「欲しい物……リドリーとの時間みたいな?」

「お手柄だったな」


 と、騎士イレーヌは村長宅でねぎらってくれた。


 正式なものとは違う。


 そっちはリューリア、スカーレット、ルーネの三人パーティーが魔人討伐の先駆けとして活躍したと叙勲を受けた。


 俺は村人なのでそういうのは無い。


 イレーヌ他からの個人的な贈り物だけだ。


 いや、充分すぎるぞ、マジでな。


「スカーレットから訊いた。貴公が追跡したのだとな。指揮を補佐したともな。しかるべき報酬を支払う」


「ありがとうございます、騎士イレーヌ」


 と、俺は素直に感謝を述べる。


 イレーヌの隣のスカーレットが自慢気だ。


 村長宅にはイレーヌだけでない。


 スカーレットも、お立ち会いだ。


 イレーヌは感謝の言葉を沢山かけてくれた。


「それとリドリー、金子を積むから、ウォーキャスター手伝ってくれ。ミスリルの雷子回路が焼けたらしい。魔人との戦いで無理をしたせいだろう、過剰魔力で飛んだともな。専門的な話はわからないから、お前とウォーキャスターで直してくれ」


 まあ……ついでにウォーキャスターが使う鎧が不調なので雷子回路──魔法の電子基盤みたいなやつだ──修理してくれとも仕事振られたが。


 いや、やるのはできるが……。


「魔人は掃討された。安心して帰れる。村もこれで安泰だろう。反対側の村には悪いことをしたな。気がつくのが早ければ魔人で全滅はしなかった」


 本当にこれで終わりなのだろうか?


 あの御殿での戦いでは大勝利だった。


 騎士団も幾らかの犠牲は出していた。


 だがそれ以上に魔人は、御殿での奇襲攻撃で大損害を出し、鉱山からは撤退した。


 事件は解決……と、言うのが結論された。


 本当にそうなのだろうか?


 御殿で、リューリアと話していた魔人。


 赤長髪の魔人は待っていたのでは?


 最初の話しあいからウォーキャスターの突入には、二階に潜ませていた大型の魔人を起こしていた。


 備えて『待っていた』んだ。


 もし──もし、もっと俺が……。



 村長宅を出て、スカーレットと一緒に村を散歩しながら話した。俺の家は少し遠いのだ。


「スカーレット。リューリアの調子とかどうだ? ルーネはともかく、俺はリューリアが心配だ。魔人の口先に凄い動揺していただろう?」


「ちょっと深刻かな。リューリアは荒っぽく物事を進めることが多いけど、けっこう繊細だから。うん、魔人と人間を結びつけて、気にしてる」


「だよなー」


 火酒でも持って行ってやろうかな。


 いや俺はリューリアに嫌われてる。


 リューリアは、スカーレットに任せよう。


 ルーネも上手くやるだろうしな。


 同じパーティーの仲間なんだし。


 俺からの贈り物を、俺の家でスカーレットに渡してしまうか。スカーレットはリューリアに届けてくれるはずだ。


「ウォーキャスターだ」


 と、スカーレットはクリーム色の髪がなびくのをおさえながら指差す。


 そこにはウォーキャスターと従士がいた。


「さっき雷子回路がどうとか言っていたけど、なにのことかな?」


 と、スカーレットは興味津々に訊く。


 訊かれて、答えるのは嫌いじゃない。


「魔力を増幅したり制御するのに、いろんな小さな部品を組み合わせるんだ。止めたり、流したりな。そういうことを機械的に纏めているのが雷子回路だよ。そうか……都でもあまり馴染みはないか?」


「うん」


 と、スカーレットはうなずく。


 ウォーキャスターなんて特殊だしな。


 異世界ファンタジーといえば剣のチャンバラだしな。ギルヴァンでもそういうふうに宣伝してる。


 ウマにまたがる勇壮な英雄で、騎士。


 勇者が聖剣グランドールで魔王を討つ。


 広大な世界を徒歩で冒険する牧歌な風景。


 ただ“それだけではない”んだ。


 賢人がいるし、宗教で禁止されているわけでもない。円頭十字教の騎士らはむしろ、推奨されているしな。


 父であり神を超えることこそ孝行!


 生涯、親の寄子は恥だとかなのだ。


 そのせいで後々普通に敵対するが……。


 話が逸れたな。


 ギルヴァンの世界は普通に科学推奨だ。


 人間の可能性を拡大しようと熱がある。


「やっぱりリドリーは学園に来るべき」


 と、スカーレットはいつぞやと同じことを言う。


 俺とスカーレットの隣をウォーキャスターの鎧と従士が通る。ちゃんと挨拶をしておいた。気さくな返事ももらう。俺はサービスに、懐の『万能通貨』をウォーキャスターとその従士に投げた。


「魔人退治、かっこよかったぜ!」


 煙草だ。


 ウォーキャスターと従士の歓声を聞けた。


「スカーレットは優しいな」


 本当にそう思う。


 俺なんかを学園に誘ってくれている。


 学園への奨学金みたいなものも、だ。


 レッドナイト家の金庫だ。


 スカーレットには小遣い感覚かしれないがありがたい。本当に。でも、俺ァやっぱり、そういう期待に耐えられる男じゃないんだ。


 誰かが思うほど俺は、何もできないんだ。


「学園といえばスカーレットは魔人討伐の功績をあげただろ。点数を稼げたんじゃないのか。成績も良くなる。リューリアやルーネもだけどな」


 あらら……。


 スカーレットはおすまし顔だ。


 ツンツンした雰囲気でクリーム色の後ろ頭しか見えない。ふわふわエアリーボブだな。


 スカーレットは功績をあげてる。


 学園の成績に反映されるだろう。


「よしッ! 今夜も贅沢に食わせてやろう。まだまだ村の美味いものを用意できるぞ。最近は食料事情が潤っているんだ」


「いらない」


「えェ〜?」


 すっぱり拒絶されると傷つく……。


 やっぱりスカーレットは野菜でかさましした料理ではなく、血のしたたる肉が好みなのか。そうなるとちょっくら、ニソククジラを狩るために猟師のおっさんから捕鯨砲を借りて、オオガマイタチに載せないとだ。


「でも、代わりにほしいものはあるかな」


「あるじゃん! なんだ、それは? 魔人を相手に二度も一緒に戦ったなかだ。村を守ってくれたも同然。気楽に言ってみろよ、スカーレット」


「安心して。ミスリル銀をうんと積まなければ買えないようなものじゃないから。むしろ、すごーくお安いかな」


「そうなのか? 品揃えは悪いが村でもそこそこ装飾品とか宝石は買えるぞ。ミスリル鉱山の近くだしな」


 スカーレットが、俺を見下ろす。


 スカーレットはやはりデカいな。


 200cmの美少女は栄養満点の食生活だ。


 髪艶もよく、重力だってへっちゃらなエアリーボブの髪、柔らかな目元は、巨人というには可愛らしい女の子だ。


 スカーレットといるとなぜか緊張も弛むしな。


「欲しい物……リドリーとの時間みたいな?」


「そんなことか。いつもやってるだろ」


「デートだよ、デート!!」


「知らないのか? 俺は村一番の『デートマスター』なんだぞ。一緒にいるだけでデートみたいなもんだ」


「ほんとかなァ……」


 と、スカーレットはくすりと笑う。


「嘘じゃないさ。村の勇者隊に訊いてみろ」


「あのお嬢さんたち!」


「俺はモテモテだから」


「なんか嫌かな……」


「冗談だ。だがデートか。良い場所かはともかく、村の近くの綺麗な場所は知ってる。もちろん安全な場所だ」


 デートか。


 前世なら胸が高鳴っていた。

 

 だが、今は高鳴らないのだ。


 ギルヴァンの最弱キャラ、スカーレット。


 背の高いのはともかくだ。


 凄く好みの『強い』美少女だ。


 なのに俺は特別な気持ちが湧かなかった。


「じゃ、明日に備えてお泊まりさせてもらうかな!」


 と、俺の家についてスカーレットに言われた。


 泊まっていかれるの?


 俺はオドシから買い漁ったエロ系をどこにしまうかのプランを超高速で組み立てていた。

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