「バカ騒ぎにして……祭りじゃないんだぞ」

「バカ騒ぎにして……祭りじゃないんだぞ」


 村では花火があげられていた。


 火薬で打ち上げられる。


 風を切る甲高い鳴きのあと、破裂した。


 学園の生徒たちが実技演習のため、坑道へと入る前の開幕式みたいもんだ。


 村人はあれこれ売りつけていた。


 学生は物珍しいものをお小遣いで買いこむ。


 演習に持ちこんでも邪魔だろうにな。


「まったく」


 と、俺は腕を組んで見守る。


 学生らが馬車に次々乗りこむ。


 坑道まではタクシー付きだ。


 騒いで、楽しげに、花まで送られて。


 学生らは戦いに行くとは思えないほど、華やかな遠足気分で村に手を振っていた。


 その中には、久しぶりに見た気がする人間モードのリューリアや、パーティーメンバーであるスカーレットとルーネもいた。


 みんな完全装備で少し緊張していた。


 俺は徒歩だ。


 馬車には学生護衛を任された騎士がいる。


 学園でとりおこなう演習の課外授業だ。


 実戦的、命懸けの演習とはいえ、万が一に備えて騎士団が帯同するという形だ。豪勢なことだ。半熟卵な学生の子守りに騎士が従士を連れてゾロゾロと。


 豪商の護衛だってこのレベルではない程だ。


 演習は当初予定通りに坑道でおこなわれる。


 騎士が何度となく魔人と血みどろしていた、曰くつきの坑道だ。学生の演習だが、坑道の掃討に利用するという側面もあったりする。


「あの男、騎士でも従士でもないのになんで?」


 と、馬車に乗る学生の声が聞こえた。


 聞こえてんぞ、お前らの護衛だよ、一応。


「ウマのクソ掃除だろ」


 学生連中、メクラドラゴンに襲われても見捨てたろか。そういう心は胸の奥へと押しこんだ。


 ピカピカに磨かれた銀色に光る鎧の騎士に比べれば……貧乏人なのは本当のこちだがな。


 騎士は自弁した武器だ。


 俺のは村の公共物だぞ。


 どうしても資金を贅沢に使うのはな。

 

 俺は、列を成している馬車を見る。


 馬車はパーティーごとに一台だ。


 その中にはリューリアのパーティーで、ルーネ、スカーレットをメンバーにしている組もいる。


 リューリアはライカン。


 ルーネは年齢詐称熟練エルフ。


 スカーレットはデバフ薄まる怪力星人。


……魔人程度、問題なく処刑しそうな雰囲気だ。


「リドリー!」


 と、演習を監督する騎士に呼ばれた。


 その騎士は馬上の人で、蹄鉄の馬脚を止めることなく言ってくる。


「森や坑道にはどんな脅威がいる!?」


 解説には駄賃とかでるのかな。


 俺が長々とガイドをしていれば目的地だ。


 鉱山の坑道だ。


 鉱山には何本もの坑道があり、鉱山周辺の村がそれぞれに掘り進んでいる。坑道と言っても洞窟が幾つもあったり、遺跡に突き当たったりで、坑道には広いものだ。


 ギルヴァンで鉱山は、正体は鉱山ではない。


 OSETの宇宙戦艦だとかが墜落して、山のように振る舞っているのだ。採掘の半分は、旧宇宙戦艦から金属資源を剥ぐ作業だ。クレーターになっているので露天掘削で露出している鉱床も大切ではあるんだけどね。


 なので鉱山は奇妙な形をしている。


 お椀を逆さにすたクレーターに、深さが桁違いなほど突き刺さっている、山になったOSETの宇宙戦艦という地形だ。


 演習に使うのは露天採掘の現場ではない。


 クレーター中心のOSETの鉱山のほうだ。


 馬車から降りた学生が急勾配のクレーターに作られた、露天採掘の足場ごとに降りていく。


「鉱山にはモンスターとかいるの?」


 と、誰かが訊いてきた。


「色々いるぞ。メクラドラゴンが有名だ。退化した目で視力は無いが、長い髭を振り回して、光が完全に無い環境で得物を探して這いまわっている。髭センサに触れれば、なんでも食べる。顎の骨が無いんだ。だから顎が左右にも割れて口が大きくなる。気をつけろ、使い魔を先行させておくんだ。見逃すほど小さい生き物じゃない」


 鉱山はそびえる。


 黒々としていて、山の感じはない。


 鋭角的、垂直の面取り、金属質な地肌は、うっすらと土の化粧をしているだけで本物んp山ではない。


 ギルヴァンではしばしばこんなのがある。


 OSETの古代遺跡だ。


 実際は宇宙戦艦の残骸だ。


 それが間近にあり、遥か深くに刺さっている、その上部だけを地上にだしていた。


 演習の始まりだ。


 学生らは二組にわかれる。


 騎士と従士なども、だな。


 俺は、リューリア班とは別行動だ。


 主人公組のいない、もう一方の側。


……ゲームだと全滅するほうだな。


 俺のなかで嫌な予感がよぎった。


 だがそんな不安を抱えても戻れない。


 俺は鉱山の仄暗い入り口を通り抜けた。

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