「事件、ですかい?」

 スカーレットとのデートの後日。


 村には見慣れない学生が増えていた頃。


 俺は騎士イレーヌに呼び出された。


 イレーヌもけっこう俺を呼ぶな!!


 そんなイレーヌだが、騎士を率いるものとは思えないクマを両目の下に飼っている。忙しそうだ。


「いや、あの……御用はなんで?」


「事件が起きている」


「事件、ですかい?」


「……人攫いだ」


「村では聞きませんが」


「王都でな」


「王都……」


「そうだ。東に50km先のな」


 メートル法て凄い一瞬で距離がわかるな?


 いやそんなバカに思考を裂くんじゃねェ!


 王都!? 俺と全然縁のない単語じゃん!


 名前くらいはギルヴァンで知っている。


 あとオドシが王都からも仕入れている。


 ドラグヘイム領域の雄でもある、大国。


 ギンヌンガ王国の王都エーテルハイム。


 ギルヴァンで王都エーテルハイムと言えば、冗談混じりではあるのだが悪名高い都である。それと言うのも主人公リューリア一行が王都に関わるのは、その全てが事件由来なのだ。


 万年、大事件が起きては大被害の都。


 ギルヴァンのゲームの中だけならば、イベントに困らない楽しい場所で住むのだが……吸血鬼に最高評議会が乗っ取られているだとか、ヴァンパイアとダンピールの死闘だとか、沼地のトロルによる婦女子誘拐だとか、悪逆の古王が復活だとか、下水道に住まうネズミやスライムの大帝国の拡大期にあるだとかは、関わりたくない。


 オドシ曰く、不穏さは増している、のだ。


「安心しろ、リドリー」


 と、イレーヌは頬のない笑顔で歯を見せる。


「王都での誘拐事件は都市警がかなり派手に取り締まってる。戦車も出ているしな。そこで犯人の一部は脱出した。村から北東へ10kmで追跡を切られている。できれば協力をしてほしいとの要請だ」


「演習で騎士団も忙しいですしね」


「耳が痛くなるがその通りだ。余計な侵入を許さないよう結界の攻撃結晶の設置が遅れている。連日の徹夜だよ。ここは思ったよりも魔力密度が低くてな。お陰で……余計な話か」


 とにかく、と、イレーヌは話を続けた。


「網を張るだけでいい。監視、報告だ。凶悪犯との戦闘は逃げろ。学生を何人か引き抜いてもいいぞ。私の名前をつかえ。それと、リューリアが行方不明だ。学生に手伝いを頼むついでに探しておいてくれ。リューリアがいないと、スカーレットが大変だからな」


「イレーヌさま、仕事増えていませんか?」


「そうか?」と、イレーヌはすっとぼけた。


「ついでだが、貴様も実戦演習にも参加するのを忘れるな。怪我を負うなということだ」


 王都から逃げている連中の阻止線てわけだ。


 まさかわざわざピンポイントで遭遇はない。


 適当な学生でも口説いてピクニックだな。


「情報では左手に傷があるのが特徴だ。そして人間の可能性は低いとの分析を覚えておいてくれ」



「スカーレット。リューリアとルーネはいるか? パーティーにクエスト出したいんだが。騎士団に請求書だ」


 俺の依頼じゃないからな!


 俺は当然のようにスカーレットに声を掛けた。


 スカーレットは行商人のオドシと話していた。ついでだが、ラグナはオドシの荷運びを手伝わされ文句を言っていた。


 スカーレット、リューリア、ルーネ。


 おまけラグナを入れて四人パーティーだ。


 強い薬品の臭い。


 仕入れたのは薬か。


 俺が治療で嗅いだことのある匂いだ。


 オドシは一応、薬学にも精通らしい。


「リドリー! それより大変なんだ!」


 と、スカーレットに手を引かれた。


 リューリアとルーネを誘いたいんだが?


 スカーレットに村の公衆広場に誘われる。


 そこには人だかりができていた。


 俺が嫌な予感を覚えたのは、人だかりの輪の外から中に向かって、見るからに新鮮な血の跡がはっきり残っていることだ。


 人だかりには村人以外もいた。


 演習に参加する学生らだろう。


「すげぇ、学生が仕留めたのは初めてか?」


「成績上げてもらえるかな!?」


 中心にいたのは……トロルの死骸だ。


 蝿が腐臭を嗅ぎつけてたかっていた。

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