ちる。


 騎士や従士も何が起きたのかわからない。


 坑道の壁面が、細く、一線を描いて溶融していた。OSETの防御レーザーシステムが魔人を切断したんだ。


「ふゥ〜……危機一髪?」


 俺は魔人が崩れて油断していた。


──小石が頭に当たる。


 きしむあるいはヒビの走る音。


 崩落直前に岩がズレるような音。


 防御レーザーが、焼いちまった?


 そうなった。



「チクショー!!」


 生きてる!?


 みんなどこだ!


 俺は、叫んだ。


 返事はゼロだ。


 どうも床も抜けたらしい。


 高い場所から落ちて全身が痛い。


 気楽にレーザーなんて撃つなよ。


「イテェ……」


 グラディウスとラスピストルは無事だ。


 とうとう、鉱山でひとぼっちかよ……。


 三下ならモンスターに食われるシチュだ。


「クソが……」


 瓦礫に押し潰された魔人と目があう。


 魔人はギョロリとした目玉、太った人間の首、そして顎が外れたってのかというほど、口を開いて『人間ではない言葉か悲鳴』をあげながら首から千切れた。


 死んだんじゃあない!


 魔人が逃げる!!


 クモみたいな足を骨と僅かな筋肉でマリオネットの人形みたいに作り、目玉をカニみたいに高くあげた。


「バケモノめッ!」


 俺はまだ握っていたグラディウスを叩きつける。


 魔人の残照が醜く逃げ惑う。


 雑魚の俺を前にしてさえも。


「逃がすか!」


 俺はグラディウスを手に必死だ。


 あの野郎を絶対に逃せないのだ。


 OSETの遺跡に目もくれず走る!


「往生際の悪いッ」


 だが俺しか野郎を仕留められない。


 主人公リューリアたちは足止めされている。


 イレーヌやケルメスたちとは、分断された。


 クモかカニ擬きの肉塊野郎は今『俺にしか倒すことのできない敵』になっちまった。


「やめて」


「助けて」


「殺さないで」


 と、おぞましい肉塊は走りながら、幾つもの口で叫ぶ。人間の言葉を喋っていた。乱杭の歯、顎の無い円形の吸盤みたいな口が歌っていた。


 正気を削るような真似すんじゃねェよ!


 肉塊──魔人が蹄の足を生みだす。


 瞬く間に、数十の足が魔人の足を床から浮かび上がらせ、軽快な脚で走り始めた。


「うおッ!? ちょっと待てよ!!」


 ダメだ、追いつけない!


 ラスピストルを撃つが、外れた。


「……」


 俺は足を止めた。


 OSETの廊下だ。


 ダクト……換気扇がある。


 それに水道やらパイプも。


 長い年月の中で壊れている。


 俺は、深く、軽く、息を整えた。


 独りで戦う……か。


 嫌な最後になりそうだぜ。


 前世の最後も独りだった。


 似ているな。


 今まで運が良かったが、ここらが終点か?


 一回死んでるのに。


 もう一度死ぬと思うと怖くてたまらない。


 それでも、俺はグラディウスとラスピストルを握りしめて魔人のキルゾーンに足を進めた。


 俺は逃げたい気持ちを抑えた。


 俺は。自分自身に嘘を吐いた。


 ラグナに焼かれた腹の傷が不快なほどうずく。


 ラグナはともかく、スカーレットが移植してくれて定着した、魔力共生細菌の連中がいるんだから、まあ、あれだ、スカーレットといつでも一緒みたいなものか。


 俺はそう考えることにした。


 俺はグラディウスを握る手から力を抜く。


 一世一代で済ませたい大舞台。


 ここいらが──最後の本番だ。

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